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1-2 彼女が世界に馴染めるように
11 所有物
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「俺がウィザードに……ですか?」
「ええ。私はそれが最も最善の策ではないかと考えています」
冗談などを言っている感じではなく、何処までも大真面目に。
そんな風に、誰にでも就けるわけではない職の上澄みに位置に立っているであろう篠原は、非現実的に思える提案の理由を掘り下げていく。
「今現在杉浦さんとユイさんは契約という形で結ばれている。つまり、そうですね……この言い方は非常に乱暴であまり言いたくは無いのですが、ユイさんは杉浦さんの所有物という事になります」
「所有物……ですか」
あまり聞いていて気分の良い言葉ではない。
ユイが人間という括りに入れて良いのかは分からないが、こちらの認識としては完全に人間の女の子だ。
少なくとも自分は、物としてはみれない。
それはきっと篠原も同じだろう。
「今は便宜上そういう事にしておいてください。あくまで今はですよ」
「分かってますよ。それで俺の所有物云々とウィザードになる事にどんな関係が?」
「簡単に言ってしまえば、ユイさんの所有者である杉浦さんがウィザードになり北陸第一支部に所属すれば、事実上ユイさんは我々の管理下に置かれるという訳です」
「置かれると……ユイが他のウィザードに狙われたりなんて事にはならないって事ですか?」
「その危険性を最小限にする事ができます。現に主に低級のアンノウンを解呪……人間に害の無い状態にしてウィザードが利用している例も少なくありません。確実にコントロールできる状態であるならば掴み取れる規定が異界管理局にはあるんです。それらと同じ扱いにできれば……民間人がユイさん程の力を持つアンノウンを抱えているという状況よりは遥かに守りやすくなる」
「……できるんですか? なんか低級のアンノウンをみたいな話出てましたけど、多分ユイはそんなレベルじゃないですよね。そんな凄い奴をコントロールしましたなんて話、現状部外者の俺が考えても通すの難しいと思うんですけど」
「通せるか通せないかじゃない。通すんです。下げられるだけの頭を下げて作れるだけの資料を作り、それらを後押しする為の実績作りも支援する。やれるだけの事は全部やらなければ」
そんな、強い覚悟を秘めた視線と声音を篠原はぶつけてくる。
(……やっぱこの人絶対逃げて無いんだよな)
内心そう考えながら、鉄平は頭を下げる。
「すみません、なんか色々やってもらって……大変じゃないですか?」
「この今を選ぶという事はそういう事です。それに……杉浦さんをウィザードにする事には我々としても大きなメリットがありますから」
「メリット?」
「そもそも北陸第一支部に限らず、ウィザードは深刻なレベルで戦力が足りていないんです」
「こっちを殺さない戦い方であれだけ動ける人達がいるのにですか?」
「……それでもです。この辺りは流石に半分こちら側に片足を突っ込んでいる杉浦さんにもお話できない事になるので今は掘り下げられませんが……戦力が足りない事は事実です」
だから、と篠原は纏めるように言う。
「こちら側にもメリットはあります。なので我々に掛かる負担などの事は考えなくても大丈夫ですが……さて、どうでしょうか?」
「……」
「まだ雇用条件の話を始めとした本来話しておかなければならない話は何もしていません。なのであくまでヒアリングです。基本的な労働条件などがのめる場合、ウィザードになるか否か。急ですが今の考えを教えてくれると助かります」
「……俺は余程ヤバイ条件じゃなきゃ頷きますよ」
鉄平は殆ど間を空けずにそう返す。
「別に今の俺が辞めにくい職に就いている訳じゃ無いし……それにユイを助ける為にウィザードと戦うような事をしている時点で今更止まらないでしょ。それが最善の手なら喜んでやります」
「……そうか」
「だけどユイはどうだ?」
「ん? ワシか?」
「ああ、お前の意思を聞いてない」
それは絶対に聞かなければならない。
