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2-1 招かれざる客
2 適応
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(しっかし本部からの監査ねぇ……)
あれから篠原と少し話をした後、鉄平はユイの待つ食堂に足取りを向けた。
午後からの訓練はユイも参加するから合流しなければいけない。
そしてユイの事を考えながら思う。
(正直本部の人に見られてマズい物は無いけど……逆に今の現状を見てどう思うかな)
今の現状。
それはなにも、問題を起こさずにこちらの味方をしてくれているなんて、当然のような事だけで構成されている訳ではない。
杉浦鉄平はこの一ヵ月半近くでウィザードとして覚えておかなければならない知識を詰め込み、四級のウィザードになった。
ではユイは。
「ユイは今何やってんだ?」
食堂に戻ってきた鉄平はユイに声かける。
「お帰りじゃ鉄平。ちょっと隙間時間に確認しておきたい資料があっての」
ユイはタブレットで何かを閲覧しながら、砂糖たっぷりのコーヒーを口にしてそう言った。
「資料……か。見てもさっぱり分からねえや」
「まあ専門的な事しか書かれていないからの」
「すげえ専門家みたいな事言うじゃん。というか専門家か」
「いやいやそんな事は無いのじゃ。ワシなんてまだまだ……」
ユイはドヤ顔を浮かべながらそう言った。
……実際ドヤ顔を浮かべられるだけの事を、ユイはやっている。
鉄平がウィザードになった直後、ユイの力を使わない範囲でのトレーニングや事務作業を行っている間、暇になるユイは管理局の人からこの世界の事について学んでいた。
そして天才肌なのか吸収速度が物凄いユイはその辺りの一般常識などはほぼ完全にマスターし、結果今日の午後から行うような類の訓練が無い時は基本手が空く事になった。
勿論有事の際にはその力を存分に借りる事になる為、そこに居てくれるという事がとても大事なので適当に時間を潰してもらえれば良かったのだが……ユイは真面目なのだ。
だから5月上旬のある時、こんな会話があった。
「ワシに何かできる事はあるかの?」
「出来ること?」
「ほら、何かあるまで待機とは言われておるが……そう毎日何かある訳じゃないじゃろう。そもそも有ったら困るし……そうなったらワシ本当に何もしてないのじゃ! これあれじゃよ。ただ飯食らいというか……そう、アレじゃ! ニートって奴じゃ! そういうの良くないのじゃ!」
……で、篠原や神埼に相談したところ、丁度人手が足りない部署がある事を教えられた。
技術開発課だ。
主にウィザードの装備の開発やメンテナンスを担当している部署な訳だが、シンプルに人手が足りなかったらしい。
だから少し雑用などを手伝う事になった訳だが……。
「……やっぱりこれ此処の回路は元の仕様に戻した方が出力安定しそうじゃな。それで生じるエラーは……この前の奴の応用で行けるか。うん、トライ&エラーじゃな。一応課長に連絡だけしておくかの」
「……」
……これ本当に雑用なのだろうか?
