13 / 115
1-2 彼女が世界に馴染めるように
5 覚悟
しおりを挟む
「コイツは……ユイは無害だ。この世界をどうこう、したりはしない。だからお前達には……渡せねえんだよ」
逃げる事を諦めずに周囲の隙を伺いながら、僅かな可能性に縋るようにそんな言葉をポニーテールのウィザードにぶつけてみるが、その表情は険しい。
こちらの言葉は届かない
結局の所、こちらも向うもそれを証明する術がないのだ。
ユイを凶器にしない為に立ちまわっても、それは地球を侵略しに来たイカれた力を持つ剣の少女をどうにか助けようとしている杉浦鉄平の選択としか映る訳が無く、その行動自体で証明できる事があったとしても、それはユイの事では無い。
故に最初に篠原が懸念していた鉄平が騙されている可能性は。
彼ら彼女らが懸念している、ユイが無害を装い鉄平をピエロにしているだけという可能性に対する否定材料にはなり得ない。
鉄平の言葉に険しい表情を浮かべてくれる位には、やりにくさを感じてくれている相手を止める材料にはならない。
こちらに交渉という戦いで切れる有効なカードは何も残っていないのだ。
……それでも。
「引いてくれ……頼むから」
意識が消し飛びそうな重い体から、なんとか紡げるだけ言葉は紡ぐ。
例えそれがとても情けない言葉だったとしても。
「引けないっす。それが何でなのかは……ドンパチ始める前に篠原さんから聞いてるっすよね」
「全部聞いてる。聞いたうえで……逃げてんだ、こっちは。渡さねえぞ絶対に」
「そうっすよね。聞いてて逃げた。しかもただの一度の反撃もしてこないような覚悟の決まり方っすから。本当にその子を信頼して守ろうとしているのは分かるんすよ……だから多分あなたは気を失うまでその手を離さない。こちらの言葉なんか聞いてくれない……だから、悪いっすけど……その気持ちは踏み躙るっす」
そう言って改めて彼女は構えを取る。
こちらが何故反撃しないのかもきっと全部分かっていて。理解してくれていて。
それでも……彼女もまた、立派な正義の味方の筈だから。
止まってはくれない。
そして構えを取った彼女は言う。
「杉浦さん。一応言っとくっすけど、どうせどういう行動を取ろうと、私達のやる事は変わらないし変えられないんす。その子の見方もそうだし、あなたが被害者って事もっすね。だから抵抗したかったら抵抗したって良いんすよ」
「ふざけんな、乗らねえよ。それてめえの、罪悪感……少しでも消す為に言ってんだろ」
言いながら鉄平も構えを取る。
ユイを一切振るわない。抵抗もしない。
ただ向かってきた攻撃を全力で躱し突破する為だけの、合理性も何も無い我流の構え。
それを構えて言う。
「例えウィザードやその他世間の目が変わらなくても、その一線は越えねえ。越えちまったらコイツに胸張ってお前は悪くないって言えなくなる気がするからな」
だから……人の目が変わらなくても、この意思は変えられない。
これまで弱弱しくなっていた声を、必死になって張り上げる。
「そんな訳で掛かって来いよ正義の味方! てめえらを一つも傷付ける事無くこの場切り抜けてやっから覚悟しとけ!」
言いながら、無我夢中に。
辛うじて立っていられている程にボロボロな体をなんとか動かそうとした、その時だった。
露骨に、体が重くなった。
「もういい、鉄平」
手に伝わる感触がナイフの持ち手ではなく人の手になっていて。
声も脳に直接ではなく耳に届いている。
そして目の前に……鉄平の手を握る白髪の少女の姿が有った。
(ユイ……なんで……?)
一瞬、何が起きているのか理解できなかった。
だが、周囲のウィザードが動揺している様子が視界に入り、その意図を理解した。
(そうか、考えたなユイ!)
