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1-3 新しい日常 新しい非日常
19 震える手、それでも。
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「杏さん。言いたい事は分かりますけどユイ……というよりこの二人は──」
杏が何を言いたいのかを察して真っ先に反論しようとしてくれた神崎に、ユイが歩みよった。
「ああじゃあ神崎さんに渡しておくのじゃ。これから怪我を治しに行くのじゃろ? そしたらそこに多分倒れていた人達もいるじゃろうし……これがあれば多少なりとも役に立つんじゃないかの?」
そう言って手にしていたエネルギーの塊を神崎にあっさりと渡して杏の方に向く。
それを見ていた杏の目が見開いたのが分かった。
「渡してくれってつまりこういう事じゃろ? 確かに人から吸い上げたエネルギーの塊なわけじゃし、エネルギーを吸われて倒れている人達にうまく返せれば多少なりとも良い感じになるかもしれん」
「あ、いや……」
「ん? 違ったか? んん? じゃあなんじゃぁ?」
首を傾げるユイと困惑し、どこか気まずそうな杏を交互に見て鉄平は思う。
(これ下手に触れずに話題変えてやった方がいいか?)
きっとユイ以外は、杏の言葉の意図を理解している。
当然鉄平もだ。
風間杏はユイの事を今だ警戒している。
力を取り戻せる状況にあれば、最悪な行動を取ってしまうかもしれない可能性を捨てられていない。
ジェノサイドボックスに変わり自分達人間を蹂躙しかねない。
それ故に出た言葉だ。
言ってしまえば、起爆スイッチを握った爆弾魔を相手にしているような感じなのだ。
だけどその判断を下した杏に悪意がある訳ではない事は分かっていて。
寧ろウィザードとしてきっと正しい言動な事も分かっていて。
普通に恐れを抱いて当然な状態だったことも分かっていて。
いくらこちらがユイの味方でいる事を決めていても、杏をまるで悪者のようにさせるのは違う
だから彼女の想定があまりにもあっさりと外れた今……その事をどこか気まずそうに、そして安堵しているようにも見えている今。
その詳細を彼女の口から語らせるのは酷だと思った。
ユイがその真意に気付いていないのなら、今後の関係性の事を考えてもその方が良いのかもしれないと、そう思った。
だから話題を転換しようと、その内容を少し考え始めた時だった。
一呼吸置いてから、杏が沈黙を破ったのは。
「……正直に言うね。ユイちゃんがそれを持っているのが危険だと思った。最悪杉浦君の体を乗っ取って最悪な事になると思った。そういう事だよ私の言葉は」
(……マジかこの人……ッ)
正々堂々と、真っすぐな視線を向け自分の言葉の真意を本人に伝えだしたのは。
「ユイちゃんはさっきのを取り込んで、力を取り戻そうとは思わなかったの?」
「……ああ、なるほど」
自分がどういう風に見られているのかを理解したようにそう呟いた後、ユイは静かに言う。
「いや思わんじゃろ。だってもうあの化物は倒し終わったぞ。まだ倒さないといけない敵がいて、ソイツが強くて鉄平や皆がヤバイ……って事に成れば流石に使うかもしれんが、そうでなければ……これが必要な人は他にいるじゃろ」
「……」
「今この場だけの事を考えても……ワシよりエネルギーを吸われてフラフラな風間さんの方が必要じゃよどう考えても。今にも倒れそうじゃ」
「どう考えても……か。そっか……」
「うん。言いたい事は分かったが……そういう事をするつもりは無かったのじゃ。信じて貰えるかは分からんが……」
ユイがそう呟いた後、場に静寂が訪れる。
それでもその沈黙を杏が破った。
「……ごめんね。いや、ごめんなさい」
そう言って杏は……頭を下げた。
「私はユイちゃんが私達に向けてくれる好意を踏み躙るような事を言った。今までの前例がどうだったかなんて関係ない。これは本当に失礼な事だと思う……本当にごめんなさい」
真っ当な大人の真摯な謝罪。
あのまま黙っていればする必要が無かったような、そういう謝罪。
中々できる事じゃない、そういう行動。
それを受けたユイは言う。
「いや謝る様な事じゃないと思うぞワシは」
「……」
なおも頭を下げたままの杏にユイは近付いて行く。
「自分がこの世界にとってあまり良くない存在だという事は流石に分かっているのじゃ。でもそんなワシを受け入れてくれた鉄平や北陸第一の人達には感謝してもしきれんよ。だけど……」
ユイは頭を下げる杏の前に立って言う。
「別に風間さんのように考える人がおかしいとはワシは思わん。それどころか少し安心したのじゃ」
「安心……?」
「……皆ワシに優しい。本当に嬉しいのじゃ。だけどさっきみたいな化物が襲ってくるようなこの世界で、言ってしまえば同類みたいなワシに優しくできる人達は、甘くて優しくて、どこかで取り返しの付かない事をしてしてしまう危うさがある。正直心配じゃよ」
じゃから、と優し気な声音でユイは言う。
「風間さんみたいにちゃんと冷静に物事を見れる人が一番上に居るなら、安心じゃなって。そう思っただけじゃ」
そう言ったユイは静かに手を差し出した。
「でもできれば風間さんとも仲良くしたいからの。直るような仲が最初から有ったのかは分からんが……仲直りしよう」
「……」
その言葉に杏はすぐに反応しない。
それでもやがて静かに顔を上げた杏は、ゆっくりと手を差し出す。
まるで怯えるように少し震えてはいたが……それでも。
「さっきユイちゃんは同類とか言ってたけど……それは違うよ」
「……そう言ってくれると嬉しいのじゃ。自分で言っててちょっと嫌じゃったし」
その手は確かに掴まれた。
杏が何を言いたいのかを察して真っ先に反論しようとしてくれた神崎に、ユイが歩みよった。
「ああじゃあ神崎さんに渡しておくのじゃ。これから怪我を治しに行くのじゃろ? そしたらそこに多分倒れていた人達もいるじゃろうし……これがあれば多少なりとも役に立つんじゃないかの?」
そう言って手にしていたエネルギーの塊を神崎にあっさりと渡して杏の方に向く。
それを見ていた杏の目が見開いたのが分かった。
「渡してくれってつまりこういう事じゃろ? 確かに人から吸い上げたエネルギーの塊なわけじゃし、エネルギーを吸われて倒れている人達にうまく返せれば多少なりとも良い感じになるかもしれん」
「あ、いや……」
「ん? 違ったか? んん? じゃあなんじゃぁ?」
首を傾げるユイと困惑し、どこか気まずそうな杏を交互に見て鉄平は思う。
(これ下手に触れずに話題変えてやった方がいいか?)
