魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
80 / 115
2-1 招かれざる客

18 生温い戦い方を

しおりを挟む
 双方出方を疑うのではなく、三人同時に動いた。

 鉄平と柚子を撃ち抜くように、付き出された両腕から浮かび上がってきた銃口が弾丸を射出する。

 対する鉄平はその射線を潜り抜け距離を詰め、一方の柚子はバックステップを踏み距離を取りながら恐らくその銃撃を回避した。

 ……そう、基本接近しての徒手空拳が戦闘スタイルの柚子だが、まずは下がる。
 相手がアンノウンで無い以上、可能であればやっておきたいプロセスがある。

 打ち合わせはしていないが、やっているのはきっとそういう事だ。
 だからその前提で鉄平も動く。

「行くぞ!」

 一気にディルバインの正面まで躍り出た鉄平は勢いよくユイを振り抜く。
 とはいえ一撃で相手を沈めるような全力攻撃ではない。勢いは良いが言わば出方を探る様なジャブ。
 それをいかなる攻撃にも対応できるだけの耐性を維持する余力を残した状態で放った。

「なんだ、先程の戦いよりも攻撃が柔いじゃないか」

 言いながら軽くバックステップをして躱したディルバインは、キーボードを打ち込むように右腕のガントレットを左手でタップする。
 すると次の瞬間には、刃渡り三十センチ程度の光のブレードが握られていた。

「先程殺さないようにと言っていたな。それを甘えだとは言わない。そういう選択を命のやり取りの場で取れる事もまた強さだ。だが申し訳ないけど、僕はその強さに付け込むよ」

 そして再び距離を詰めた鉄平の剣撃を、光のブレードで受け止める。

「こちらは全力で行かせてもらうぞ!」

 そしてそこから、ユイの速度について来れるだけのスペックを持つディルバインとの攻防が始まった。
 どちらかが剣を振るい、どちらかが受け止める。
 一進一退の攻防。
 それを行いながら、鉄平は気付く。

 ……気付き、考えるだけの余裕があった。

(悪くない……だけど動きが素人だ)

 鉄平も人の事は言えない。
 だがそれでも本当に素人だった頃と比べれば、その技量に天と地程の差がある。

 だからこそディルバインの動きをみると、ジェノサイドボックスと戦った時の自分を思い出す。
 あの頃の自分も目の前のディルバインも、手にした強大な力とある程度の身体能力で一定以上の力を得られていただけに過ぎない。

 ではその力を過信して前に出て来たのか。きっとそれは違う。
 少し前にディルバイン自身が、勝算が薄いと言っていたから。相手を欺く為に弱者のフリをするような人間ではなさそうな事は、流石に分かっているから。
 だから、そこに過信は無い。
 あったのはきっと、勇気だ。

(こんな動きで俺達二人相手に……下手したらもっと増えるかもしれねえのに前に出てきたんだ。すげえよアンタ!)

 負ける訳にはいかないが、それでも賞賛に値する。
 きっとディルバインなりに強い信念が有って、拙いながらも武器を手にしたのだ。

 ……やはり情報云々以前に。こちらが人殺しをしたくないとか以前に。
 目の前の男を死なせるような戦いはしたくないと、そう思った。

 敵ではある。
 敵ではあるが……それでも。

 だからこそ、此処までの攻撃は多少危険を伴ってでも軽い物に留めていた。
 そこから最低限やっても良い範囲を探る為に動いていたであろう柚子の準備が終わるのを待っていた。

「閉じろ」

 柚子がそう言った瞬間、ディルバインの周囲に結界が展開される。
 最初に鉄平とユイがウィザードと戦った時に柚子に張られた結界と同じ。

 そう、同じだ。
 あの時鉄平達に向けてくれた良くも悪くも生温いやり方を、今度はディルバインにぶつけるのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...