魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
59 / 115
2-1 招かれざる客

2 適応

しおりを挟む
(しっかし本部からの監査ねぇ……)

 あれから篠原と少し話をした後、鉄平はユイの待つ食堂に足取りを向けた。
 午後からの訓練はユイも参加するから合流しなければいけない。

 そしてユイの事を考えながら思う。

(正直本部の人に見られてマズい物は無いけど……逆に今の現状を見てどう思うかな)

 今の現状。
 それはなにも、問題を起こさずにこちらの味方をしてくれているなんて、当然のような事だけで構成されている訳ではない。

 杉浦鉄平はこの一ヵ月半近くでウィザードとして覚えておかなければならない知識を詰め込み、四級のウィザードになった。
 ではユイは。

「ユイは今何やってんだ?」

 食堂に戻ってきた鉄平はユイに声かける。

「お帰りじゃ鉄平。ちょっと隙間時間に確認しておきたい資料があっての」

 ユイはタブレットで何かを閲覧しながら、砂糖たっぷりのコーヒーを口にしてそう言った。

「資料……か。見てもさっぱり分からねえや」

「まあ専門的な事しか書かれていないからの」

「すげえ専門家みたいな事言うじゃん。というか専門家か」

「いやいやそんな事は無いのじゃ。ワシなんてまだまだ……」

 ユイはドヤ顔を浮かべながらそう言った。
 ……実際ドヤ顔を浮かべられるだけの事を、ユイはやっている。

 鉄平がウィザードになった直後、ユイの力を使わない範囲でのトレーニングや事務作業を行っている間、暇になるユイは管理局の人からこの世界の事について学んでいた。

 そして天才肌なのか吸収速度が物凄いユイはその辺りの一般常識などはほぼ完全にマスターし、結果今日の午後から行うような類の訓練が無い時は基本手が空く事になった。

 勿論有事の際にはその力を存分に借りる事になる為、そこに居てくれるという事がとても大事なので適当に時間を潰してもらえれば良かったのだが……ユイは真面目なのだ。

 だから5月上旬のある時、こんな会話があった。



「ワシに何かできる事はあるかの?」

「出来ること?」

「ほら、何かあるまで待機とは言われておるが……そう毎日何かある訳じゃないじゃろう。そもそも有ったら困るし……そうなったらワシ本当に何もしてないのじゃ! これあれじゃよ。ただ飯食らいというか……そう、アレじゃ! ニートって奴じゃ! そういうの良くないのじゃ!」



 ……で、篠原や神埼に相談したところ、丁度人手が足りない部署がある事を教えられた。

 技術開発課だ。

 主にウィザードの装備の開発やメンテナンスを担当している部署な訳だが、シンプルに人手が足りなかったらしい。
 だから少し雑用などを手伝う事になった訳だが……。

「……やっぱりこれ此処の回路は元の仕様に戻した方が出力安定しそうじゃな。それで生じるエラーは……この前の奴の応用で行けるか。うん、トライ&エラーじゃな。一応課長に連絡だけしておくかの」

「……」

 ……これ本当に雑用なのだろうか?
 
(……明らかにエンジニアの一員になってるんだけど)

 まあそれは別に良い。
 ユイは本当に何でも吸収する意欲もセンスもあって本当に優秀で。
 だからそんなユイが自分には全く理解できない方面で活躍しているという事は素直に尊敬するし、活躍できる場がある事も本当に良い事だと思う。

 思うが……なんかこう、思っていたのと違う。
 着地点が斜め上過ぎる。

(……これ見て本部の人どう思うんだ)

 安全だとか危険だとか、そういう事を超越した事になっている気がしてならない。

「で、鉄平の方はどうだったのじゃ? 篠原さん何の話じゃった?」

「いや、大した話じゃ無かったよ」

「ならよかったのじゃ。わざわざ鉄平だけ呼び出されるから何かやらかしたのかと」

「まさかそんな風間姉妹じゃあるまいし」

「おーい聞こえてるっすよー」

 ……とにかく、少なくとも半月でのユイの変化と比べれば、結構ちっぽけな話だとは思う。

「おーい訂正するっすよ。おーい」

 ユイはもうこちらの世界の人間よりもよっぽど立派な人間をやっていると、そう思うから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華
ファンタジー
 愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。  白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。  すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。  転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。  うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。 ・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。  ※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。 ・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。 沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。 ・ホトラン最高2位 ・ファンタジー24h最高2位 ・ファンタジー週間最高5位  (2020/1/6時点) 評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m 皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。 ※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...