32 / 115
1-3 新しい日常 新しい非日常
9 非日常、濁流の如く
しおりを挟む
高校卒業の際に親から買って貰った軽自動車にユイを乗せて田舎特有の大型ショッピングモールへ。
「凄いな、鉄平もあんな機械乗りこなせるのじゃな」
「ま、田舎じゃあれが乗れねえとまともに生活できねえんだ」
「……わ、ワシまともに生活できんのか?」
「大人の話な大人の話」
そんな事を話ながらショッピングモールの中へ。
「広いのじゃ」
「土地余ってるからな、田舎だし。さ、食品売り場行くぞ」
「了解じゃ」
「ところで何か食べたい物……って言っても分からねえか。お前管理局で何食べたっけ?」
「カレーにラーメンにうどん、ざるそば……ああ、後カツ丼じゃ。あああとお菓子も色々貰ったのじゃ」
「じゃあそれ以外だな…………鍋でもやるか」
「それどんなのじゃ?」
「食べてからのお楽しみでーす」
言いながらしばらく歩き食料品売り場へ。
「この車輪付いたのワシが押す!」
「ほらよ」
(好奇心旺盛な子供じゃん)
子供である。
とにかくユイに買い物用のカートを押して貰いながら色々とカートに入れていく。
その途中で聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ、また会ったっすね!」
「あ、柚子じゃ!」
「よう、明日に備えて寝るんじゃなかったのか?」
声を掛けてきたのは一足先に帰っていた柚子だ。
「寝てた。良い感じにお昼寝したっす。そのままご飯まで……って思ったんすけど、よく考えたら私今日食事当番だったんすよ」
「食事当番?」
「ああ、私お姉ちゃんと二人暮らしなんすよ。そういや溜まった仕事終らないと帰れないから遅くなるし今日当番変わってって言われてたの忘れてて! そんな訳で買い物に来たっす!」
元気よくそう言う柚子は今度はこちらに問いかけてくる。
「杉浦さんも晩御飯の買い物っすか」
「だな。冷蔵庫空だし」
「何作るんすか?」
「鍋じゃ!」
「おー良いねぇ鍋。春先はまだ肌寒いっすからねぇ。ちなみに何鍋?」
「味噌鍋にしようかと……っとそうだ。風間、ちょっと頼みあるんだけど」
買い物の話を柚子とした流れで、やや脱線するが一応頼みたい事を頼んでみる事にした。
「なんすか?」
「今度時間ある時で良いんだけどさ、コイツの衣類買うの手伝ってくれね? コイツ今来てる服しか持ってなくてさ、用意しなきゃなんだけど、ほらそういうのはやっぱ女の子に頼んだ方が良いかなって」
「あーそれならさっさと夕飯の買い物終わらせて、ぱぱっと買いに行くっすか?」
「いやお前晩飯作らないと駄目なんだろ? 別に今日じゃなくても……」
「いやその辺考慮してなかったの完全に管理局の落ち度っす。着替え無いの不味いっすよ。なーに楽観視してるんすか!」
「……確かに」
よくよく考えたら楽観的に考え過ぎていたかもしれない。
自分の事ならともかく、人の事でしかも女の子なんだから。
「でも大丈夫か? お前の姉ちゃん帰ってきて飯できてねえ的な事になるんじゃねえの?」
「まあお姉ちゃんの事だから書類の不備とかが見つかったり、完全に忘れてた仕事が湧いて出たりする事多々あるから、私の見立てではまだ掛かるっすね」
「終ったよ」
声が聞こえて視線を向けると。
「あ、風間さん」
「え、お姉ちゃん仕事終った?」
支局長の風間杏が立っていた。
「うん、最悪明日でも良い仕事はマコっちゃんにメールとかで送ったから。最低限やる事はやったよ。これで自由の身。よっしゃー」
力無く拳を挙げる杏。
そんな彼女から視線を反らして思い浮かべたのは、今日色々世話になった上司の顔だ。
(お疲れ様です……神崎さん。というかほんと、篠原さんとか神崎さんみたいな間に挟まる人の頑張りでこの組織回ってるんだろうなぁ)
此処にいない上司に内心で労いの言葉を掛けている内に女性陣で会話が進む。
「風間さんは何をしに此処に来たのじゃ?」
「ん、私は柚子と二人暮らしでね。今日は私が食事当番だったから」
「え、お姉ちゃん今日私に変わってって言ってたじゃん」
「……え、そうだっけ? んん~?」
腕を組んで首を傾げる杏は、少し間を空けてから安堵したように言う。
「でも良かった。実はさっき財布を忘れた事に気付いてね。取りに戻らなきゃって思ってたんだ。これで無事今日の晩御飯が食卓に並ぶね」
「……これ日常茶飯事?」
柚子に問いかけると深く頷く。
(なるほど、これ関われば関わる程ポンコツ感が見えてくる感じだな)
そう、自分達の組織のトップへの理解を深めていた時だった。
「頷かないでよ、これじゃ私がまるで普段からポンコツみたいに…………柚子! 構えて!」
突然血相を変えて杏が叫んだかと思えば、手にしていた鞄を放り投げ、勢いよく床に手を叩き付ける。
「閉じろおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
そして叫び散らす彼女を中心に魔法陣が展開。
それから数秒遅れての事だった。
「……ッ!?」
床に勢いよく、まるで濁流が迫ってくるように……影のような物が走り抜け黒く染めていったのは。
「凄いな、鉄平もあんな機械乗りこなせるのじゃな」
「ま、田舎じゃあれが乗れねえとまともに生活できねえんだ」
「……わ、ワシまともに生活できんのか?」
「大人の話な大人の話」
そんな事を話ながらショッピングモールの中へ。
「広いのじゃ」
「土地余ってるからな、田舎だし。さ、食品売り場行くぞ」
「了解じゃ」
「ところで何か食べたい物……って言っても分からねえか。お前管理局で何食べたっけ?」
「カレーにラーメンにうどん、ざるそば……ああ、後カツ丼じゃ。あああとお菓子も色々貰ったのじゃ」
「じゃあそれ以外だな…………鍋でもやるか」
「それどんなのじゃ?」
「食べてからのお楽しみでーす」
言いながらしばらく歩き食料品売り場へ。
「この車輪付いたのワシが押す!」
「ほらよ」
(好奇心旺盛な子供じゃん)
子供である。
とにかくユイに買い物用のカートを押して貰いながら色々とカートに入れていく。
