魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
29 / 115
1-3 新しい日常 新しい非日常

6 良くも悪くも

しおりを挟む
「やあやあキミがユイちゃんか!」

「良く来たね! お菓子食べる?」

「た、食べるのじゃ!」

 ユイの心配とは裏腹に、異界管理部を訪れたユイは大歓迎されているようだった。
 仕事を妨害しない為に神崎さんが事前に連絡を入れていたからなのか、まるで待ち構えるように課内に居た十数人の職員が出入口付近にわらわらと集まってきている。

 まあ歓迎して貰えるのは嬉しい事だけど。

「……おいおいこりゃどうした一体」

 素で驚くように神崎がそう呟いたのだけが気になった。
 そして神崎は鉄平に言う。

「杉浦。悪いけどうまく挨拶しておいてくれ。俺ちょっとここの課長と話してくる。おーい山口さん、ちょっと良いですか」

 言いながら神崎は管理部の事務所の奥へと歩いて行き、それに続くように職員の群から40代程の中年男性が抜け出して付いて行く。

(なんだろ。此処来たついでに打ち合わせでもすんのかな?)

 まあその辺の事は新入りの自分には良く分からなくて、新入りは新入りらしく目の前の事をちゃんとやるべきだと意識を戻した。
 ……とはいえ。

「何か飲む?」

「甘いのが良いのじゃ!」

「良し来た。ちょっと私自販機までひとっ走り行ってジュース買ってきます!」

「ほらユイちゃん。座って座って」

「は、はいなのじゃ!」

「はい偶々持ってた良いとこのチョコでーす」

「い、頂くのじゃ」

 ユイが何故か大人気すぎて自分が前に出る隙が無い。
 自己紹介とかできる流れじゃない。

「キミ杉浦君だっけ。コーヒーでも飲む?」

「あ、お構いなく」

 ようやく言えたのがそれだけ。
 まあ自己紹介をせずとも最低限の情報は伝わっているみたいなので良しとするが。

(……なんだこれ。本当に一体どうした)

 それはそれとして、徐々に徐々に目の前の光景が少々歪に見えて来た。
 何かがおかしい。そんな気がする。
 別にユイの人気に嫉妬している訳ではない。
 流石にそれはない……無いが。それでも。

「どう、美味しい?」

「めっちゃおいしいのじゃ!」

「そっか。この世界には他にも美味しい物とか楽しい事とか一杯あるからさ。楽しんでね」

 敵意は感じない。悪意は感じない。
 だけど初対面の、それも本来自分達が相手取っていた筈のアンノウンに対して向けられる過剰なまでの好意が、ある種の気味悪さのような物を感じさせる。

(神崎さんが何か話に行ったの、この所為か?)

 それは分からないが正直早く帰ってきて欲しい。
 ……ユイ本人がこの違和感に気付かずに笑っていられているからまだいいが。


 それから、徐々に僅かだが室内に落ち着きが戻ってきた所でようやく改めて二人で挨拶ができたものの、それでも最後まで違和感や気味の悪さが消える事は無かった。
 ユイはおそらく最後ま気付いていない。
 自分以外に気付いているのは。

「そろそろ行くぞ」

 複雑な表情を浮かべて戻ってきた神崎位だろう。

「あ、ちょっと待って欲しいのじゃ。もう食べ終わるから」

 ユイは何か色々と出て来たお菓子を食している最中だで、残すと悪いと思ったのか全部食べ切るつもりらしい。

「じゃあ外で待ってる。行くぞ杉浦」

「え、ちょっと位待ってても……」

「聞きたい事、あるんじゃねえのか」

「……はい」

 神崎の言葉に頷いてからユイに言う。

「やあ俺神崎さんと外で待ってるから、ゆっくり食べて来いよ」

「分かったのじゃ。でもすぐ行くぞ」

「了解」

 そう言いながら神崎と共に異界管理局を後にする。
 そして部屋を出た所で、やや小さめな声で神崎が問いかけてきた。

「お前、どう思った」

「どうって、此処の人達の事ですか」

「ああ……なんか違和感感じなかったか」

「ええ。悪意は感じないんですけど、ちょっと怖かったというかなんというか……」

「俺も驚いたよ。普段はあんな感じじゃねえんだ当然ながら。そしてお前の言う通り、アイツらがユイに悪意を持って露骨に怪しい事をやってる訳じゃねえ」

「そう断言できるって事は、やっぱりその話してたんですか」

「まあな。流石にスルー出来なかった。部署は違えど知った仲だからな」

 そして神崎は一拍空けてから言う。

「罪悪感、だと」

「罪悪感ですか?」

「ああ。この前のお前らとの戦いみたいに俺達は選択しようと思えばする事ができる。だけど此処の連中はそうもいかない。無差別に、問答無用にダンジョンに叩き込む必要がある」

「それが一体……」

「異界管理課の仕事はな、アンノウンが全員碌でも無い侵略者という事を前提とした上で成り立ってる。臨機応変な対応ができない分、俺達よりもそれは顕著だ。だけどその前提は昨日、崩れたんだ」
 
「……ユイ、ですか」

「ああ。アイツの登場で、アイツらはこれまでダンジョンに送ってきたアンノウンの中に、少しコミュニケーションを取ればそれで解決するような、もしくはそれすらも必要のない奴がいた可能性と向き合わなければならなくなった」

「……」

「そりゃ湧く。罪悪感の一つや二つ。何かしねえとやってられないんだ。あまり仲良くなると余計に自分達の首を絞める事になると分かっていてもな」

「……もしかして此処にユイを連れて来ない方が良かったんじゃないですか?」

「いや、それは知らん」

 神崎は小さく溜息を吐いてから言う。

「その辺の判断も良く分からねえ位には、良くも悪くもイレギュラーなんだよアイツの存在は」

「……良くも悪くも、か」

 鉄平は一呼吸置いてから言う。

「確かにこういう事がある以上、簡単な話じゃないのは分かってます。だけど……全部良かったって言えるように。アイツが此処に居て良かったって、マイナス面帳消しにして言えるように、これから頑張りますよ俺」

「当然だ。勿論俺達もサポートするからよ」

「頼んます」

 こうして異界管理課への挨拶? は終わった。
 その後も各部署を回り、挨拶すべき人達へ一通り挨拶を終え、今日やるべき事は全て終了。

 体もこうして普通に生活を送れる位には治っていて、だとすればもう医務室のベッドに戻る必要も無い。

 帰宅の時間である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

処理中です...