62 / 115
2-1 招かれざる客
ex 成長する生き物
しおりを挟む
杉浦一行が技術開発課を去った後、残った篠原は近くの椅子に腰を下ろして松戸に問いかける。
「それで、俺だけ残して何の用だ」
「分かっているだろう、篠原さんなら」
「……まあ、見当違いな事を考えていなければな」
篠原は重い声音で言う。
「杉浦達は事を前向きに捉えているようだが、実際はそこまで楽観的に考えられる状態ではない……そういう話だろう?」
「ご明察。その通りだ篠原さん」
そして一拍空けてから松戸は言う。
「……人間は成長する生き物だからね。上を目指す事が難しいのと同じように、底辺を維持する事もまた至難の業だよ」
前向きな言葉を、松戸は重苦しく紡いでいく。
「例えばバスケのセンスが全くない人でも、四六時中ボールに触れ続けていれば何かしら進歩はする筈だ。それが人様に見せて大きな躍進と言われる程度になるかはともかく、それでも確実に何もしていなかった頃よりは前へと進める筈だろう……杉浦君も同じだよ。彼はユイ君との契約という形で四六時中アンノウンの力を使っているようなものだ。きっと下手は下手なりに少しずつユイという特定のアンノウンを使えるようになっていく筈」
「……ああ」
「当然、それにはポジティブな側面も大きい。現状杉浦君は殆どユイ君の力を引き出せていないにも関わらず、風間妹と同程度かそれ以上の戦闘能力を保持してる。言わば既にトップクラスに居る現段階でレベル1。そこから更に躍進するんだ。きっとそう遠くない内に彼は特級の域にまで到達するよ」
だが、それは即ち負の側面を同時に持ち合わせている。
「……彼がその時、まだ彼らしさを残しているかは疑問だがね」
そう、それが最大の問題点だ。
杉浦鉄平が成長する事についての唯一の問題点はそこだ。
「時限爆弾のようなものだよ。何せ、彼がユイ君と契約を結んでいる以上きっと彼はユイというアンノウンの使い手として徐々に成長していく事になる。そうなれば同時に汚染濃度も濃くなっていくのだから」
篠原も、きっと松戸も。
杉浦鉄平の汚染濃度が増す事により世界の危機が訪れるかもしれないといった危惧はしてない。
それだけユイというアンノウンは善性の塊だ。
今更従来通りの動きができるようになった所でこちらの敵には恐らくならず、継続して力を貸してくれるであろう確信がある。
だから此処から先にあるのはあくまで一個人の問題。
自分達がウィザードに引き入れた杉浦鉄平という一個人の、自我と尊厳の話。
全体の平和と比べればあまりにも小さいが、それでも確かに大切な事の話。
「それで、俺だけ残して何の用だ」
「分かっているだろう、篠原さんなら」
「……まあ、見当違いな事を考えていなければな」
篠原は重い声音で言う。
「杉浦達は事を前向きに捉えているようだが、実際はそこまで楽観的に考えられる状態ではない……そういう話だろう?」
「ご明察。その通りだ篠原さん」
そして一拍空けてから松戸は言う。
「……人間は成長する生き物だからね。上を目指す事が難しいのと同じように、底辺を維持する事もまた至難の業だよ」
前向きな言葉を、松戸は重苦しく紡いでいく。
「例えばバスケのセンスが全くない人でも、四六時中ボールに触れ続けていれば何かしら進歩はする筈だ。それが人様に見せて大きな躍進と言われる程度になるかはともかく、それでも確実に何もしていなかった頃よりは前へと進める筈だろう……杉浦君も同じだよ。彼はユイ君との契約という形で四六時中アンノウンの力を使っているようなものだ。きっと下手は下手なりに少しずつユイという特定のアンノウンを使えるようになっていく筈」
「……ああ」
「当然、それにはポジティブな側面も大きい。現状杉浦君は殆どユイ君の力を引き出せていないにも関わらず、風間妹と同程度かそれ以上の戦闘能力を保持してる。言わば既にトップクラスに居る現段階でレベル1。そこから更に躍進するんだ。きっとそう遠くない内に彼は特級の域にまで到達するよ」
だが、それは即ち負の側面を同時に持ち合わせている。
「……彼がその時、まだ彼らしさを残しているかは疑問だがね」
そう、それが最大の問題点だ。
杉浦鉄平が成長する事についての唯一の問題点はそこだ。
「時限爆弾のようなものだよ。何せ、彼がユイ君と契約を結んでいる以上きっと彼はユイというアンノウンの使い手として徐々に成長していく事になる。そうなれば同時に汚染濃度も濃くなっていくのだから」
篠原も、きっと松戸も。
杉浦鉄平の汚染濃度が増す事により世界の危機が訪れるかもしれないといった危惧はしてない。
それだけユイというアンノウンは善性の塊だ。
今更従来通りの動きができるようになった所でこちらの敵には恐らくならず、継続して力を貸してくれるであろう確信がある。
だから此処から先にあるのはあくまで一個人の問題。
自分達がウィザードに引き入れた杉浦鉄平という一個人の、自我と尊厳の話。
全体の平和と比べればあまりにも小さいが、それでも確かに大切な事の話。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる