11 / 115
1-2 彼女が世界に馴染めるように
ex 止まっても良い理由を
しおりを挟む
(少なくとも彼からすれば、無害な女の子を凝り固まった考えの大人達からなんとか守ろうとしている訳だ。これじゃ悪役だな俺達は)
アンノウンを取り逃がした一級ウィザードの篠原は、内心ため息を吐きながら耳元に手を当てて言う。
「こちら篠原。悪いがアンノウンを仕留めそこなった。アンノウンの外見情報は既に皆の端末に既に送信済み。確認してプランBに移行してくれ……分かっていると思うが杉浦鉄平は民間人で被害者だ。必要以上の攻撃は加えるな……その辺はしっかり頼む」
作戦に参加している全員に指示を出した後、後ろに控えていた部下の長身の男、準一級ウィザードの神崎が静かに言う。
「なんで撃たなかったのか、なんて事を聞くのは野暮ですか? アンタなら杉浦を避けてアンノウンだけ撃ち抜けたでしょう」
「いや、杉浦さんが邪魔で打てなかった。……そういう事にしておいてくれないか?」
「……良くも悪くも甘すぎるんだ篠原さんは」
「良くは無いだろ立場上……悪くも悪くもだ。とにかく此処は俺と神崎だけで良い。皆は他の班に合流してくれ」
神崎の溜息を聞きながら、彼以外の部下を逃走した杉浦とアンノウンの元へと向かわせる。
「俺達もさっさと終わらせて応援に行きますよ」
「ああ。風間が居るとはいえ相手の力は未知数だ。まともにぶつかればどうなるか分からないからな」
言いながら、静かに考える。
(まともにぶつかれば……か)
先の杉浦鉄平との会話と、見るからに無害そうなアンノウンの姿を思い浮かべるが……彼らが。少なくとも彼が自発的に戦おうとする可能性は薄い。
つまりぶつかった時点でまともではない。
こちら側が理不尽を彼に押し付けて、ぶつけさせているに過ぎない。
職務の事を考えずに感情論だけで物事を考えた場合、良い歳した大人が若者に振るって良い所業ではないだろう。
そんな胃が重くなるような事を考えながら、神崎と共に部屋の中に入る。
アンノウンの生体や機構はそれぞれまるで異なるが、これまでウィザードが戦い続けて積み上げたデータから、起きるかもしれない事というのは幾分か把握できている。
例えば……拠点とする場所に、拠点外での活動を支援する何かが作り上げられていたりだとか、そういう事。
篠原と神崎が此処に残った理由がそれだ。
場合によってはこちらをどうにかしなければ、実際の現場で何一つ事が進展しない場合もある。それを避ける為に、調べられる事は調べなければならない。
……だが。
「見た感じ、何もありませんね……」
言いながら神崎は地面に手の平を置き、そこを中心に魔法陣を展開させる。
「……やはり何も。俺が見落としてなければ、この手の何かを作っておくタイプのアンノウンじゃありませんね」
「だな。俺の方も引っ掛からない。此処には何も無いな間違いなく」
そう言いながら視線を向ける先にあるのは、二人分のマグカップ。
どちらにもコーヒーが注がれている。
そんな穏やかな時間の跡。
……アンノウンの出現タイミングは深夜で、長々と建設的な話をする時間は無かったのかもしれない。
だから朝、こうして落ち着ける飲み物を注いで今後の事でも話していたのだろうか。
それは分からない。
分かる程、杉浦鉄平とは互いに心を許すような対話が出来ていない。
こちらがそうさせなかった。
そんな簡単で当たり前で人道的な事に、どれだけのリスクがあるのかを良く知ってしまっているから。
臨機応変な対応ができないから。
何かが起きた時に後出しで全てを解決できる程に、少なくとも自分は優秀では無いから。
「……行くぞ、神崎。お前の所にも届いていると思うが、あのアンノウンがダガーナイフに変化したらしい。現時点のグレードはSランク。お手軽にこの辺り一帯吹き飛びかねない程の強敵だ。俺達の力も必要になって来るかもしれない」
「ええ、分かってますよ……だからさっさと人の生活の跡から視線を反らして切り替えてください。その調子じゃ死にますよ。気持ちは分かりますけど」
「……ああ」
そう言葉を返して、篠原は窓から跳び降りる。
跳び下りながら……考えた。
どこか祈るように。
(頼む……どうにか見つかってくれ。俺達が合理的な理由で止まっても良いと思える理由……ッ!)
自身の優秀な仲間達と渦中の青年に、それを託すように。
アンノウンを取り逃がした一級ウィザードの篠原は、内心ため息を吐きながら耳元に手を当てて言う。
「こちら篠原。悪いがアンノウンを仕留めそこなった。アンノウンの外見情報は既に皆の端末に既に送信済み。確認してプランBに移行してくれ……分かっていると思うが杉浦鉄平は民間人で被害者だ。必要以上の攻撃は加えるな……その辺はしっかり頼む」
作戦に参加している全員に指示を出した後、後ろに控えていた部下の長身の男、準一級ウィザードの神崎が静かに言う。
「なんで撃たなかったのか、なんて事を聞くのは野暮ですか? アンタなら杉浦を避けてアンノウンだけ撃ち抜けたでしょう」
「いや、杉浦さんが邪魔で打てなかった。……そういう事にしておいてくれないか?」
「……良くも悪くも甘すぎるんだ篠原さんは」
「良くは無いだろ立場上……悪くも悪くもだ。とにかく此処は俺と神崎だけで良い。皆は他の班に合流してくれ」
神崎の溜息を聞きながら、彼以外の部下を逃走した杉浦とアンノウンの元へと向かわせる。
「俺達もさっさと終わらせて応援に行きますよ」
「ああ。風間が居るとはいえ相手の力は未知数だ。まともにぶつかればどうなるか分からないからな」
言いながら、静かに考える。
(まともにぶつかれば……か)
先の杉浦鉄平との会話と、見るからに無害そうなアンノウンの姿を思い浮かべるが……彼らが。少なくとも彼が自発的に戦おうとする可能性は薄い。
つまりぶつかった時点でまともではない。
こちら側が理不尽を彼に押し付けて、ぶつけさせているに過ぎない。
職務の事を考えずに感情論だけで物事を考えた場合、良い歳した大人が若者に振るって良い所業ではないだろう。
そんな胃が重くなるような事を考えながら、神崎と共に部屋の中に入る。
アンノウンの生体や機構はそれぞれまるで異なるが、これまでウィザードが戦い続けて積み上げたデータから、起きるかもしれない事というのは幾分か把握できている。
例えば……拠点とする場所に、拠点外での活動を支援する何かが作り上げられていたりだとか、そういう事。
篠原と神崎が此処に残った理由がそれだ。
場合によってはこちらをどうにかしなければ、実際の現場で何一つ事が進展しない場合もある。それを避ける為に、調べられる事は調べなければならない。
……だが。
「見た感じ、何もありませんね……」
言いながら神崎は地面に手の平を置き、そこを中心に魔法陣を展開させる。
「……やはり何も。俺が見落としてなければ、この手の何かを作っておくタイプのアンノウンじゃありませんね」
「だな。俺の方も引っ掛からない。此処には何も無いな間違いなく」
そう言いながら視線を向ける先にあるのは、二人分のマグカップ。
どちらにもコーヒーが注がれている。
そんな穏やかな時間の跡。
……アンノウンの出現タイミングは深夜で、長々と建設的な話をする時間は無かったのかもしれない。
だから朝、こうして落ち着ける飲み物を注いで今後の事でも話していたのだろうか。
それは分からない。
分かる程、杉浦鉄平とは互いに心を許すような対話が出来ていない。
こちらがそうさせなかった。
そんな簡単で当たり前で人道的な事に、どれだけのリスクがあるのかを良く知ってしまっているから。
臨機応変な対応ができないから。
何かが起きた時に後出しで全てを解決できる程に、少なくとも自分は優秀では無いから。
「……行くぞ、神崎。お前の所にも届いていると思うが、あのアンノウンがダガーナイフに変化したらしい。現時点のグレードはSランク。お手軽にこの辺り一帯吹き飛びかねない程の強敵だ。俺達の力も必要になって来るかもしれない」
「ええ、分かってますよ……だからさっさと人の生活の跡から視線を反らして切り替えてください。その調子じゃ死にますよ。気持ちは分かりますけど」
「……ああ」
そう言葉を返して、篠原は窓から跳び降りる。
跳び下りながら……考えた。
どこか祈るように。
(頼む……どうにか見つかってくれ。俺達が合理的な理由で止まっても良いと思える理由……ッ!)
自身の優秀な仲間達と渦中の青年に、それを託すように。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

家族もチート!?な貴族に転生しました。
夢見
ファンタジー
月神 詩は神の手違いで死んでしまった…
そのお詫びにチート付きで異世界に転生することになった。
詩は異世界何を思い、何をするのかそれは誰にも分からない。
※※※※※※※※※
チート過ぎる転生貴族の改訂版です。
内容がものすごく変わっている部分と変わっていない部分が入り交じっております
※※※※※※※※※

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる