魔剣拾った。同居した。

山外大河

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1-3 新しい日常 新しい非日常

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『成程。今お前の所で何が起きているのかは理解した。理解はしたが……よくそんな判断が下せたな。自分の所の頭がどうして前線を退いているのか、知らない訳じゃないだろうに』

 事の経緯を説明し終えると、それまで黙って聞いていてくれた福田がそう言う。

「それは分かっているつもりです。ですがそれでも……あの子をあの場で殺すべきではないと思った」

『あの子……か。すっかり人間扱いだな』

 そう言う福田の声音に嫌味たらしさや、怒りのような熱は感じられない。

「ええ。私達はもうそのつもりで扱っています」

『そうか……』

「……随分と落ち着いてますね。本部の人間には怒鳴り散らされましたよ」

『喧嘩腰で怒鳴り散らして、それで折れるようなお前じゃないだろ。適当でいい加減な判断をする奴ではない事も分かってる。元上司だからな俺は……だから何も見ていない俺がお前に言える事なんて何もないさ』

「……」

『それに……新たに非難に加わるにはもう遅いだろ』

「……というと?」

『ジェノサイドボックスの近くで反応が出た。それは即ち戦っていたんだろ、こちら側に付いて。そして当然その過程は現状分からん。分からんが……それでも共に戦ってくれたという行動は、決して無下にしてはいけない事だとは思わないか』

「本部のお偉いさんも同じように思てくれれば良いんですけどね」

『ああ。だが難航はしてもそこに非難の目は向けるなよ。別に本部の連中もお前らに意地悪している訳じゃないんだ』

「分かってますよ……」

『あと勘違いするな。別に俺や北陸第二がお前の味方をしている訳じゃない。何かあればその時は分かっているな?』

「ええ。そもそもそうなれば、私達も福田さんや本部の方々と同じ立場ですよ。いや、そうなったらもう首が飛んでいますか」

『寂しい事言うなよ……まあでも、そういう事にならなければ大丈夫だろう。こう言っちゃなんだが、運が良かったな篠原』

 一拍空けて福田は言う。

『今回のジェノサイドボックスの襲撃の場にユイというアンノウンが居たという事は、俺がそうだったように少なからず肯定的な印象を与える筈だ。良い実績を作れたんじゃないか?』

「……流石にジェノサイドボックスの出現を肯定的に捉えるのは不謹慎じゃないですか?」

『ああ、すまない……それはその通りだな。じゃあ不幸中の幸いという事にしておこう。色々な面でそんな感じだろう今回の一件は』

「ええ、そんな感じです」

 それなら納得できると篠原が頷いたところで福田は言う。

『ところでもう一つだけ、確認しておきたい事があるんだが構わないか?』

「手短にお願いしますよ」

『分かってる。そう時間は取らん……俺が聞きたいのはアンノウンの方じゃなく、その子を守るために大立回りまでした若者の方だよ』

「……杉浦に何か気になる点が?」

『そう、杉浦だ……彼のフルネームは? 今年でいくつだ』

「え……」

 何故杉浦鉄平の個人情報を知りたがっているのかは分からないが、この程度の情報なら知った顔のウィザードになら伝えても良いだろうと思った。
 悪用するような人ではないし、悪用されるような情報でも無いから。

「……杉浦鉄平。現在19歳でもうすぐ20ですね。それがどうかしたんですか?」

 篠原の問いに福田は少し言いにくそうに答える。

『……いや、人違いかもしれんが、そいつ俺の友人の息子かもしれん。名前同じ出し年齢も今19の筈だ』

「えっと、それがどうかしましたか?」

 篠原の問いに、少し言葉を詰まらせるように間を空けた後、福田は言う。

『以前飲みの席で愚痴を聞いてな。何やっても中途半端で無気力で。高卒で就職した会社もすぐに止めて適当にふらふらとフリーターをやっていて、どうしたもんかってな』

「……」

『人違いならそれでいいが、もしアイツの息子だった場合……貶している訳じゃ無いが、お前ら相手に覚悟決まりきった大立回りができるとは思えなくてな』

「……どうであれ、杉浦はやりましたよ」

『そう、やったんだ』

「……?」

 福田が何を言いたいのか分からず首を傾げる篠原に彼は言う。

『お前の見立てじゃ彼の精神汚染度は薄いようだが……果たしてなんの影響も受けていないと言えるか?』

「……何が言いたいんですか?」

『そのタイプのアンノウンは人間の精神を乗っ取る。それか今出来ないとしても、そうする意志が無かったとしても。無意識の内に何らかの影響を与えている可能性は否定出来ない』

「……」

『はたして鉄平君の此処までの選択は、彼自身の意思によって決められた物なのだろうか。たとえちょっとした暗示程度でも、人間の意志決定は揺らぐぞ……だからその辺も注意を向けてやれ。彼は今、もしかしたらやりたくも無いことを無意識に受け入れてやっているかもしれない』

「……そんな些細な暗示程度で動いているとは思えない程の強さを彼から感じましたよ」

『それなら良いんだ……それならな』

 そう言った福田は一拍空けてから言う。

『まあ俺が言いたいのはこれだけだ。とにかくお前達が抱えているのはイレギュラーの塊だ。うまくやれよ』

「……善処します」

『それじゃあ仕事に戻ってくれ。すまないな時間を取らせて』

「いえ、大丈夫です……それでは」

 そう言葉を返して通話を切る。
 そしてすぐに意識を切り替えて皆の元へと足取りを向けた。

 ……切り替えたつもりで、頭の中に靄が残ってはいたけれど。
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