「さっき篠原さんは便宜上ユイは俺の所有物だって言いましたけど……便宜上で実際はそうじゃない。だったらユイの考えも尊重しないと駄目だと思うんです」
「確かにそうですね。私も聞き方が悪かった」
篠原がそう頷いた所で、改めてユイに問いかける。
「ユイ、お前はどうしたい?」
「いや、鉄平が良いなら普通に良いぞ。なんか大変な事があってもどんと来いじゃ」
「……良いのかよ、本当に」
言いながら、先程までのユイの事を思い返す。
「お前さっき無害だから好きにしてくださいなんて事にはならない、とかそういう話してた時に頭抱えてたよな。それなのに良いのか? こういう組織に所属するって事は、それこそ好きにしてくださいって状態からは少し離れると思うぞ」
「いや、それはいい。別にその事自体にワシの不満は無いからの」
「え、無いのに頭抱えてたのお前。パフォーマンス?」
「いやいやいや、そんな訳無いじゃろう」
そしてユイは一拍空けてから言う。
「ワシが好きにやれないという事はきっと鉄平もそうじゃろう? 頭を抱えていたのはそういう事じゃ。じゃから……鉄平が良いならそれでいい」
「……そっか。だったら俺は大丈夫だ」
どうやらユイはただこちらの心配をしてくれていただけらしい。
きっと本当にそれだけだ。
やはり自分の事を棚に上げて人の事で頭を抱えだすような奴は、たとえ条件が厳しかろうと見捨てるわけにはいかない。
見捨てたくない。
だからこれで良い。
「なら止めんよ。じゃが無理は駄目じゃぞ」
「おう。……とまあこんな感じです篠原さん。だから頂いた話は前向きに検討しますよ」
コンビニバイトのフリーターからウィザードに転職する事を前向きに。
「そうですか。色々と良かったです」
「でも一つ確認しておきたい事があって」
「給料面とか社会保障の話ですかね」
「あ、いや、それはまた後日しっかり聞きたいんですけど、えっとそもそもの話……」
「そもそもの話?」
篠原に問い返され、鉄平は少々視線を反らしながら答える。
「資格とか何も無い未経験の高卒フリーターがウィザードにって、そもそも転職可能な話なんですかね」
そんな立ち塞がる壁の話を。
「ええ。私はそれが最も最善の策ではないかと考えています」
冗談などを言っている感じではなく、何処までも大真面目に。
そんな風に、誰にでも就けるわけではない職の上澄みに位置に立っているであろう篠原は、非現実的に思える提案の理由を掘り下げていく。
「今現在杉浦さんとユイさんは契約という形で結ばれている。つまり、そうですね……この言い方は非常に乱暴であまり言いたくは無いのですが、ユイさんは杉浦さんの所有物という事になります」
「所有物……ですか」
あまり聞いていて気分の良い言葉ではない。
ユイが人間という括りに入れて良いのかは分からないが、こちらの認識としては完全に人間の女の子だ。
少なくとも自分は、物としてはみれない。
それはきっと篠原も同じだろう。
「今は便宜上そういう事にしておいてください。あくまで今はですよ」
「分かってますよ。それで俺の所有物云々とウィザードになる事にどんな関係が?」
「簡単に言ってしまえば、ユイさんの所有者である杉浦さんがウィザードになり北陸第一支部に所属すれば、事実上ユイさんは我々の管理下に置かれるという訳です」
「置かれると……ユイが他のウィザードに狙われたりなんて事にはならないって事ですか?」
「その危険性を最小限にする事ができます。現に主に低級のアンノウンを解呪……人間に害の無い状態にしてウィザードが利用している例も少なくありません。確実にコントロールできる状態であるならば掴み取れる規定が異界管理局にはあるんです。それらと同じ扱いにできれば……民間人がユイさん程の力を持つアンノウンを抱えているという状況よりは遥かに守りやすくなる」
「……できるんですか? なんか低級のアンノウンをみたいな話出てましたけど、多分ユイはそんなレベルじゃないですよね。そんな凄い奴をコントロールしましたなんて話、現状部外者の俺が考えても通すの難しいと思うんですけど」
「通せるか通せないかじゃない。通すんです。下げられるだけの頭を下げて作れるだけの資料を作り、それらを後押しする為の実績作りも支援する。やれるだけの事は全部やらなければ」
そんな、強い覚悟を秘めた視線と声音を篠原はぶつけてくる。
(……やっぱこの人絶対逃げて無いんだよな)
内心そう考えながら、鉄平は頭を下げる。
「すみません、なんか色々やってもらって……大変じゃないですか?」
「この今を選ぶという事はそういう事です。それに……杉浦さんをウィザードにする事には我々としても大きなメリットがありますから」
「メリット?」
「そもそも北陸第一支部に限らず、ウィザードは深刻なレベルで戦力が足りていないんです」
「こっちを殺さない戦い方であれだけ動ける人達がいるのにですか?」
「……それでもです。この辺りは流石に半分こちら側に片足を突っ込んでいる杉浦さんにもお話できない事になるので今は掘り下げられませんが……戦力が足りない事は事実です」
だから、と篠原は纏めるように言う。
「こちら側にもメリットはあります。なので我々に掛かる負担などの事は考えなくても大丈夫ですが……さて、どうでしょうか?」
「……」
「まだ雇用条件の話を始めとした本来話しておかなければならない話は何もしていません。なのであくまでヒアリングです。基本的な労働条件などがのめる場合、ウィザードになるか否か。急ですが今の考えを教えてくれると助かります」
「……俺は余程ヤバイ条件じゃなきゃ頷きますよ」
鉄平は殆ど間を空けずにそう返す。
「別に今の俺が辞めにくい職に就いている訳じゃ無いし……それにユイを助ける為にウィザードと戦うような事をしている時点で今更止まらないでしょ。それが最善の手なら喜んでやります」
「……そうか」
「だけどユイはどうだ?」
「ん? ワシか?」
「ああ、お前の意思を聞いてない」
それは絶対に聞かなければならない。
「さっき篠原さんは便宜上ユイは俺の所有物だって言いましたけど……便宜上で実際はそうじゃない。だったらユイの考えも尊重しないと駄目だと思うんです」
「確かにそうですね。私も聞き方が悪かった」
篠原がそう頷いた所で、改めてユイに問いかける。
「ユイ、お前はどうしたい?」
「いや、鉄平が良いなら普通に良いぞ。なんか大変な事があってもどんと来いじゃ」
「……良いのかよ、本当に」
言いながら、先程までのユイの事を思い返す。
「お前さっき無害だから好きにしてくださいなんて事にはならない、とかそういう話してた時に頭抱えてたよな。それなのに良いのか? こういう組織に所属するって事は、それこそ好きにしてくださいって状態からは少し離れると思うぞ」
「いや、それはいい。別にその事自体にワシの不満は無いからの」
「え、無いのに頭抱えてたのお前。パフォーマンス?」
「いやいやいや、そんな訳無いじゃろう」
そしてユイは一拍空けてから言う。
「ワシが好きにやれないという事はきっと鉄平もそうじゃろう? 頭を抱えていたのはそういう事じゃ。じゃから……鉄平が良いならそれでいい」
「……そっか。だったら俺は大丈夫だ」
どうやらユイはただこちらの心配をしてくれていただけらしい。
きっと本当にそれだけだ。
やはり自分の事を棚に上げて人の事で頭を抱えだすような奴は、たとえ条件が厳しかろうと見捨てるわけにはいかない。
見捨てたくない。
だからこれで良い。
「なら止めんよ。じゃが無理は駄目じゃぞ」
「おう。……とまあこんな感じです篠原さん。だから頂いた話は前向きに検討しますよ」
コンビニバイトのフリーターからウィザードに転職する事を前向きに。
「そうですか。色々と良かったです」
「でも一つ確認しておきたい事があって」
「給料面とか社会保障の話ですかね」
「あ、いや、それはまた後日しっかり聞きたいんですけど、えっとそもそもの話……」
「そもそもの話?」
篠原に問い返され、鉄平は少々視線を反らしながら答える。
「資格とか何も無い未経験の高卒フリーターがウィザードにって、そもそも転職可能な話なんですかね」
そんな立ち塞がる壁の話を。
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<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
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