魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
43 / 115
1-3 新しい日常 新しい非日常

19 震える手、それでも。

しおりを挟む
「杏さん。言いたい事は分かりますけどユイ……というよりこの二人は──」

 杏が何を言いたいのかを察して真っ先に反論しようとしてくれた神崎に、ユイが歩みよった。

「ああじゃあ神崎さんに渡しておくのじゃ。これから怪我を治しに行くのじゃろ? そしたらそこに多分倒れていた人達もいるじゃろうし……これがあれば多少なりとも役に立つんじゃないかの?」

 そう言って手にしていたエネルギーの塊を神崎にあっさりと渡して杏の方に向く。
 それを見ていた杏の目が見開いたのが分かった。

「渡してくれってつまりこういう事じゃろ? 確かに人から吸い上げたエネルギーの塊なわけじゃし、エネルギーを吸われて倒れている人達にうまく返せれば多少なりとも良い感じになるかもしれん」

「あ、いや……」

「ん? 違ったか? んん? じゃあなんじゃぁ?」

 首を傾げるユイと困惑し、どこか気まずそうな杏を交互に見て鉄平は思う。

(これ下手に触れずに話題変えてやった方がいいか?)

 きっとユイ以外は、杏の言葉の意図を理解している。
 当然鉄平もだ。

 風間杏はユイの事を今だ警戒している。

 力を取り戻せる状況にあれば、最悪な行動を取ってしまうかもしれない可能性を捨てられていない。
 ジェノサイドボックスに変わり自分達人間を蹂躙しかねない。
 それ故に出た言葉だ。
 言ってしまえば、起爆スイッチを握った爆弾魔を相手にしているような感じなのだ。

 だけどその判断を下した杏に悪意がある訳ではない事は分かっていて。
 寧ろウィザードとしてきっと正しい言動な事も分かっていて。
 普通に恐れを抱いて当然な状態だったことも分かっていて。

 いくらこちらがユイの味方でいる事を決めていても、杏をまるで悪者のようにさせるのは違う

 だから彼女の想定があまりにもあっさりと外れた今……その事をどこか気まずそうに、そして安堵しているようにも見えている今。
 その詳細を彼女の口から語らせるのは酷だと思った。
 ユイがその真意に気付いていないのなら、今後の関係性の事を考えてもその方が良いのかもしれないと、そう思った。
 
 だから話題を転換しようと、その内容を少し考え始めた時だった。

 一呼吸置いてから、杏が沈黙を破ったのは。

「……正直に言うね。ユイちゃんがそれを持っているのが危険だと思った。最悪杉浦君の体を乗っ取って最悪な事になると思った。そういう事だよ私の言葉は」

(……マジかこの人……ッ)

 正々堂々と、真っすぐな視線を向け自分の言葉の真意を本人に伝えだしたのは。

「ユイちゃんはさっきのを取り込んで、力を取り戻そうとは思わなかったの?」

「……ああ、なるほど」

 自分がどういう風に見られているのかを理解したようにそう呟いた後、ユイは静かに言う。

「いや思わんじゃろ。だってもうあの化物は倒し終わったぞ。まだ倒さないといけない敵がいて、ソイツが強くて鉄平や皆がヤバイ……って事に成れば流石に使うかもしれんが、そうでなければ……これが必要な人は他にいるじゃろ」

「……」

「今この場だけの事を考えても……ワシよりエネルギーを吸われてフラフラな風間さんの方が必要じゃよどう考えても。今にも倒れそうじゃ」

「どう考えても……か。そっか……」

「うん。言いたい事は分かったが……そういう事をするつもりは無かったのじゃ。信じて貰えるかは分からんが……」

 ユイがそう呟いた後、場に静寂が訪れる。
 それでもその沈黙を杏が破った。

「……ごめんね。いや、ごめんなさい」

 そう言って杏は……頭を下げた。

「私はユイちゃんが私達に向けてくれる好意を踏み躙るような事を言った。今までの前例がどうだったかなんて関係ない。これは本当に失礼な事だと思う……本当にごめんなさい」

 真っ当な大人の真摯な謝罪。
 あのまま黙っていればする必要が無かったような、そういう謝罪。
 中々できる事じゃない、そういう行動。

 それを受けたユイは言う。

「いや謝る様な事じゃないと思うぞワシは」

「……」

 なおも頭を下げたままの杏にユイは近付いて行く。

「自分がこの世界にとってあまり良くない存在だという事は流石に分かっているのじゃ。でもそんなワシを受け入れてくれた鉄平や北陸第一の人達には感謝してもしきれんよ。だけど……」

 ユイは頭を下げる杏の前に立って言う。

「別に風間さんのように考える人がおかしいとはワシは思わん。それどころか少し安心したのじゃ」

「安心……?」

「……皆ワシに優しい。本当に嬉しいのじゃ。だけどさっきみたいな化物が襲ってくるようなこの世界で、言ってしまえば同類みたいなワシに優しくできる人達は、甘くて優しくて、どこかで取り返しの付かない事をしてしてしまう危うさがある。正直心配じゃよ」

 じゃから、と優し気な声音でユイは言う。

「風間さんみたいにちゃんと冷静に物事を見れる人が一番上に居るなら、安心じゃなって。そう思っただけじゃ」

 そう言ったユイは静かに手を差し出した。

「でもできれば風間さんとも仲良くしたいからの。直るような仲が最初から有ったのかは分からんが……仲直りしよう」

「……」

 その言葉に杏はすぐに反応しない。
 それでもやがて静かに顔を上げた杏は、ゆっくりと手を差し出す。
 まるで怯えるように少し震えてはいたが……それでも。

「さっきユイちゃんは同類とか言ってたけど……それは違うよ」

「……そう言ってくれると嬉しいのじゃ。自分で言っててちょっと嫌じゃったし」

 その手は確かに掴まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

家族もチート!?な貴族に転生しました。

夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった… そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。 詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。 ※※※※※※※※※ チート過ぎる転生貴族の改訂版です。 内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております ※※※※※※※※※

処理中です...