かなりイチかバチかの行動。
この状況で突然ナイフの状態から人間の姿に戻るという、おそらく誰も想定していなかった行動を取り、ウィザードを動揺させ……隙を作る。
そういう作戦。
そしてそれは成功した。
今なら辛うじて突けるかもしれない隙が出来た。
だとしたら一秒でも早く行動を。
「行くぞユイ!」
合図するようにそう言う鉄平。
だがその肉体は重いままで、ユイの姿もそのままだ。
「……ユイ?」
「……」
(おい、なんでだ……なんでナイフの姿にならねえ)
その答えが分からないまま、鉄平はその場に膝を付く。
先の冗談のような破壊力の一撃。
それを喰らって、おそらくそこら中に異常をきたしていた鉄平が立って動けていたのは、ユイから膨大な力が供給されていたからだ。
それが失われた今。
彼女との契約で流れている申し訳程度の力しかこの手に無い今では、立っている事すらままならない。
だから早く、再び力を供給して貰わなければならないのだ。
だけどそんなユイは、どこか覚悟を決めたような表情を浮かべて優しく静かに鉄平に言った。
「もう良いのじゃ、鉄平」
この戦いを、こちら側から終わらせるような一言を。
逃げる事を諦めずに周囲の隙を伺いながら、僅かな可能性に縋るようにそんな言葉をポニーテールのウィザードにぶつけてみるが、その表情は険しい。
こちらの言葉は届かない
結局の所、こちらも向うもそれを証明する術がないのだ。
ユイを凶器にしない為に立ちまわっても、それは地球を侵略しに来たイカれた力を持つ剣の少女をどうにか助けようとしている杉浦鉄平の選択としか映る訳が無く、その行動自体で証明できる事があったとしても、それはユイの事では無い。
故に最初に篠原が懸念していた鉄平が騙されている可能性は。
彼ら彼女らが懸念している、ユイが無害を装い鉄平をピエロにしているだけという可能性に対する否定材料にはなり得ない。
鉄平の言葉に険しい表情を浮かべてくれる位には、やりにくさを感じてくれている相手を止める材料にはならない。
こちらに交渉という戦いで切れる有効なカードは何も残っていないのだ。
……それでも。
「引いてくれ……頼むから」
意識が消し飛びそうな重い体から、なんとか紡げるだけ言葉は紡ぐ。
例えそれがとても情けない言葉だったとしても。
「引けないっす。それが何でなのかは……ドンパチ始める前に篠原さんから聞いてるっすよね」
「全部聞いてる。聞いたうえで……逃げてんだ、こっちは。渡さねえぞ絶対に」
「そうっすよね。聞いてて逃げた。しかもただの一度の反撃もしてこないような覚悟の決まり方っすから。本当にその子を信頼して守ろうとしているのは分かるんすよ……だから多分あなたは気を失うまでその手を離さない。こちらの言葉なんか聞いてくれない……だから、悪いっすけど……その気持ちは踏み躙るっす」
そう言って改めて彼女は構えを取る。
こちらが何故反撃しないのかもきっと全部分かっていて。理解してくれていて。
それでも……彼女もまた、立派な正義の味方の筈だから。
止まってはくれない。
そして構えを取った彼女は言う。
「杉浦さん。一応言っとくっすけど、どうせどういう行動を取ろうと、私達のやる事は変わらないし変えられないんす。その子の見方もそうだし、あなたが被害者って事もっすね。だから抵抗したかったら抵抗したって良いんすよ」
「ふざけんな、乗らねえよ。それてめえの、罪悪感……少しでも消す為に言ってんだろ」
言いながら鉄平も構えを取る。
ユイを一切振るわない。抵抗もしない。
ただ向かってきた攻撃を全力で躱し突破する為だけの、合理性も何も無い我流の構え。
それを構えて言う。
「例えウィザードやその他世間の目が変わらなくても、その一線は越えねえ。越えちまったらコイツに胸張ってお前は悪くないって言えなくなる気がするからな」
だから……人の目が変わらなくても、この意思は変えられない。
これまで弱弱しくなっていた声を、必死になって張り上げる。
「そんな訳で掛かって来いよ正義の味方! てめえらを一つも傷付ける事無くこの場切り抜けてやっから覚悟しとけ!」
言いながら、無我夢中に。
辛うじて立っていられている程にボロボロな体をなんとか動かそうとした、その時だった。
露骨に、体が重くなった。
「もういい、鉄平」
手に伝わる感触がナイフの持ち手ではなく人の手になっていて。
声も脳に直接ではなく耳に届いている。
そして目の前に……鉄平の手を握る白髪の少女の姿が有った。
(ユイ……なんで……?)
一瞬、何が起きているのか理解できなかった。
だが、周囲のウィザードが動揺している様子が視界に入り、その意図を理解した。
(そうか、考えたなユイ!)
かなりイチかバチかの行動。
この状況で突然ナイフの状態から人間の姿に戻るという、おそらく誰も想定していなかった行動を取り、ウィザードを動揺させ……隙を作る。
そういう作戦。
そしてそれは成功した。
今なら辛うじて突けるかもしれない隙が出来た。
だとしたら一秒でも早く行動を。
「行くぞユイ!」
合図するようにそう言う鉄平。
だがその肉体は重いままで、ユイの姿もそのままだ。
「……ユイ?」
「……」
(おい、なんでだ……なんでナイフの姿にならねえ)
その答えが分からないまま、鉄平はその場に膝を付く。
先の冗談のような破壊力の一撃。
それを喰らって、おそらくそこら中に異常をきたしていた鉄平が立って動けていたのは、ユイから膨大な力が供給されていたからだ。
それが失われた今。
彼女との契約で流れている申し訳程度の力しかこの手に無い今では、立っている事すらままならない。
だから早く、再び力を供給して貰わなければならないのだ。
だけどそんなユイは、どこか覚悟を決めたような表情を浮かべて優しく静かに鉄平に言った。
「もう良いのじゃ、鉄平」
この戦いを、こちら側から終わらせるような一言を。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる