魔剣拾った。同居した。

山外大河

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1-2 彼女が世界に馴染めるように

ex 世界の平和を守る者として最悪な選択

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 この戦いが始まってからずっと、篠原は止まっても良い理由を探していた。

 感情論からかけ離れた位置に存在する合理的な理由。
 何かの偶然や奇跡が重なって、そんな宝のような物が見つかってくれることを、ただただ祈っていた。

 だけど結局そんな物は何処にもなくて。

 ただ杉浦鉄平がこちらに危害を加えない戦いを選択していて。
 そして彼を庇うようにアンノウンが自分の命を差し出して来たのを見ただけ。

 感情に訴える事は多々あれど、ユイと呼ばれていたアンノウンが無害である事を証明する材料は無い。
 恐らく何らかの理由で弱体化した彼女が、元の力を取り戻すまでの時間を稼ぐ為に、感情に訴えるように命を差し出すフリをして頭を下げてる可能性を否定しきれない。

 だとしたら、部下や多くの民間人の命を預かる立場の者として、此処では感情論に身を任せず厳格な判断をしなければならないと。
 自分に何度もそう言い聞かせた。

 言い聞かせた筈なのだ。

 それでも結果的に溢れ出てきたのは百パーセントの感情だった。

「なら俺達がキミやキミを守ろうとした杉浦さんと戦う理由は無いな。これで戦いは終わりだ」

 特に合理的な理由も無く、この戦いを終わらせる事にした。

「良いんですか、篠原さん」

 小声で聞いて来る神崎に言葉を返す。

「良くはない……ただ俺がこの先に踏み出せなくなっただけだ。そんな臆病者が職権を乱用して楽な道に逃げた。ただそれだけなんだ」

 そう言った直後、視界の先でこれまで意識を保っていた杉浦鉄平が力尽きたようにアスファルトに倒れ込んでしまう。
 それにユイと呼ばれたアンノウンが気付き、慌てて駆け寄った。

「お、おい! 大丈夫か鉄平! 返事をするのじゃ!」

 そして返事が返ってこない事実を目の当たりにした彼女は、こちらに訴えかける。

「し、篠原と言ったか!? ワシの事はどうでも良いから、お願いだから鉄平を助けてくれ!」

 そう、自分の事なんかまったく考えずに、ただ必死に。

 そしてそれを見て、隣の神崎が言う。

「篠原さん。アンタは別に職権の乱用なんてしていない。誰も今の彼女を攻撃できない時点で大なり小なり考えは同じです。アンタは皆の代表で一歩前へ踏み出した。誰にも踏み出せなかった勇気の一歩を踏み出したんだ。まるで自分が我儘を言ったみたいに言うのは止めてください」

「踏み出した先は奈落の底かもしれないぞ。俺はお前達に攻撃しろと言わなければならない立場だろ本来は」

「少なくとも俺達は何も文句を言えませんよ。もう一度言いますが、皆の総意だ」

 そして一拍空けた後、神崎は言う。

「とにかく俺達は進みだしたんだ。さっさと次の指示を出してください、篠原隊長」

「あ、ああ」

 そしてそう促された篠原は、一歩一歩と後戻りが効かない歩を進める。

「皆、聞いてくれ。これよりこの二人を第一支部に連れて帰る。救護班は杉浦さんの応急処置を。支局長は俺が説得するし、諸々の矢面には俺が立つから安心して迅速に事に当たってくれ。分かっていると思うが手荒な真似はするな!」

 そう指示を出して、それからアンノウンに向けて言う。

「杉浦さんは俺達が責任を持って治療する。キミの安全の確保も約束しよう……襲っていた側の言葉など信用できないかもしれないが、信用してくれると助かる」

「あ、ありがとうなのじゃ……」

 その言葉を聞いてこちらの事を信頼してくれているように、安堵の表情を浮かべた彼女はもう一度こちらに頭を下げる。

 そんな彼女を見て思う。
 おそらく自分は最低な選択をしている。

 意思を持つアンノウンに信頼を向けて裏切られたケースは多々存在する。
 きっと状況は違えど、同じような意思決定のプロセスで悲劇の引き金を引いて来た筈だ。
 それが分かっているのにこの選択をした。
 同じ轍を踏んでしまうかもしれない選択をした。

 それはきっと世界の平和を守る者として最悪な選択であるに違いない。
 人の上に立つ人間の取るべき選択ではない。

 ……それでも、この選択が正しかったと後で笑って言えるように。
 最大限、自分にできる戦いはやっていこうと。

 どこか安堵したように彼らに駆け寄っていく部下達の姿を見ながら、そう思った。
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