19 / 115
1-2 彼女が世界に馴染めるように
10 導き出した最善策
しおりを挟む
とにかく、あの場に居た全員が勝者でいられるように。
か細い糸を手繰り寄せて到達できた今を壊してしまわないように。
自分達は昨日の事よりも、これからの事を話していかなければならない。
その為にも一応篠原に問いかける。
「篠原さん、少し確認したい事が有るんですけどいいですか」
「なんですか?」
「あの時篠原さんの言葉で他のウィザードが止まった。今もこうして代表して俺と話してる。それってつまり、此処のお偉いさんみたいな認識で良いんですかね」
これから建設的な話をしていく為に、その辺は確認しておかなければならないと思った。
「お偉いさん……いや、そんな大層な者では……」
「いや、お偉いさんじゃぞ」
謙遜する篠原の代わりにユイが答える。
「篠原はワシらが戦っていたウィザードの部隊の隊長らしい。あと此処の幹部の一人じゃ」
「普通にお偉いさんだ……ていうかユイ」
色々と踏み込んだ話ができる相手だとは分かったが、その前にユイに言っておく事が出来た。
「なんじゃ?」
「篠原じゃなく、篠原さんな。目上の人だし、今此処の人達に色々世話になってるだろ。その辺はしっかりしような」
「あ、うん。分かったのじゃ」
素直にそう頷いたユイは言う。
「じゃあ改めてじゃが、篠原さんは此処のお偉いさんじゃ」
(よし、それで良い。喋り方自体は癖強いから無理にとは言わないけど、その辺はしっかりしていこうな、うん)
そう考え内心で頷く鉄平にユイは言う。
「……あれ、でもちょっと待つのじゃ。目上の人でお世話になっている相手の名前を呼ぶときはさんを付ける。という事は……鉄平、さん?」
「あ、いや、俺は良い俺は良い! なんか今更変えられてもしっくりこないから! なんというかこう、臨機応変に行こうぜ!」
「よ、よし! なんか良く分からんが分かったのじゃ」
「なら良し、この話終わり!」
そう言って鉄平は軽く柏手を打ってから落ち着いて篠原に言う。
「それで篠原さんがお偉いさんなら、色々と話しておきたい事が有るんです」
「強引に空気戻しましたね……で、なんでしょう」
「俺達は……というかユイは今後どうなります?」
「……丁度、その辺りの話をしていかなければならないと思ってました」
篠原は軽く咳ばらいをしてから続ける。
「現状、私達がユイさんやあなたに危害を加えたりするつもりはありません」
「まあだからワシがこうして生きている訳じゃからの」
「そうだな。だけど、普通に考えて無害だから好きにしてくださいなんて事にはならないですよね」
「いや、なるじゃろ。ワシ無害認定されたから生きてる訳じゃし」
「すみませんが、そんな簡単には行きません」
「行かんのか!? めっちゃ無害じゃよ今のワシ!?」
少しショックを受けたような表情を浮かべるユイに少し同情しながら、篠原の言葉を待つと、少し言いにくそうな雰囲気で彼は答える。
「それは分かってますよ。ただあくまで危害を加えない事にしたのは私達、異界管理局北陸第一支部のウィザードだけです。故にウィザードの一般論から外れた状況にあるユイさんは、今だ安全が完全に保証されている訳ではないのです」
「俺達にとって篠原さん達は味方って考えて良いんでしょうけど……味方の味方は敵って事ですよね」
「ええ。我々があなた方の味方をしているのはあくまでイレギュラーですから、現時点では極々少数派ですよ。……で、此処までは杉浦さんも察していたと思いますので、そろそろ此処から先の話をしましょうか」
「ええ、お願いします」
言いながら頷く鉄平と、軽く頭を抱えるユイを一瞥してから篠原は言う。
「今必要なのはユイさんを殺さずに生かしている事を少しでも外部のウィザード達に納得させる為の説得材料です。そして確実に効力を発揮するかは分かりませんが、一つ提案を用意してあります」
「提案、ですか?」
「ええ」
そして彼は鉄平に告げる。
「杉浦さん。我々の仲間に……ウィザードになりませんか?」
「……へ?」
そんな、大胆な提案を。
か細い糸を手繰り寄せて到達できた今を壊してしまわないように。
自分達は昨日の事よりも、これからの事を話していかなければならない。
その為にも一応篠原に問いかける。
「篠原さん、少し確認したい事が有るんですけどいいですか」
「なんですか?」
「あの時篠原さんの言葉で他のウィザードが止まった。今もこうして代表して俺と話してる。それってつまり、此処のお偉いさんみたいな認識で良いんですかね」
これから建設的な話をしていく為に、その辺は確認しておかなければならないと思った。
「お偉いさん……いや、そんな大層な者では……」
「いや、お偉いさんじゃぞ」
謙遜する篠原の代わりにユイが答える。
「篠原はワシらが戦っていたウィザードの部隊の隊長らしい。あと此処の幹部の一人じゃ」
「普通にお偉いさんだ……ていうかユイ」
色々と踏み込んだ話ができる相手だとは分かったが、その前にユイに言っておく事が出来た。
「なんじゃ?」
「篠原じゃなく、篠原さんな。目上の人だし、今此処の人達に色々世話になってるだろ。その辺はしっかりしような」
「あ、うん。分かったのじゃ」
素直にそう頷いたユイは言う。
「じゃあ改めてじゃが、篠原さんは此処のお偉いさんじゃ」
(よし、それで良い。喋り方自体は癖強いから無理にとは言わないけど、その辺はしっかりしていこうな、うん)
そう考え内心で頷く鉄平にユイは言う。
「……あれ、でもちょっと待つのじゃ。目上の人でお世話になっている相手の名前を呼ぶときはさんを付ける。という事は……鉄平、さん?」
「あ、いや、俺は良い俺は良い! なんか今更変えられてもしっくりこないから! なんというかこう、臨機応変に行こうぜ!」
「よ、よし! なんか良く分からんが分かったのじゃ」
「なら良し、この話終わり!」
そう言って鉄平は軽く柏手を打ってから落ち着いて篠原に言う。
「それで篠原さんがお偉いさんなら、色々と話しておきたい事が有るんです」
「強引に空気戻しましたね……で、なんでしょう」
「俺達は……というかユイは今後どうなります?」
「……丁度、その辺りの話をしていかなければならないと思ってました」
篠原は軽く咳ばらいをしてから続ける。
「現状、私達がユイさんやあなたに危害を加えたりするつもりはありません」
「まあだからワシがこうして生きている訳じゃからの」
「そうだな。だけど、普通に考えて無害だから好きにしてくださいなんて事にはならないですよね」
「いや、なるじゃろ。ワシ無害認定されたから生きてる訳じゃし」
「すみませんが、そんな簡単には行きません」
「行かんのか!? めっちゃ無害じゃよ今のワシ!?」
少しショックを受けたような表情を浮かべるユイに少し同情しながら、篠原の言葉を待つと、少し言いにくそうな雰囲気で彼は答える。
「それは分かってますよ。ただあくまで危害を加えない事にしたのは私達、異界管理局北陸第一支部のウィザードだけです。故にウィザードの一般論から外れた状況にあるユイさんは、今だ安全が完全に保証されている訳ではないのです」
「俺達にとって篠原さん達は味方って考えて良いんでしょうけど……味方の味方は敵って事ですよね」
「ええ。我々があなた方の味方をしているのはあくまでイレギュラーですから、現時点では極々少数派ですよ。……で、此処までは杉浦さんも察していたと思いますので、そろそろ此処から先の話をしましょうか」
「ええ、お願いします」
言いながら頷く鉄平と、軽く頭を抱えるユイを一瞥してから篠原は言う。
「今必要なのはユイさんを殺さずに生かしている事を少しでも外部のウィザード達に納得させる為の説得材料です。そして確実に効力を発揮するかは分かりませんが、一つ提案を用意してあります」
「提案、ですか?」
「ええ」
そして彼は鉄平に告げる。
「杉浦さん。我々の仲間に……ウィザードになりませんか?」
「……へ?」
そんな、大胆な提案を。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる