魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
53 / 115
1-EX 日常編(春)

4 彼と彼女の日常についての調査 中

しおりを挟む
「普通に凄く美味しくて反応に困るっすね」

「困るなよ、普通に美味しいで良いじゃねえか」

「というか店出せるレベルっすよ。これ飲食店ワンチャンどうっすか」

「やだよ公務員に奇跡の転職果たしたばかりだぜ俺」

 ささっと作ったレタス炒飯。
 何はともあれ大満足してもらえたようだ。

「鉄平の作る料理で今のところハズレは一度も無いからの。昨日の晩御飯も美味しかったのじゃ」

「へー、ちなみに昨日の晩御飯なんだったの?」

「ハンバーグじゃ!」

「頑張って作った」

「ちゃんと手作りっすね……って事は杉浦さん元から結構自炊するタイプでした?」

「まあ自炊した方が安いからな。でもハンバーグとかは久し振りに作ったわ。正直自分一人だとぱぱっと簡単に作れる物中心になってたし。それこそ炒飯とかな」

「なるほど……それでこんな神がかった代物を……」

「えっと……そこまでか?」

「そこまでっすよ。マジでうめーっす。この一食に関しては完敗っすね。作る前から分かるっす。でも……次は負けないっすよ。今度は違う料理で」

「え、何? なんで料理対決みたいなノリになってんの」

「負けっぱなしは嫌なんで。その時はユイちゃん、審査員よろしくっす」

「ま、そこまで頼まれたら仕方ないのぅ」

「そこまで熱く頼んではねえだろ。食いたいだけじゃんお前」

「そうとも言うのじゃ」

 ……とまあそんな風に食に興味がある食べ盛りのキッズが杉浦家にはいる訳で。

「まあとにかく、今は簡単な物以外も色々作るようには心掛けてる。自炊のモチベーション高いしな……自分以外に喜んで食ってくれる奴がいるとよ」

「まあその気持ちは分かるっすよ。私も食事当番の日はお姉ちゃんのご飯も作ってるし」

 というか、と苦笑いを浮かべて柚子は言う。

「お姉ちゃんが食事当番の日も結構な割合で私が作ってるし」

「なんか……大変だな」

「お疲れ様じゃな」

 色々と想像が付く。

「まあお姉ちゃん、やる時しかやらないからね……ははは。やる時が凄い分バランスが取れてるかも」

「ジェノサイドボックスの時の風間さんがやる時の風間さんだったらバランスを取るととんでもない事になりそうだな」

「なるよ。普段の仕事っぷり云々通り越して、私生活も抜けてる上に駄目人間っすよ」

「実の妹にそこまで言われるのかよあの人」

「実の妹だからっすよ。距離が近い分、良いとこも悪いとこも忖度無しで見えるっすからね」

 そう言う柚子は苦笑いを浮かべながらも、その声音に悪意などが込められているようには聞こえない。

(ほんと、良くも悪くもバランスが取れてるんだろうな)

 仕事でも私生活でも。

 きっと誰だってそうだ。
 誰にだって良いところと駄目な所があって、少しの情報だけでその人の事を図れはしない。
 大体誰だってしっかりと付き合ってみれば、良いところと悪いところで良い感じにバランスが取れている物だ。

 ……大体は。
 多分少し前までの杉浦鉄平のような人間は除いて。

 と、そこでインターホンが鳴り響いた。

「ん、宅配便か?」

「鉄平」

「よしきた」

 そう言って自然な流れで鉄平はユイとじゃんけんをする。

 鉄平がグーでユイがチョキだ。

「うわ、負けたのじゃ」

「新聞か宗教の勧誘だったら追い返すから呼んでくれ」

「分かったのじゃ」

 そう言ってユイは立ち上がり、パタパタと玄関へと向かっていく。

「凄い馴染んでるっすね」

「適応力すげえよアイツ。この手の展開でありそうなタイプの苦労とかは殆んどねえ」

「へー、そりゃ良いっすね。そういやご近所さんとかともうまくやれてるっすか?」

「まあな。その辺大丈夫かなとか、最悪引っ越しとかも考えてたんだけど、概ね受け入れて貰ってる」

 最初に篠原が家に訪ねてきた時、事前に近隣住民の避難を行っていたらしく、鉄平がアンノウンと関わっていた事は把握していて。
 その時もそうだったらしいが、厄介者扱いされるのではなく基本皆が心配してくれていて。

