魔剣拾った。同居した。

山外大河

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1-2 彼女が世界に馴染めるように

5 覚悟

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「コイツは……ユイは無害だ。この世界をどうこう、したりはしない。だからお前達には……渡せねえんだよ」

 逃げる事を諦めずに周囲の隙を伺いながら、僅かな可能性に縋るようにそんな言葉をポニーテールのウィザードにぶつけてみるが、その表情は険しい。

 こちらの言葉は届かない
 結局の所、こちらも向うもそれを証明する術がないのだ。

 ユイを凶器にしない為に立ちまわっても、それは地球を侵略しに来たイカれた力を持つ剣の少女をどうにか助けようとしている杉浦鉄平の選択としか映る訳が無く、その行動自体で証明できる事があったとしても、それはユイの事では無い。

 故に最初に篠原が懸念していた鉄平が騙されている可能性は。
 彼ら彼女らが懸念している、ユイが無害を装い鉄平をピエロにしているだけという可能性に対する否定材料にはなり得ない。

 鉄平の言葉に険しい表情を浮かべてくれる位には、やりにくさを感じてくれている相手を止める材料にはならない。

 こちらに交渉という戦いで切れる有効なカードは何も残っていないのだ。
 ……それでも。

「引いてくれ……頼むから」

 意識が消し飛びそうな重い体から、なんとか紡げるだけ言葉は紡ぐ。
 例えそれがとても情けない言葉だったとしても。

「引けないっす。それが何でなのかは……ドンパチ始める前に篠原さんから聞いてるっすよね」

「全部聞いてる。聞いたうえで……逃げてんだ、こっちは。渡さねえぞ絶対に」

「そうっすよね。聞いてて逃げた。しかもただの一度の反撃もしてこないような覚悟の決まり方っすから。本当にその子を信頼して守ろうとしているのは分かるんすよ……だから多分あなたは気を失うまでその手を離さない。こちらの言葉なんか聞いてくれない……だから、悪いっすけど……その気持ちは踏み躙るっす」

 そう言って改めて彼女は構えを取る。
 こちらが何故反撃しないのかもきっと全部分かっていて。理解してくれていて。
 それでも……彼女もまた、立派な正義の味方の筈だから。
 止まってはくれない。

 そして構えを取った彼女は言う。

「杉浦さん。一応言っとくっすけど、どうせどういう行動を取ろうと、私達のやる事は変わらないし変えられないんす。その子の見方もそうだし、あなたが被害者って事もっすね。だから抵抗したかったら抵抗したって良いんすよ」

「ふざけんな、乗らねえよ。それてめえの、罪悪感……少しでも消す為に言ってんだろ」

 言いながら鉄平も構えを取る。
 ユイを一切振るわない。抵抗もしない。
 ただ向かってきた攻撃を全力で躱し突破する為だけの、合理性も何も無い我流の構え。
 それを構えて言う。

「例えウィザードやその他世間の目が変わらなくても、その一線は越えねえ。越えちまったらコイツに胸張ってお前は悪くないって言えなくなる気がするからな」

 だから……人の目が変わらなくても、この意思は変えられない。
 これまで弱弱しくなっていた声を、必死になって張り上げる。

「そんな訳で掛かって来いよ正義の味方! てめえらを一つも傷付ける事無くこの場切り抜けてやっから覚悟しとけ!」

 言いながら、無我夢中に。
 辛うじて立っていられている程にボロボロな体をなんとか動かそうとした、その時だった。

 露骨に、体が重くなった。

「もういい、鉄平」

 手に伝わる感触がナイフの持ち手ではなく人の手になっていて。
 声も脳に直接ではなく耳に届いている。
 そして目の前に……鉄平の手を握る白髪の少女の姿が有った。

(ユイ……なんで……?)

 一瞬、何が起きているのか理解できなかった。
 だが、周囲のウィザードが動揺している様子が視界に入り、その意図を理解した。

(そうか、考えたなユイ!)

 かなりイチかバチかの行動。
 この状況で突然ナイフの状態から人間の姿に戻るという、おそらく誰も想定していなかった行動を取り、ウィザードを動揺させ……隙を作る。
 そういう作戦。

 そしてそれは成功した。

 今なら辛うじて突けるかもしれない隙が出来た。
 だとしたら一秒でも早く行動を。

「行くぞユイ!」

 合図するようにそう言う鉄平。
 だがその肉体は重いままで、ユイの姿もそのままだ。

「……ユイ?」

「……」

(おい、なんでだ……なんでナイフの姿にならねえ)

 その答えが分からないまま、鉄平はその場に膝を付く。
 先の冗談のような破壊力の一撃。
 それを喰らって、おそらくそこら中に異常をきたしていた鉄平が立って動けていたのは、ユイから膨大な力が供給されていたからだ。

 それが失われた今。
 彼女との契約で流れている申し訳程度の力しかこの手に無い今では、立っている事すらままならない。

 だから早く、再び力を供給して貰わなければならないのだ。

 だけどそんなユイは、どこか覚悟を決めたような表情を浮かべて優しく静かに鉄平に言った。

「もう良いのじゃ、鉄平」

 この戦いを、こちら側から終わらせるような一言を。
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