魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
42 / 115
1-3 新しい日常 新しい非日常

18 起爆剤

しおりを挟む
 ユイがこちら側でいてくれるに至ったそもそもの入り口は、原因不明だが契約を結んだ鉄平から吸い上げるエネルギーが、必要最低限以下の水準で留まってしまったからである。

 故にユイは本来行う筈だった世界征服を行う事ができず、それどころか自身の生命活動の維持すら危うくなり、それを鉄平がどうにかした事で会話する余地が生まれた。

 そんな偶然が生んだ先にある未来が今だ。

「多分あの化物が体を再生したりするのには物凄い膨大なエネルギーが必要だった訳じゃな。これだけ膨大なエネルギーが体内に残っていても生かせないのは流石に燃費悪すぎじゃないかの。人一人から供給されるエネルギーで動けるワシとは大違いじゃな」 

 そう言ってちょっとドヤ顔を浮かべるユイがもし、そのエネルギーの塊を取り込むことができるのだとすれば……この状況を作り出した最初の要因が崩れて無くなってしまう。

 そうしたら……一体、どうなるのだろうか。


 と、少しだけ不安に駆られた。
 そう、少しだけだ。


「ほんと大違いで助かるよ。コイツ並みに燃費悪かったら、どれだけ飯食っても足りねえだろ」

「じゃな。鉄平が大変な事になる。小食で良かったのじゃ」

「いや別に小食じゃねえよお前……」

 そんな軽口を叩ける位には、そんな不安はすぐにどうでも良くなった。

(……というか俺はそれを否定してやる側だったな)

 流石にこうしてパズルのピースを嵌めるように、ピンポイントで足りなかった物が提示されれば、少し嫌な事を連想してしまう。
 その位の事は許して欲しいと思う。
 だけどそこから先の事を考える気にはならない。

 そういうリスクが無い相手だと信用したから今がある。
 信用に応えてくれるような相手だから今がある。

 もう最初の入り口は。分岐路は通り過ぎた後だ。
 今更あの時を基準に物事を考えたところで、本当に無駄でしかない。

 それを無駄だと思わない相手に対して、説得の一つや二つを考えてやる方がよっぽど有意義だ。

 と、そんなやり取りをしていると結界の外から柚子の声が聞こえて来る。

「あの、とりあえずこの結界は消して良いんすか? 駄目なんすか? その辺早い所決めたいんすけど……神崎さん、どうなんすかこれ!?」

「いや……俺は大丈夫だと思うけどな……」

 二人もユイがそうした物を手にしたという話が聞こえている筈なのに追及する事は無い。
 二人にとっても。
 あの時止まってくれたウィザード達にとっても、鉄平と同じくだからどうしたという話なのだろう。
 ……あの時あの場に居たウィザード達にとっては。

「消して良いよ柚子。もうジェノサイドボックスの反応は完全に消えてる……ああ、皆お疲れ様」

 そう言いながらゆっくりと歩いて来たのは重い足取りでなんとか此処まで来た事が伺える杏だった。

「あ、お姉ちゃん! 大丈夫!?」

「まあこうしてなんとか歩いて来れる位にはね。眩暈も倦怠感も結構酷いけど……でもそれだけ。私よりもマコっちゃんの方がヤバいよ。外に医務班が待機してるから、結界が解体されたらすぐ診て貰って」

「いや現在進行形で倒れそうなアンタに言われたくないんですけど……」

「いや俺が見る限り神崎さんが一番重症ですよどう見ても」

「そうじゃの。血でびちゃびちゃじゃ」

「明らかに大怪我なのにその反応なのを見る限り、神崎さんって健康診断でヤバい判定出ても無視しそうっすよね」

「お前だけなんか馬鹿にしてねえか俺の事」

「冗談っすよ。でもマジで普通に出血酷いんで早いと治療した方が良いっすよ。ああ、勿論お姉ちゃんも」

 杏と溜息を吐く神崎にそう言った後、柚子は鉄平達に言う。

「じゃあとりあえず床以外の所消すんで、そしたら跳び下りて欲しいっす」

「あいよ」

「了解じゃ」

「一人で飛べるか?」

「楽勝じゃ、子供じゃあるまいし」

(子供じゃん)

 宙に浮いた結界の高さは二メートル程度で、言われた通り鉄平もユイも普通に飛び降りた。
 そして床に着地したところで、直前まで戦っていた専用の部隊から降りた事で、改めて一段落ついたと、そう思う事が出来た。

 あくまでジェノサイドボックスとの一件については。

「さて……ユイちゃん」

 少し軽くなっていた空気を断ち切るように、戦いが終わったにも関わらず最大限の警戒心を滲み出しながら杏が言う。

「まずはその手の物を、今すぐ柚子かマコっちゃんに渡してくれないかな」

 あの時、初めて挨拶した時に感じた壁が……今、より強固な物となって立ち塞がっていたように感じた。

 今この場において風間杏だけがおそらく、最悪なシナリオを想定している。
 どこか怯えが混じった視線と声音を向けながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

(完結)嘘つき聖女と呼ばれて

青空一夏
ファンタジー
私、アータムは夢のなかで女神様から祝福を受けたが妹のアスペンも受けたと言う。 両親はアスペンを聖女様だと決めつけて、私を無視した。 妹は私を引き立て役に使うと言い出し両親も賛成して…… ゆるふわ設定ご都合主義です。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

処理中です...