 監理局の方も鉄平がユイを連れて帰宅する事を見越してか住民説明を行ってくれていたらしく、結果本当に何の問題も無かった。

 その辺は本当に受け入れてくれた方々に感謝である。

 だからそっちは特に問題は無い。
 ……そっちは。

「問題は俺の友人の方だよ」

「ん? なんかあったんすか?」

「近所に住んでる奴もいたからお前らとの戦いの事も知ってる奴いて、あとこの前のジェノサイドボックスの現場でも俺の事見掛けた奴もいてな。そういう事もあってこの前家を訪ねてきた奴が居てよ……当然ユイがいるのも見てる訳で」

「ふむふむ」

「……気が付いたらグループラインでのあだ名がロリコン大魔王になってた」

「おぉ……」

「それじゃ長いからって今じゃロリ王に……いや、みんな当たり強くねえし一過性のネタだって事は分かるんだけど……」

「そりゃ大変っすね。可哀想にロリ王……」

「お前ほんとたまに突然トゲのある事言うよなぁ!」

「あ、こういうの不快だったらすぐ止めるっすよ。大丈夫なタイプの人かなって勝手に判断して言ってるっすけど一応……」

「いやマジで不快だったらキレて追い出してるって。寧ろ変に畏まられるより接しやすくて良いと思うぜ俺は」

「なら良かったっす。ああでもライン越えてたら普通にキレて下さいっすよ。普通に私謝るんで」

「思いきりが良いのか慎重なのか分かんねえなお前……アクセルもブレーキも急すぎるだろ」

「あ、ところで杉浦さん私の事風間って読んでるっすけど、結局さんを取ってもお姉ちゃんと被ってややこしい気がするんで普通に名前で読んで貰っていいっすよ」

「お、おう。じゃあ柚子で」

「これが一番しっくりくるっすね。あ、そういえばやって無かったっすけど、ライン交換します? こんど料理勝負もするんで」

「マジでやるんだ……まあ良いか。交換しとこう」

「マジで良い感じの料理できたら送り付けてプレッシャー与えてやるっすよ」

「その時はエグいカウンター打ち込んでやるよ」

 そう言いながらスマホを取り出し、操作をしながら思う。

(それにしても風間の……いや、柚子の距離の詰め方、これ絶対クラスの男子とかで変な勘違いしてる奴絶対居るだろ……俺は大人だから大丈夫だけど高校生なら危なかった。強く生きろクラスメイト)

 なんか紆余曲折の末に可哀想な事になっている顔も知らないクラスメイトイメージを浮かべているところで、小さめのダンボールを手にしたユイが戻ってきて、ジト目を向けて言う。

「……なんかワシがおらん間にイチャついておる」

「「……?」」

 ユイはこちらに聞こえないような小さな声で何かを呟いた後、柚子の全身をゆっくりと見てから言う。

「姉程ではないが……もしかして柚子もワシの敵じゃないか?」

「おいお前一体何したんだよ」

「いやしてない何もしてないっす! ……というかお姉ちゃん何やった!」

「あ、そういう事では無いのじゃ……ワシ個人としては二人とも好きじゃよ」

「「……?」」

 結局ユイが何を言いたいのか分からず、鉄平と柚子は首を傾げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華
ファンタジー
 愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。  白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。  すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。  転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。  うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。 ・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。  ※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。 ・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。 沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。 ・ホトラン最高2位 ・ファンタジー24h最高2位 ・ファンタジー週間最高5位  (2020/1/6時点) 評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m 皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。 ※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...