魔剣拾った。同居した。

山外大河

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2-1 招かれざる客

1 監査

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「すまないな。食事時に呼び出して」

「いいですよ。食い終わってたんで……何ですか話って」

 五月下旬のとある日の異界管理局にて。
 食堂にて昼食のカツ丼を食べ終わった位のタイミングで篠原に呼び出され、食堂から少し離れた人気の無い休憩室へとやって来た鉄平はそう問いかける。

「まあその辺適当に座ってくれ。ああ、あと食後のコーヒーでもどうだ。ブラックで良かったな?」

「あ、別に大丈夫ですよ、なんか悪いですし」

「いやいや休憩時間に態々来て貰っているんだ。この位出すさ……飲みながらゆっくり話そう」

 そう言って自販機でブラックの缶コーヒーを買ってくれた篠原は、それを鉄平に手渡してから対面に座る。
 そして元々買ってあった自分のブラックコーヒーを一口飲んでから言った。

「今から話す事は此処だけの秘密にしておいてくれ」

「あ、はい…………ユイの事ですか?」

「ご明察。良く分かったな」

「態々俺一人を呼び出したって事はつまりそういう事なのは分かります。ユイが関係無きゃ俺なんて一般四級ウィザードですから」

「ああ、そうだ。四級昇格おめでとう」

「研修帰還終われば五級から自動昇格なんですから、そんなにめでたい物でもないですよ」

「いや、そんな事はないさ……ウィザードになる経緯も動機も特殊な杉浦が此処まで継続してウィザードをやれている。そして自動的に昇進しても良いという判断が下された。それは他の新入りのウィザードよりも遥かに大切な一歩だと俺は思う。当たり前の事じゃないんだ」

「……まあ、そうですね」

 まずウィザードになったという事自体が特殊事例なのだ。それを維持する事は言われてみれば当たり前の事ではないのかもしれない。
 それこそ自分達の意思だけで成せる事では無いだろうから。
 まあそれはそれで安堵しておくとして。

「それで篠原さん。本題の方は?」

「ああ、すまない。話が逸れたな。本題に行こうか」

 篠原は一拍空けてから言う。

「近々東京本部の方から監査員が来る」

「監査員……ですか?」

「ああ。キミやユイの実態を直接調べるつもりだろうな」

「調べるって……アレですか? 本当に大丈夫かどうかみたいな。今更過ぎません? もう一月半ですよ俺達が世話になり始めてから」

 北陸支部と本部の方でそれなりにモメたというのは聞いている。
 だけど主にジェノサイドボックスの一件が結果的に優位に働き、こうして鉄平が四級に上がれているようにある程度の信頼を得られていると思っていた。
 それなのにこのタイミングで。

 そして少々マズい事になっている気がする中で、特に大きな問題だと思っていないのか平常心を保つように表情を崩さず篠原は言う。

「そう、今更だ。というのも向うにしてみれば今回の監査は本命の手段が実行できないから仕方なくやる感じだろうからな。つい最近まで本命の方で動くつもりだったんだろう」

「……本命?」

「実は早い段階から杉浦とユイを東京本部に連れてくるように言われていたんだ」

「……マジですか?」

「ああ。だがそれはうまく躱し続けた。敵なんて言葉は使いたくは無いが、敵の本丸に無防備に連れて行く訳にはいかないからな」

「一応本部の方が立場って上なんですよね。しれっと凄い事言って無いですか?」

「やれる事は全部やったさ」

「ほんとありがとうございます」

「……いや、良い。最初からそのつもりでキミらを此処に招いたんだ。最後まで責任は持つさ」

 そう言って笑みを浮かべた篠原に鉄平は問いかける。

「……ちなみにそれ、行ってたら結構ヤバイ事になってたんですかね?」

「そうなる可能性はある。何せ杉浦が四級に昇格してまで……つまり本部がそれを受諾する段階になってまで動いているような連中だ。決して悪い奴らという訳ではないが……キミ達。特にユイにとっては危険な相手だ」

「……そんな相手が今回北陸支部に来る」

「ああ。そういう風に動いてくれた」

 その動きをどこか安堵するように篠原は言う。

「動いてくれたってどういう事ですか?」

「北陸支部は俺達のホームだ。この問題に決着を付けるには有利な舞台だとは思わないか? ようやく痺れを切らしてくれたんだ」

 この時を待っていたという風に篠原はそう言った。

「此処なら下手な動きをさせないって事ですか」

「そういう事だ。そして俺達は別に疚しい事をしている訳じゃない。ありのままの状態で既にこちらにとって都合の良い情報を、本部の人間に持ち帰ってもらう」

「それがうまく行けばユイの安全が今よりも担保される」

「そういう事だ」

「め、滅茶苦茶大事なミッションだこれ……」

 別に現時点でユイの安全が脅かされているような事は無い。
 だけどそれはきっと不安定な地盤の上に成り立っているようなもので、もしそれを強固にできるのであれば是非ともやっておきたい事だ

 ……そんなある種の戦いが、直近にある。
 それは分かったのだが、いくつか分からない事が

「ちなみに誰にも言うなってのは? というかこの話誰が知ってます?」

「現状俺と、最低限知っておいた方が良いと独断で判断した杉浦だけだ……まあ円滑に事を進める為に神崎にも後で伝えようとは思うが」

「え、じゃあ当日まで俺と篠原さんと神崎さんだけなんでですか? なんで?」

「改めてだが別に俺達は疾しい事をしている訳じゃない。だから色々と問題のある企業が家宅捜索を受けたりするのとは違うんだ。隠すような物は無い。寧ろ変な緊張感を持たせるとありのままから外れて余計な疑念を監査員に持たれる可能性がある」

「……確かに。こういう事があるからいつも通り過ごせよって言っても、それはそれで変な緊張とかしそうだしなユイ」

「それに変な暴走をしそうな者が約二名いる」

「柚子と風間さんですか?」

「……ノーコメントで頼む」

「あ、はい……」

 表情の変化を見る限り間違いなさそうだが、その話は流石に掘り下げる気は無かった。

「それに今回監査があるというのは、当然俺の耳に入っていてはいけない事なんだ。そういう意味でも下手なボロは出せない」

「そうだ、なんで篠原さんはそういう事があるのを知ってるんですか?」

「個人的にある程度のパイプは持っているつもりだ。当然本部にもな。だがそれ以上に……敵もいるが味方もいるという訳だ」

「味方……」

 そして篠原は、鉄平の目を見て言う。

「それだけ杉浦がちゃんと四級に上がって来れたというのは。上がって来れるような事をしてきた事実は大きいという事だ。俺が得た情報は杉浦達が掴んだんだ」
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