(……明らかにエンジニアの一員になってるんだけど)
まあそれは別に良い。
ユイは本当に何でも吸収する意欲もセンスもあって本当に優秀で。
だからそんなユイが自分には全く理解できない方面で活躍しているという事は素直に尊敬するし、活躍できる場がある事も本当に良い事だと思う。
思うが……なんかこう、思っていたのと違う。
着地点が斜め上過ぎる。
(……これ見て本部の人どう思うんだ)
安全だとか危険だとか、そういう事を超越した事になっている気がしてならない。
「で、鉄平の方はどうだったのじゃ? 篠原さん何の話じゃった?」
「いや、大した話じゃ無かったよ」
「ならよかったのじゃ。わざわざ鉄平だけ呼び出されるから何かやらかしたのかと」
「まさかそんな風間姉妹じゃあるまいし」
「おーい聞こえてるっすよー」
……とにかく、少なくとも半月でのユイの変化と比べれば、結構ちっぽけな話だとは思う。
「おーい訂正するっすよ。おーい」
ユイはもうこちらの世界の人間よりもよっぽど立派な人間をやっていると、そう思うから。
あれから篠原と少し話をした後、鉄平はユイの待つ食堂に足取りを向けた。
午後からの訓練はユイも参加するから合流しなければいけない。
そしてユイの事を考えながら思う。
(正直本部の人に見られてマズい物は無いけど……逆に今の現状を見てどう思うかな)
今の現状。
それはなにも、問題を起こさずにこちらの味方をしてくれているなんて、当然のような事だけで構成されている訳ではない。
杉浦鉄平はこの一ヵ月半近くでウィザードとして覚えておかなければならない知識を詰め込み、四級のウィザードになった。
ではユイは。
「ユイは今何やってんだ?」
食堂に戻ってきた鉄平はユイに声かける。
「お帰りじゃ鉄平。ちょっと隙間時間に確認しておきたい資料があっての」
ユイはタブレットで何かを閲覧しながら、砂糖たっぷりのコーヒーを口にしてそう言った。
「資料……か。見てもさっぱり分からねえや」
「まあ専門的な事しか書かれていないからの」
「すげえ専門家みたいな事言うじゃん。というか専門家か」
「いやいやそんな事は無いのじゃ。ワシなんてまだまだ……」
ユイはドヤ顔を浮かべながらそう言った。
……実際ドヤ顔を浮かべられるだけの事を、ユイはやっている。
鉄平がウィザードになった直後、ユイの力を使わない範囲でのトレーニングや事務作業を行っている間、暇になるユイは管理局の人からこの世界の事について学んでいた。
そして天才肌なのか吸収速度が物凄いユイはその辺りの一般常識などはほぼ完全にマスターし、結果今日の午後から行うような類の訓練が無い時は基本手が空く事になった。
勿論有事の際にはその力を存分に借りる事になる為、そこに居てくれるという事がとても大事なので適当に時間を潰してもらえれば良かったのだが……ユイは真面目なのだ。
だから5月上旬のある時、こんな会話があった。
「ワシに何かできる事はあるかの?」
「出来ること?」
「ほら、何かあるまで待機とは言われておるが……そう毎日何かある訳じゃないじゃろう。そもそも有ったら困るし……そうなったらワシ本当に何もしてないのじゃ! これあれじゃよ。ただ飯食らいというか……そう、アレじゃ! ニートって奴じゃ! そういうの良くないのじゃ!」
……で、篠原や神埼に相談したところ、丁度人手が足りない部署がある事を教えられた。
技術開発課だ。
主にウィザードの装備の開発やメンテナンスを担当している部署な訳だが、シンプルに人手が足りなかったらしい。
だから少し雑用などを手伝う事になった訳だが……。
「……やっぱりこれ此処の回路は元の仕様に戻した方が出力安定しそうじゃな。それで生じるエラーは……この前の奴の応用で行けるか。うん、トライ&エラーじゃな。一応課長に連絡だけしておくかの」
「……」
……これ本当に雑用なのだろうか?
(……明らかにエンジニアの一員になってるんだけど)
まあそれは別に良い。
ユイは本当に何でも吸収する意欲もセンスもあって本当に優秀で。
だからそんなユイが自分には全く理解できない方面で活躍しているという事は素直に尊敬するし、活躍できる場がある事も本当に良い事だと思う。
思うが……なんかこう、思っていたのと違う。
着地点が斜め上過ぎる。
(……これ見て本部の人どう思うんだ)
安全だとか危険だとか、そういう事を超越した事になっている気がしてならない。
「で、鉄平の方はどうだったのじゃ? 篠原さん何の話じゃった?」
「いや、大した話じゃ無かったよ」
「ならよかったのじゃ。わざわざ鉄平だけ呼び出されるから何かやらかしたのかと」
「まさかそんな風間姉妹じゃあるまいし」
「おーい聞こえてるっすよー」
……とにかく、少なくとも半月でのユイの変化と比べれば、結構ちっぽけな話だとは思う。
「おーい訂正するっすよ。おーい」
ユイはもうこちらの世界の人間よりもよっぽど立派な人間をやっていると、そう思うから。
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