きっとユイ以外は、杏の言葉の意図を理解している。
当然鉄平もだ。
風間杏はユイの事を今だ警戒している。
力を取り戻せる状況にあれば、最悪な行動を取ってしまうかもしれない可能性を捨てられていない。
ジェノサイドボックスに変わり自分達人間を蹂躙しかねない。
それ故に出た言葉だ。
言ってしまえば、起爆スイッチを握った爆弾魔を相手にしているような感じなのだ。
だけどその判断を下した杏に悪意がある訳ではない事は分かっていて。
寧ろウィザードとしてきっと正しい言動な事も分かっていて。
普通に恐れを抱いて当然な状態だったことも分かっていて。
いくらこちらがユイの味方でいる事を決めていても、杏をまるで悪者のようにさせるのは違う
だから彼女の想定があまりにもあっさりと外れた今……その事をどこか気まずそうに、そして安堵しているようにも見えている今。
その詳細を彼女の口から語らせるのは酷だと思った。
ユイがその真意に気付いていないのなら、今後の関係性の事を考えてもその方が良いのかもしれないと、そう思った。
だから話題を転換しようと、その内容を少し考え始めた時だった。
一呼吸置いてから、杏が沈黙を破ったのは。
「……正直に言うね。ユイちゃんがそれを持っているのが危険だと思った。最悪杉浦君の体を乗っ取って最悪な事になると思った。そういう事だよ私の言葉は」
(……マジかこの人……ッ)
正々堂々と、真っすぐな視線を向け自分の言葉の真意を本人に伝えだしたのは。
「ユイちゃんはさっきのを取り込んで、力を取り戻そうとは思わなかったの?」
「……ああ、なるほど」
自分がどういう風に見られているのかを理解したようにそう呟いた後、ユイは静かに言う。
「いや思わんじゃろ。だってもうあの化物は倒し終わったぞ。まだ倒さないといけない敵がいて、ソイツが強くて鉄平や皆がヤバイ……って事に成れば流石に使うかもしれんが、そうでなければ……これが必要な人は他にいるじゃろ」
「……」
「今この場だけの事を考えても……ワシよりエネルギーを吸われてフラフラな風間さんの方が必要じゃよどう考えても。今にも倒れそうじゃ」
「どう考えても……か。そっか……」
「うん。言いたい事は分かったが……そういう事をするつもりは無かったのじゃ。信じて貰えるかは分からんが……」
ユイがそう呟いた後、場に静寂が訪れる。
それでもその沈黙を杏が破った。
「……ごめんね。いや、ごめんなさい」
そう言って杏は……頭を下げた。
「私はユイちゃんが私達に向けてくれる好意を踏み躙るような事を言った。今までの前例がどうだったかなんて関係ない。これは本当に失礼な事だと思う……本当にごめんなさい」
真っ当な大人の真摯な謝罪。
あのまま黙っていればする必要が無かったような、そういう謝罪。
中々できる事じゃない、そういう行動。
それを受けたユイは言う。
「いや謝る様な事じゃないと思うぞワシは」
「……」
なおも頭を下げたままの杏にユイは近付いて行く。
「自分がこの世界にとってあまり良くない存在だという事は流石に分かっているのじゃ。でもそんなワシを受け入れてくれた鉄平や北陸第一の人達には感謝してもしきれんよ。だけど……」
ユイは頭を下げる杏の前に立って言う。
「別に風間さんのように考える人がおかしいとはワシは思わん。それどころか少し安心したのじゃ」
「安心……?」
「……皆ワシに優しい。本当に嬉しいのじゃ。だけどさっきみたいな化物が襲ってくるようなこの世界で、言ってしまえば同類みたいなワシに優しくできる人達は、甘くて優しくて、どこかで取り返しの付かない事をしてしてしまう危うさがある。正直心配じゃよ」
じゃから、と優し気な声音でユイは言う。
「風間さんみたいにちゃんと冷静に物事を見れる人が一番上に居るなら、安心じゃなって。そう思っただけじゃ」
そう言ったユイは静かに手を差し出した。
「でもできれば風間さんとも仲良くしたいからの。直るような仲が最初から有ったのかは分からんが……仲直りしよう」
「……」
その言葉に杏はすぐに反応しない。
それでもやがて静かに顔を上げた杏は、ゆっくりと手を差し出す。
まるで怯えるように少し震えてはいたが……それでも。
「さっきユイちゃんは同類とか言ってたけど……それは違うよ」
「……そう言ってくれると嬉しいのじゃ。自分で言っててちょっと嫌じゃったし」
その手は確かに掴まれた。
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