魔剣拾った。同居した。

山外大河

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1-2 彼女が世界に馴染めるように

4 彼らと最後の戦いを

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 こちらが目の前のウィザードを潜り抜けようとする前に、先手を打ったのは魔法陣を展開していた女だった。
 魔法陣が消滅すると同時に、彼女の周囲に十数個の光の球体が出現。

『来るぞ鉄平!』

「ああ!」

 そう叫んだ次の瞬間には球体全てがこちらに射出される。
 弾速は早く、潜り抜ける為の空間を割り出す余裕はない。
 ……だが。

『防げ!』

 ユイがそう叫ぶと共に、まるで彼女から指示を受けたように脳内に情報が流れ込む。
 この一撃を切り抜ける為に、ユイが考えた最適解とその方法だ。
 当然そこに強制力など何も無い。

 だがこの場においてそれは……鉄平にとっても最適解だった。

「頼むぞユイ!」

 その場で踏みとどまって叫ぶと同時にユイを振るった。
 当然の事ながら、その刃は空を切る。
 何も斬らない。斬るつもりは無い。

 代わりに……半透明の壁が出現した。

(……出た! これでどうにか……ッ!)

 敵からの攻撃を防ぐ為の結界。
 その結界は十数発の遠距離攻撃にヒビを入れられながらも防ぎ切る。
 その直後、前衛のウィザードの一人が手にした刀で結界を叩き割るが、十分だろう。
 強力な魔術による攻撃を防ぎ、その後前衛一人を結界の破壊の為に動かせた。
 前方は残り一人躱して進むだけで良い。

 ……そう思ったが、何かがおかしい。

(コイツ……ッ!)

 目の前の男の動きは、明らかに捨て身の構えだった。
 反撃された場合の事など一切考えない。攻撃一辺倒の極端な構えと動き。

 まるでこちらが反撃しない事を前提に動いているかのような、そんな動きだ。

 そして男は言う。

「悪いな……その隙付け込むぞ」

 そして刀による明らかな大振りの一撃を躱す鉄平の体は、次の瞬間弾き飛ばされて激痛と共にブロック塀に叩き付けられた。
 空を切った刀から衝撃波が発せられたのだ。

『大丈夫か鉄平!?』

 そう脳内に声を響かせるユイだが、それに返答している余裕は申し訳ないが無かった。
 弾き飛ばされて壁に叩き付けられた。その僅かな時間。

 その間に女が次弾の装填に掛かり、結界を砕いた男はこちらに飛び掛かる構えを見せる。
 そして一連の停滞時間の間に追いついて来る……アパートの駐車場で張っていた連中が。

 次の瞬間には同時に飛び掛かってくる。

(……やっべ)

 前に進んでも後ろに戻っても、掻い潜れる隙が見付けられない。

(それでも止まってるよりは……いや)

 必死に脳を稼働させ目標を定める。
 前方後方に抵抗せずに通れるような道は残っていない。

 それでも……上なら。

「いくぞおおおおおおおおおおおおおおお!」

 激痛が走る全身に力を込め、全力で上空目掛けて跳び上がった。
 およそ十数メートル。改めて今の自分に人間離れした身体能力が備わっている事が分かる高さ。
 そこまで跳んだ。
 まだも少しは高度を稼げる。

(……飛べるウィザードが居るのは知ってる。だけど全員がそうとは限らない。中々名案だろこれ)

 こちらは先程作った結界の生成を応用すれば、足場を作る事が可能だ。
 つまり空中である程度の機動力を確保する事が出来るのだ。

 そうなると警戒すべきは遠距離での攻撃と飛べるウィザードに絞られるのではないかと思う。少なくとも地上よりは壁が、戦力が薄くなる。
 ……そう考えたが。

(ま、そう簡単には行かねえか)

 約半数が地上に残ったが、刀を持っていた者を含め全員が何かしらの魔術の発動準備を行っている。
 そして残り半数はこちらがこれからしようとしているように、瞬時に結界を足場にして既にこちらに向かってきていた。

(普段訳分からねえ異世界の何かと戦ってるもんな。こんな簡単な事で動けなくなる人達なんていないか)

 そういう人達が普段頑張ってくれているからこそ、自分達の生活は成り立ってるのだから。
 これで何とかなるなんて考えはきっと、短絡的で失礼に値するものだ。
 ……自分が今相手にしている人達は、全員一定以上に凄い人達なのだ。

 そう、危機感を感じながらもウィザード達を関心していた時だった。

 視界の端から物凄い勢いでぶっ飛んで来る、女子高生にも見えるポニーテールの若いウィザードが見えた。

 警戒心は向けるがまだ距離はある。
 そう考えている鉄平に向けて手の平を向けた彼女が口を開く。
 そして強化された聴力が、その声を辛うじて拾った。

「閉じろ」

 次の瞬間、鉄平を取り囲むように半透明の黒い箱状の結界が展開された。

「なんだこれ、ぐえっ!?」

 突然できた結界の天井に頭をぶつけ、間の抜けた声が出る。

『おい、物凄く間の抜けた変な声が出ていたようじゃが大丈夫か鉄平!?』

「貶してるのか心配してるのかどっちだ!」

『心配してるに決まってるじゃろう!』

「分かってるごめん!」

 言いながら結界に足を付け、頭を押さえながら天井を見上げる。
 中々のスピードで頭突きをかました事になる訳だが、結界にはヒビ一つない。

(固いな、でもこれなら……ッ!)

 体制を立て直しユイを振るうが、刀身を叩きつけたポイントにも同じくヒビ一つ入らない。
 何度も打ち込めば破壊できるかもしれないが、一回二回では難しそうだ。
 どうやら相当強固な箱の中に閉じ込められたらしい。

「くそ、どうにかしてぶっ壊さねえと──」

『これをやってみろ鉄平!』

 ユイがそう叫ぶと、先程の結界と同じように情報が脳内に流れ込んでくる。

(試してみる価値はあるな……ていうかこれしかねえ)

 早急に破壊して脱出しなければ、かなり不利な状況になる。
 まだ此処に誰も追いついていない内に、破壊しなければならない。

 その為に、高火力の一撃を。 

(行くぞ)

 ユイの刀身にエネルギーを充填するように集中させ、そして誰も巻き込まないように頭上に狙いを定める。
 そして。

「せーのぉッ!」

 勢いよく頭上目掛けてユイを振り抜いた。

 次の瞬間、文字通り斬撃が飛んだ。

 その一撃は轟音と共に空間を揺らし、黒い結界を貫き破壊し天へと上り、上空を覆っていた雲を割く。
 放ったのが上空だったからこそ、その程度の事しか起きなかったと確信できる程の強大な一撃。

(え、えげつねえ……弱体化してこれなのかよ)

 その威力に少々引いた。
 もしもこの力が無差別に振るわれたら一体どれだけの血が流れるのだろうかと、ウィザード達が必死になる理由が改めて良く分かった気がした。
 
(そりゃこんなもん無害です、はいそうですかなんて簡単に事が運ぶ訳ねえよな。普通に考えたら運ばせちゃ駄目なんだ……普通に考えたら。この人達は本当に、当たり前にやるべき事をやってるんだ)

 だからこそ尚の事、この人達に攻撃は出来ない。

 改めて決意を固めながら壊れた結界の箱の代わりに新たな足場を作ろうとする鉄平のすぐ隣に、ポーニーテールのウィザードが居た。

 まだ距離があると直前に認識できた筈なのに、もうすぐ隣に。

「解析完了っすよ」

 そんな意味深な発言の意味はともかく。
 武器を持たない彼女の右拳が握られ構えられていた。

「全力で打ち込んでも、一撃なら」

 そして次の瞬間、その拳は鉄平目掛けて放たれる。

 その一撃を見て、確信した。

(あ、これヤバい奴だ)

 地上で戦っていたウィザード達よりも遥かに格上。
 ユイの力を振るわなければならないと、本能が訴えてくる程の実力者。

 コイツを殺さなければこっちが殺される。

 そう、本能が訴えていた。
 実際ユイをなんとか振るえる体勢でもあった。

 ……それを理性と覚悟で抑え込んだ。

「が……ッ!?」

 そんな鉄平を。
 足場も無く不安定な体制の鉄平を地上に叩き落とすように、彼女の拳が振るわれ鈍い声が吐き出された。

 鳩尾に叩き込まれた肉体を貫かれたと錯覚する程の一撃の衝撃は、瞬く間に全身へと広がり、意識をぐちゃぐちゃに吹き飛ばしに掛かる。
 一撃で気力も体力も全て吹き飛ばしていく。
 ……それでも、踏み止まった。

 そしてアスファルトに叩き付けられ、何度も地面を転がって。
 吐きそうになる程の衝撃が再び全身に広がりながらも、意識を飛ばさずその場で立ち上がる事が出来た。

 なんとか、辛うじて。

『鉄平……だ、大丈夫……か?』

「大丈夫だ……どした、声震えてんぞ」

『いや、だってお主……駄目じゃってこれ……』

 ユイの声が露骨に変わった。
 もしかすると力を供給しているユイには、こちらの肉体の情報が伝わるのかもしれない。
 だとしたらおそらく、碌な情報ではないのだろう。

 そう思えるほどに、実際今の一撃だけは絶対に貰ってはいけない物だった。
 一撃を喰らう前にイチかバチかこちらも攻撃を向けて、倒す事を考えなければならなかった。
 喰らった一撃は、それだけ強力で。
 一撃を与えるか喰らうか。あの場で展開されていた戦いはつまりそういう物だったのだ。
 
 そしてその矛は、この先もこちらに向けられるだろう。
 貰ってはいけない一撃が、回避困難な速度でまだ放たれ続ける。

 こちらにあまりに大きなダメージが蓄積したにも関わらずだ。

 彼女の登場で、戦局が一気に絶望的な物に切り替わったのが理解で来た。
 それでも。

「大丈夫だ……ユイ。俺は……滅茶苦茶……元気、だからよ」

 そんな虚言はまだ吐ける。
 まだ彼女達と戦わない意思は消えない。

 そしてそんな鉄平の前に彼女は降り立つ。
 すぐに攻撃を打ってくる様子は無く、ついでに言えば鉄平の周囲に再展開されたウィザード達の包囲網も現状包囲をしているだけだった。

 そしてそんな中で、代表してポニーテールのウィザードが問いかけてくる。

「杉浦さん。別にあなたのやろうとしている事が悪い事だとは言わないっす。だけどそろそろ諦めてそのナイフをこちらに渡してくれないっすか」

 始まったのは説得だ。
 こちらの武装解除を促す説得。

「……」

 気が付けば続々と集まってきたウィザードが逃げ場を塞ぐように取り囲んでいく中で。

「……渡さない」

 正義の味方との最後の戦いが始まった。
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