その途中で聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あ、また会ったっすね!」
「あ、柚子じゃ!」
「よう、明日に備えて寝るんじゃなかったのか?」
声を掛けてきたのは一足先に帰っていた柚子だ。
「寝てた。良い感じにお昼寝したっす。そのままご飯まで……って思ったんすけど、よく考えたら私今日食事当番だったんすよ」
「食事当番?」
「ああ、私お姉ちゃんと二人暮らしなんすよ。そういや溜まった仕事終らないと帰れないから遅くなるし今日当番変わってって言われてたの忘れてて! そんな訳で買い物に来たっす!」
元気よくそう言う柚子は今度はこちらに問いかけてくる。
「杉浦さんも晩御飯の買い物っすか」
「だな。冷蔵庫空だし」
「何作るんすか?」
「鍋じゃ!」
「おー良いねぇ鍋。春先はまだ肌寒いっすからねぇ。ちなみに何鍋?」
「味噌鍋にしようかと……っとそうだ。風間、ちょっと頼みあるんだけど」
買い物の話を柚子とした流れで、やや脱線するが一応頼みたい事を頼んでみる事にした。
「なんすか?」
「今度時間ある時で良いんだけどさ、コイツの衣類買うの手伝ってくれね? コイツ今来てる服しか持ってなくてさ、用意しなきゃなんだけど、ほらそういうのはやっぱ女の子に頼んだ方が良いかなって」
「あーそれならさっさと夕飯の買い物終わらせて、ぱぱっと買いに行くっすか?」
「いやお前晩飯作らないと駄目なんだろ? 別に今日じゃなくても……」
「いやその辺考慮してなかったの完全に管理局の落ち度っす。着替え無いの不味いっすよ。なーに楽観視してるんすか!」
「……確かに」
よくよく考えたら楽観的に考え過ぎていたかもしれない。
自分の事ならともかく、人の事でしかも女の子なんだから。
「でも大丈夫か? お前の姉ちゃん帰ってきて飯できてねえ的な事になるんじゃねえの?」
「まあお姉ちゃんの事だから書類の不備とかが見つかったり、完全に忘れてた仕事が湧いて出たりする事多々あるから、私の見立てではまだ掛かるっすね」
「終ったよ」
声が聞こえて視線を向けると。
「あ、風間さん」
「え、お姉ちゃん仕事終った?」
支局長の風間杏が立っていた。
「うん、最悪明日でも良い仕事はマコっちゃんにメールとかで送ったから。最低限やる事はやったよ。これで自由の身。よっしゃー」
力無く拳を挙げる杏。
そんな彼女から視線を反らして思い浮かべたのは、今日色々世話になった上司の顔だ。
(お疲れ様です……神崎さん。というかほんと、篠原さんとか神崎さんみたいな間に挟まる人の頑張りでこの組織回ってるんだろうなぁ)
此処にいない上司に内心で労いの言葉を掛けている内に女性陣で会話が進む。
「風間さんは何をしに此処に来たのじゃ?」
「ん、私は柚子と二人暮らしでね。今日は私が食事当番だったから」
「え、お姉ちゃん今日私に変わってって言ってたじゃん」
「……え、そうだっけ? んん~?」
腕を組んで首を傾げる杏は、少し間を空けてから安堵したように言う。
「でも良かった。実はさっき財布を忘れた事に気付いてね。取りに戻らなきゃって思ってたんだ。これで無事今日の晩御飯が食卓に並ぶね」
「……これ日常茶飯事?」
柚子に問いかけると深く頷く。
(なるほど、これ関われば関わる程ポンコツ感が見えてくる感じだな)
そう、自分達の組織のトップへの理解を深めていた時だった。
「頷かないでよ、これじゃ私がまるで普段からポンコツみたいに…………柚子! 構えて!」
突然血相を変えて杏が叫んだかと思えば、手にしていた鞄を放り投げ、勢いよく床に手を叩き付ける。
「閉じろおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
そして叫び散らす彼女を中心に魔法陣が展開。
それから数秒遅れての事だった。
「……ッ!?」
床に勢いよく、まるで濁流が迫ってくるように……影のような物が走り抜け黒く染めていったのは。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜
双華
ファンタジー
愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。
白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。
すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。
転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。
うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。
・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。
※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。
・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。
沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。
・ホトラン最高2位
・ファンタジー24h最高2位
・ファンタジー週間最高5位
(2020/1/6時点)
評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m
皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。
※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>


冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる