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1-3 新しい日常 新しい非日常
ex 最悪な未来の考察
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「それじゃあお疲れ様です」
「また明日なのじゃ!」
帰宅する杉浦鉄平とユイを見送った後、残った三人もそれぞれ動き出した。
「じゃあ私は篠原さん達のところに合流して色々話してくるんで。神崎さん、お姉ちゃんの事よろしくっす」
「え、柚子それ逆じゃない? 怪我の度合い的に任せるの逆じゃない?」
「逆じゃないよ」
「逆じゃないかぁ……」
徐々に真面目で張りつめた雰囲気から、普段色々とやらかし続けているポンコツな雰囲気に戻りつつある杏が肩を落としてそう呟くのを聞きながら神崎は言う。
「こっちの事は任せとけ。そっちはそっちで頼むぞ」
「了解っす! じゃあお姉ちゃん、無事帰って来れたらまた後で。神崎さんもお疲れ様っす」
そう言って再びショッピングモールの中に戻っていく柚子を見送った後、二人も自然と医務班が控えている場所へと向かう事にした。
その道中、神崎が言う。
「……そうだ、これ渡しておきます」
差し出したのは先程ユイから預かったエネルギーの塊だ。
「俺が持っていてもどうすることも出来ないんで……実際、ユイが言っていたような事って出来るんですか?」
「これを被害者の人達に戻すって話だよね。残念だけどそれは難しいかな。そんなに簡単な事じゃないよ」
神崎からその塊を受け取った杏は手に取ったそれを眺めるように静まり返ってから、やがてゆっくりと口を開く。
「……白状するとね、あの時私が皆の前に現れたのは、アドバイスをする為に頃合いを見て出てきた訳じゃない。最悪の場合を想定してあそこまで足を運んだんだ」
「ジェノサイドボックスを俺達が倒せなかった場合……ってだけじゃないんですよね」
「うん」
小さく頷いてから杏は言う。
「私にとって最悪をもたらしかねない脅威はもう一人居たからね」
「でも結局その必要は無くなった」
「そうだね……今のユイちゃんは最悪をもたらす脅威じゃない。なんか救われちゃったな」
「実際、杉浦とユイがあの場に居なかったら最後の作戦を全部アンタの妹に任せないといけなくなっていた。そうなっていたら結果どうなっていたか分かりませんよ。文字通り救われてます」
「うん。でもそれだけじゃない」
杏は一拍空けてから言う。
「自分勝手な考えかもしれないけどね……あの時の私の行動は結果的に失敗しただけで、間違ってなんかいなかったんだって。ちょっとだけあの時の自分を肯定できた。していいのかは分からないけど」
「良いんじゃないですか、そこは前向きに考えても」
そう言いながら、神崎も安堵する。
たとえなんとかしてやりたいと思っても、あの一件で彼女が負った心の傷を自分がどうにかしてやる事はできない。できなかった。
それをユイの存在が結果的にうまく彼女を良い方向へと導いてくれた。
自分がどうしてもうまく出来なかったことをやってくれた。
だから安堵はするし感謝もする。
自分達の元にいてくれて本当に良かったと、そう思う。
……自分よりもあらゆる意味でよっぽど役に立っているのだから。
おそらく、この先も。
「そうだね。じゃあ前向きに考えよう」
少し後ろ向きな気分になる神崎とは裏腹に、前向きな明るい声音でそう言う杏。
それでも少し間を空けてから、真剣な声音で神崎に言う。
「それでも前向きに考えられる事は私個人の事だけかもね」
「というと?」
「マコっちゃんはどう思う? 最近多いよね、アンノウンが表に出てくる事が」
「……ええ、確かに」
そう頷く神崎。
杏の言う通りここ数ヶ月、世界的にアンノウンがダンジョンに飛ばされずに表に出てくる事が多い気がする。
勿論極端にではなく、あくまで気がするという曖昧な言葉を使う程度の話。
だが昨日がユイで今日がジェノサイドボックス。
自分達の管轄でこうも危険度の高いアンノウンの出現が続くと嫌でも強く意識してしまう。
「でも偶然じゃないですかね……確かに色々とあって意識はしますけど」
数ヶ月単位の話なので今日の管理課の様子がおかしかった事などは関係がなく、だとすれば多くなる理由が分からない。
……否、分かりたくなかっただけかもしれない。
「だと良いんだけど、最悪の事態は想定しておかなければいけないね」
杏は一拍空けてから言う。
「もしかしたらダンジョンに何かしらの脆弱性があるのかもしれない。それを異世界側に突かれている……とかね」
そんな考えられる限り最も最悪に近い事を。
「……だとしたら大変な事ですよ」
「そうだね。だとしたら大変な事になる。この世界の平和はダンジョンが正常に動いている上で成り立っているからね。放置=現実的に世界の終わりが見えてくる」
「……」
「だからもし私の仮説が有っていたら、いずれは潜らないといけなくなるかもしれない……脆弱性を潰す為のアップデートをする為に、ダンジョンにね」
「……ですね」
そうなれば過去最悪に危険な作戦となるだろう。
ダンジョンの内部はこの世の地獄と言っても過言ではない程に劣悪な場所になっているから。
世界に危機をもたらすアンノウンが押し込められた場所だから。
そして杏は言う。
「だからマコっちゃんももっと強くなってよ。何事もなければそれまでだけどさ……もしそうなったときに死なないように」
「……」
「篠原さん……いや、柚子やユイちゃんを武器にした杉浦君。ううん、こうなる前の私に負けない位に……お願いだから」
杏は血塗れの神崎に視線を向けながらそう言った。
「善処しますよ」
それに対し自分を鼓舞するようにそう答える。
既にやれる事はやれるだけやっていて。
そして今話していた最悪な事態になる前からこうして死にかけている自分が、そうなれるビジョンはまるで見えてこないけど。
それでもかつて自分の命を救ってくれた、憧れの人の役に少しでも立てるように。
失望されないように。
無能なりにもっと頑張ってみようと、そう思った。
「また明日なのじゃ!」
帰宅する杉浦鉄平とユイを見送った後、残った三人もそれぞれ動き出した。
「じゃあ私は篠原さん達のところに合流して色々話してくるんで。神崎さん、お姉ちゃんの事よろしくっす」
「え、柚子それ逆じゃない? 怪我の度合い的に任せるの逆じゃない?」
「逆じゃないよ」
「逆じゃないかぁ……」
徐々に真面目で張りつめた雰囲気から、普段色々とやらかし続けているポンコツな雰囲気に戻りつつある杏が肩を落としてそう呟くのを聞きながら神崎は言う。
「こっちの事は任せとけ。そっちはそっちで頼むぞ」
「了解っす! じゃあお姉ちゃん、無事帰って来れたらまた後で。神崎さんもお疲れ様っす」
そう言って再びショッピングモールの中に戻っていく柚子を見送った後、二人も自然と医務班が控えている場所へと向かう事にした。
その道中、神崎が言う。
「……そうだ、これ渡しておきます」
差し出したのは先程ユイから預かったエネルギーの塊だ。
「俺が持っていてもどうすることも出来ないんで……実際、ユイが言っていたような事って出来るんですか?」
「これを被害者の人達に戻すって話だよね。残念だけどそれは難しいかな。そんなに簡単な事じゃないよ」
神崎からその塊を受け取った杏は手に取ったそれを眺めるように静まり返ってから、やがてゆっくりと口を開く。
「……白状するとね、あの時私が皆の前に現れたのは、アドバイスをする為に頃合いを見て出てきた訳じゃない。最悪の場合を想定してあそこまで足を運んだんだ」
「ジェノサイドボックスを俺達が倒せなかった場合……ってだけじゃないんですよね」
「うん」
小さく頷いてから杏は言う。
「私にとって最悪をもたらしかねない脅威はもう一人居たからね」
「でも結局その必要は無くなった」
「そうだね……今のユイちゃんは最悪をもたらす脅威じゃない。なんか救われちゃったな」
「実際、杉浦とユイがあの場に居なかったら最後の作戦を全部アンタの妹に任せないといけなくなっていた。そうなっていたら結果どうなっていたか分かりませんよ。文字通り救われてます」
「うん。でもそれだけじゃない」
杏は一拍空けてから言う。
「自分勝手な考えかもしれないけどね……あの時の私の行動は結果的に失敗しただけで、間違ってなんかいなかったんだって。ちょっとだけあの時の自分を肯定できた。していいのかは分からないけど」
「良いんじゃないですか、そこは前向きに考えても」
そう言いながら、神崎も安堵する。
たとえなんとかしてやりたいと思っても、あの一件で彼女が負った心の傷を自分がどうにかしてやる事はできない。できなかった。
それをユイの存在が結果的にうまく彼女を良い方向へと導いてくれた。
自分がどうしてもうまく出来なかったことをやってくれた。
だから安堵はするし感謝もする。
自分達の元にいてくれて本当に良かったと、そう思う。
……自分よりもあらゆる意味でよっぽど役に立っているのだから。
おそらく、この先も。
「そうだね。じゃあ前向きに考えよう」
少し後ろ向きな気分になる神崎とは裏腹に、前向きな明るい声音でそう言う杏。
それでも少し間を空けてから、真剣な声音で神崎に言う。
「それでも前向きに考えられる事は私個人の事だけかもね」
「というと?」
「マコっちゃんはどう思う? 最近多いよね、アンノウンが表に出てくる事が」
「……ええ、確かに」
そう頷く神崎。
杏の言う通りここ数ヶ月、世界的にアンノウンがダンジョンに飛ばされずに表に出てくる事が多い気がする。
勿論極端にではなく、あくまで気がするという曖昧な言葉を使う程度の話。
だが昨日がユイで今日がジェノサイドボックス。
自分達の管轄でこうも危険度の高いアンノウンの出現が続くと嫌でも強く意識してしまう。
「でも偶然じゃないですかね……確かに色々とあって意識はしますけど」
数ヶ月単位の話なので今日の管理課の様子がおかしかった事などは関係がなく、だとすれば多くなる理由が分からない。
……否、分かりたくなかっただけかもしれない。
「だと良いんだけど、最悪の事態は想定しておかなければいけないね」
杏は一拍空けてから言う。
「もしかしたらダンジョンに何かしらの脆弱性があるのかもしれない。それを異世界側に突かれている……とかね」
そんな考えられる限り最も最悪に近い事を。
「……だとしたら大変な事ですよ」
「そうだね。だとしたら大変な事になる。この世界の平和はダンジョンが正常に動いている上で成り立っているからね。放置=現実的に世界の終わりが見えてくる」
「……」
「だからもし私の仮説が有っていたら、いずれは潜らないといけなくなるかもしれない……脆弱性を潰す為のアップデートをする為に、ダンジョンにね」
「……ですね」
そうなれば過去最悪に危険な作戦となるだろう。
ダンジョンの内部はこの世の地獄と言っても過言ではない程に劣悪な場所になっているから。
世界に危機をもたらすアンノウンが押し込められた場所だから。
そして杏は言う。
「だからマコっちゃんももっと強くなってよ。何事もなければそれまでだけどさ……もしそうなったときに死なないように」
「……」
「篠原さん……いや、柚子やユイちゃんを武器にした杉浦君。ううん、こうなる前の私に負けない位に……お願いだから」
杏は血塗れの神崎に視線を向けながらそう言った。
「善処しますよ」
それに対し自分を鼓舞するようにそう答える。
既にやれる事はやれるだけやっていて。
そして今話していた最悪な事態になる前からこうして死にかけている自分が、そうなれるビジョンはまるで見えてこないけど。
それでもかつて自分の命を救ってくれた、憧れの人の役に少しでも立てるように。
失望されないように。
無能なりにもっと頑張ってみようと、そう思った。
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