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1-3 新しい日常 新しい非日常
ex 同じ轍
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「で、どうしたんですか? 俺だけ此処に残して」
一人だけ残るように言われた神崎がその理由を問うと、杏は静かに答える。
「これは忠告。もう少し位は警戒した方が良いよ。何かが起きた時にすぐ対処できるように」
「……そういうアンタは少し警戒し過ぎじゃ無いですか。もう俺達は此処に迎え入れたのに」
「するよそりゃ。しない訳が無い」
杏は椅子に腰を沈め、俯き気味の視線と声音で口にする。
「一年前の一件で私は一日に三秒しか魔術を使えない体になった。そういえばあの時も女の子だったね」
「……」
自虐するように紡がれる言葉に、すぐに言い返す事が出来ない。
今回の件において、最も現実的に物事を考えられているのがおそらく風間杏だ。
確認されているだけで今まで7件あった、アンノウンが友好を装ってこの世界の人間に接触し、頃合いを待ち牙を向く。人の善意を踏み躙るような最悪な所業。
その内の一つ。一年前に東京本部で起きた事件の中心に彼女はいた。
そして中心にいて、善意を踏み躙られて、今此処にいる。
被害を辛うじて自分だけに収めた後に現場を退き、地方で全く適性の無い職務に四苦八苦している。
かつてとても表に公表できないような世界崩壊の危機を三度も回避し、世界中のウィザードから英雄視された彼女がだ。
そんな彼女は少し怯えたような声音で言葉を紡ぐ。
「……あの二人に直接会いに行かなかったのだって別に仕事が忙しかったからじゃない。その気になればいつもみたいに抜け出せる。でもその気になれなかった。怖かったんだ。今の顔合わせだって、マコっちゃんと柚子が居たから実現できた」
「……」
(……篠原さんの提案を全面的に受け入れたと聞いていたからある程度はと思ったけど、まだ思ったより傷は深いな。当然だけど)
でも、だとすれば。
「そんな状態で、よく篠原さんの提案を受け入れましたね」
この人は何故この現状を受け入れているのだろうか。
そして彼女は一拍空けてから言う。
「……私には止める権限はあっても資格は無いから。皆が現場で見て感じ取った末に出した決断を私は踏み躙れない。できる事なんて精々先輩として助言する事だけ。まあそれすらも満足にできないんだけどね。もう少し警戒しろなんてのもおかしい話だ。表に出ていないだけで、警戒は当然している筈だから」
「……ええ、まあ」
何せ事が起きたら自分達の首が飛ぶだけでは済まない。
場合によっては一般人の首が物理的に飛ぶ事も考えられる。
だから警戒はしている。最低限の警戒は。
そして神崎の返答を聞いた杏は、一拍空けてから笑みを浮かべて言う
「ごめんね呼び止めて。もう行って良いよ。結局私はただ気を付けてって改めて言いたかっただけだし。うん、ほんとごめん」
「いえ、ご心配ありがとうございます……じゃあ俺はアイツら待たせてるんでこれで」
そう言って神崎は踵を返し、歩を進める。
向かう先に最低限の警戒心を向けながら。
自分達があの現場で取った選択が正しい事でありますようにと祈りながら。
「あ、マコっちゃん。最後に一つ」
「なんですか?」
「篠原さんにも言ったけど、面倒な事が有ったら躊躇わず私を利用して欲しい。支局長としてはあまりに無能だけど、こんな私にもまだ不相応な発言力は残っているからさ。力になれるかもしれない」
あまりに深い傷を負いながらも、それでももがき足掻く彼女が報われますようにと、強く祈りながら。
一人だけ残るように言われた神崎がその理由を問うと、杏は静かに答える。
「これは忠告。もう少し位は警戒した方が良いよ。何かが起きた時にすぐ対処できるように」
「……そういうアンタは少し警戒し過ぎじゃ無いですか。もう俺達は此処に迎え入れたのに」
「するよそりゃ。しない訳が無い」
杏は椅子に腰を沈め、俯き気味の視線と声音で口にする。
「一年前の一件で私は一日に三秒しか魔術を使えない体になった。そういえばあの時も女の子だったね」
「……」
自虐するように紡がれる言葉に、すぐに言い返す事が出来ない。
今回の件において、最も現実的に物事を考えられているのがおそらく風間杏だ。
確認されているだけで今まで7件あった、アンノウンが友好を装ってこの世界の人間に接触し、頃合いを待ち牙を向く。人の善意を踏み躙るような最悪な所業。
その内の一つ。一年前に東京本部で起きた事件の中心に彼女はいた。
そして中心にいて、善意を踏み躙られて、今此処にいる。
被害を辛うじて自分だけに収めた後に現場を退き、地方で全く適性の無い職務に四苦八苦している。
かつてとても表に公表できないような世界崩壊の危機を三度も回避し、世界中のウィザードから英雄視された彼女がだ。
そんな彼女は少し怯えたような声音で言葉を紡ぐ。
「……あの二人に直接会いに行かなかったのだって別に仕事が忙しかったからじゃない。その気になればいつもみたいに抜け出せる。でもその気になれなかった。怖かったんだ。今の顔合わせだって、マコっちゃんと柚子が居たから実現できた」
「……」
(……篠原さんの提案を全面的に受け入れたと聞いていたからある程度はと思ったけど、まだ思ったより傷は深いな。当然だけど)
でも、だとすれば。
「そんな状態で、よく篠原さんの提案を受け入れましたね」
この人は何故この現状を受け入れているのだろうか。
そして彼女は一拍空けてから言う。
「……私には止める権限はあっても資格は無いから。皆が現場で見て感じ取った末に出した決断を私は踏み躙れない。できる事なんて精々先輩として助言する事だけ。まあそれすらも満足にできないんだけどね。もう少し警戒しろなんてのもおかしい話だ。表に出ていないだけで、警戒は当然している筈だから」
「……ええ、まあ」
何せ事が起きたら自分達の首が飛ぶだけでは済まない。
場合によっては一般人の首が物理的に飛ぶ事も考えられる。
だから警戒はしている。最低限の警戒は。
そして神崎の返答を聞いた杏は、一拍空けてから笑みを浮かべて言う
「ごめんね呼び止めて。もう行って良いよ。結局私はただ気を付けてって改めて言いたかっただけだし。うん、ほんとごめん」
「いえ、ご心配ありがとうございます……じゃあ俺はアイツら待たせてるんでこれで」
そう言って神崎は踵を返し、歩を進める。
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「あ、マコっちゃん。最後に一つ」
「なんですか?」
「篠原さんにも言ったけど、面倒な事が有ったら躊躇わず私を利用して欲しい。支局長としてはあまりに無能だけど、こんな私にもまだ不相応な発言力は残っているからさ。力になれるかもしれない」
あまりに深い傷を負いながらも、それでももがき足掻く彼女が報われますようにと、強く祈りながら。
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