魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
45 / 115
1-3 新しい日常 新しい非日常

ex 暗示

しおりを挟む
『成程。今お前の所で何が起きているのかは理解した。理解はしたが……よくそんな判断が下せたな。自分の所の頭がどうして前線を退いているのか、知らない訳じゃないだろうに』

 事の経緯を説明し終えると、それまで黙って聞いていてくれた福田がそう言う。

「それは分かっているつもりです。ですがそれでも……あの子をあの場で殺すべきではないと思った」

『あの子……か。すっかり人間扱いだな』

 そう言う福田の声音に嫌味たらしさや、怒りのような熱は感じられない。

「ええ。私達はもうそのつもりで扱っています」

『そうか……』

「……随分と落ち着いてますね。本部の人間には怒鳴り散らされましたよ」

『喧嘩腰で怒鳴り散らして、それで折れるようなお前じゃないだろ。適当でいい加減な判断をする奴ではない事も分かってる。元上司だからな俺は……だから何も見ていない俺がお前に言える事なんて何もないさ』

「……」

『それに……新たに非難に加わるにはもう遅いだろ』

「……というと?」

『ジェノサイドボックスの近くで反応が出た。それは即ち戦っていたんだろ、こちら側に付いて。そして当然その過程は現状分からん。分からんが……それでも共に戦ってくれたという行動は、決して無下にしてはいけない事だとは思わないか』

「本部のお偉いさんも同じように思てくれれば良いんですけどね」

『ああ。だが難航はしてもそこに非難の目は向けるなよ。別に本部の連中もお前らに意地悪している訳じゃないんだ』

「分かってますよ……」

『あと勘違いするな。別に俺や北陸第二がお前の味方をしている訳じゃない。何かあればその時は分かっているな?』

「ええ。そもそもそうなれば、私達も福田さんや本部の方々と同じ立場ですよ。いや、そうなったらもう首が飛んでいますか」

『寂しい事言うなよ……まあでも、そういう事にならなければ大丈夫だろう。こう言っちゃなんだが、運が良かったな篠原』

 一拍空けて福田は言う。

『今回のジェノサイドボックスの襲撃の場にユイというアンノウンが居たという事は、俺がそうだったように少なからず肯定的な印象を与える筈だ。良い実績を作れたんじゃないか?』

「……流石にジェノサイドボックスの出現を肯定的に捉えるのは不謹慎じゃないですか?」

『ああ、すまない……それはその通りだな。じゃあ不幸中の幸いという事にしておこう。色々な面でそんな感じだろう今回の一件は』

「ええ、そんな感じです」

 それなら納得できると篠原が頷いたところで福田は言う。

『ところでもう一つだけ、確認しておきたい事があるんだが構わないか?』

「手短にお願いしますよ」

『分かってる。そう時間は取らん……俺が聞きたいのはアンノウンの方じゃなく、その子を守るために大立回りまでした若者の方だよ』

「……杉浦に何か気になる点が?」

『そう、杉浦だ……彼のフルネームは? 今年でいくつだ』

「え……」

 何故杉浦鉄平の個人情報を知りたがっているのかは分からないが、この程度の情報なら知った顔のウィザードになら伝えても良いだろうと思った。
 悪用するような人ではないし、悪用されるような情報でも無いから。

「……杉浦鉄平。現在19歳でもうすぐ20ですね。それがどうかしたんですか?」

 篠原の問いに福田は少し言いにくそうに答える。

『……いや、人違いかもしれんが、そいつ俺の友人の息子かもしれん。名前同じ出し年齢も今19の筈だ』

「えっと、それがどうかしましたか?」

 篠原の問いに、少し言葉を詰まらせるように間を空けた後、福田は言う。

『以前飲みの席で愚痴を聞いてな。何やっても中途半端で無気力で。高卒で就職した会社もすぐに止めて適当にふらふらとフリーターをやっていて、どうしたもんかってな』

「……」

『人違いならそれでいいが、もしアイツの息子だった場合……貶している訳じゃ無いが、お前ら相手に覚悟決まりきった大立回りができるとは思えなくてな』

「……どうであれ、杉浦はやりましたよ」

『そう、やったんだ』

「……?」

 福田が何を言いたいのか分からず首を傾げる篠原に彼は言う。

『お前の見立てじゃ彼の精神汚染度は薄いようだが……果たしてなんの影響も受けていないと言えるか?』

「……何が言いたいんですか?」

『そのタイプのアンノウンは人間の精神を乗っ取る。それか今出来ないとしても、そうする意志が無かったとしても。無意識の内に何らかの影響を与えている可能性は否定出来ない』

「……」

『はたして鉄平君の此処までの選択は、彼自身の意思によって決められた物なのだろうか。たとえちょっとした暗示程度でも、人間の意志決定は揺らぐぞ……だからその辺も注意を向けてやれ。彼は今、もしかしたらやりたくも無いことを無意識に受け入れてやっているかもしれない』

「……そんな些細な暗示程度で動いているとは思えない程の強さを彼から感じましたよ」

『それなら良いんだ……それならな』

 そう言った福田は一拍空けてから言う。

『まあ俺が言いたいのはこれだけだ。とにかくお前達が抱えているのはイレギュラーの塊だ。うまくやれよ』

「……善処します」

『それじゃあ仕事に戻ってくれ。すまないな時間を取らせて』

「いえ、大丈夫です……それでは」

 そう言葉を返して通話を切る。
 そしてすぐに意識を切り替えて皆の元へと足取りを向けた。

 ……切り替えたつもりで、頭の中に靄が残ってはいたけれど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

家族もチート!?な貴族に転生しました。

夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった… そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。 詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。 ※※※※※※※※※ チート過ぎる転生貴族の改訂版です。 内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております ※※※※※※※※※

処理中です...