魔剣拾った。同居した。

山外大河

文字の大きさ
上 下
8 / 115
1-2 彼女が世界に馴染めるように

1  コーヒーと来訪者

しおりを挟む
「……あんま良い寝心地じゃねえな」

 朝9時。
 ソファから体を起こした鉄平は体を伸ばしてそう呟く。

 昨日シャワーを浴びて戻ってくると、ユイは鉄平のベットで爆睡していて。
 まあ一応こちらが眠る為のスペースを考慮してか彼女の体は端の方にあり、鉄平一人程なら普通に入り込めそうではあったが……その辺はモラル的に良くない気がした。

 だからソファで寝た訳だが、やはり座る物と寝る物は全然違う。
 安物なら尚更。
 ぐっすり眠れるようなソファを買える程の財力は、現在の杉浦家には存在しないのだ。
 ……本当にお金が無い。

(……朝飯どうしようかな)

 昨日の晩御飯はバイト先のコンビニの廃棄を頂けたのでそれで凌ぎ、朝ご飯は辛うじて残っている食材でと思った訳だが、そのありったけを昨日の卵粥につぎ込んでしまった訳で。
 ……今現在家に食べ物が無い。

(俺だけなら朝抜くってのもアリだけど、ユイに何も食べさせないで倒れられても困るしな……とにかくユイが起きたらささっと食材買いに行って……とりあえず支払いはあんまり使いたくねえけどカードで……現金殆ど残ってねえし。でもこれ以上カード使うと来月の支払いが……少し回すか? リボ払いに……いや、流石にそれはマズい…………やっぱ宝くじかぁ解決策)

 よくこの状態で人を匿ったものだと一晩立って少々自分に呆れる。
 ……まあ後悔はしないのだが。

(つーか買い物行くのに連れ出して良い物なのか……とはいえ一人にしておくのも……)

 と、そんな事を考えていた所で視界の先のベットの上でユイがもぞもぞと動き出す。

「起きたか」

「ん……おはようじゃ鉄平」

 ゆっくりと体を起こして眠そうに目を擦り、ゆっくりと体を伸ばすユイ。
 そんな彼女からは相変わらず危険を感じる事はない。
 ……本当に無害にしか見えない。

 そんな感想を抱きながら立ち上がった鉄平は、キッチンへと足取りを向ける。
 食べ物は何も残っていないが、インスタントコーヒー位なら流石に戸棚に入ってある。
 だからモーニングルーティーンをこなす事位は可能だ。

「ん、また何か作るのか?」

 ヤカンでお湯を沸かし始めた所でベットから降りてパタパタとキッチンにまで付いてきたユイが目を輝かせてそう聞いてくる。
 軽くお腹が鳴る音も聞こえたので普通に空腹なのだろう。
 それは分かっているけど、無いものは無い。

「わりいけど飯は買ってくるか食いに行くかしねえと用意できねえな。昨日お前に食わしたのでストックゼロだ」

「そ、そうか……それは残念じゃの」

 心底残念そうに肩を落とすユイに鉄平は訪ねる。

「ただ腹には溜まらねえと思うけどコーヒー……ああ、飲み物な。それは作れるかなって思ってさ。お前も飲むか?」

「なんか知らんが飲む!」

「了解。砂糖とかコーヒーフレッシュって入れるか? っても分かんねえか」

「そうじゃの。だから任せる。鉄平と同じので頼む」

「分かったよ。じゃあブラックで。出来たら持ってくから部屋で待ってろ」

「分かったのじゃ」

 そんな訳で二人分のブラックコーヒーを用意。
 そして部屋に戻ってソファに座り、ユイに来客用のマグカップを渡す。

「熱いから気を付けろよ」

「ああ、ありがとうなのじゃ」

「どういたしまして」

 そんな言葉を返しながら一口。

(うん、やっぱ朝はこれだわ)

 所詮インスタントだ。良い物では無いだろう。
 だけどこの安い苦さに舌が馴染んでいる。
 これを飲んで初めて一日が始まる様な、そんな感覚になる。

 ……一方のユイはというと。

「うわ苦い……え、苦いがこれ……え? 新手の拷問か何かじゃないかこれ」

「そこまで言うか」

「そこまで言うじゃろこれは……よく鉄平はこんな物が飲めるの。なんかせっかく作って貰ってこんな事言うのはアレじゃけど……うん、すまんこれワシには無理じゃ」

「味覚は人それぞれだからな。その辺態々謝る必要なんてねえよ。俺にだって苦手な物だってあるしな」

「こんな苦い物を飲める鉄平でもか」

「俺はこれが好きなんだ。でも逆にお前が昨日食べてたような滅茶苦茶甘いタイプのお菓子は苦手なんだよな」

 いわゆる甘さ控えめ程度の物で丁度良い。そんな鉄平にとって以前食した時に砂糖というストレートな感想が湧いてきたあのクッキーには苦手意識がある。
 だから未開封で残っていた。

「あれ美味しかったんじゃけどな……噛み合わんの」

「まあ仕方ねえよその辺は。うまく合う所だけ合わせていこう。無理に価値観押し付けたり合わせようとするより絶対その方が良い」

 言いながらキッチンに出向き、砂糖とコーヒーフレッシュを持ってきてユイのマグカップに投入する。

「本当はもう牛乳とか入れちまった方が良いと思うんだけど……どうだ、それなら飲めるか?」

「どれどれ……うん、まあこれなら。これならいけるかの」

「なら良かった」

 鉄平もコーヒーを一口飲み、それから一拍空けてユイに言う。

「多分こういう生活は一日、二日じゃ終わらねえんだ。ゆっくり自分の好きなもんとか嫌いなもんとか探ってけ。そういう所から少しづつこの世界に馴染んでいけば良い」

「馴染む……か」

 ユイも砂糖たっぷりのコーヒーを口にしてから言う。

「世界征服をする気が失せた今、前向きに色々と考えていかなければならないわけじゃな」

「そういう事だ。物騒さとは程遠い普通の生活をしていこうぜ」

「なら少しづつで良いから、それを鉄平が教えてくれ。今ワシが頼れるのは鉄平だけじゃからの」

「そのつもりだよ俺も」

 と、そう返事を返した時だった。
 ……インターホンが鳴った。

「なんじゃこの音」

「誰か来たみたいだな。何も頼んだ覚えはねえし……まさかまた新聞の勧誘か」

 軽く溜息を吐いてから立ち上がる。

「ちょっと相手してくるわ。お前はここでゆっくりしててくれ」

「分かったのじゃ」

 そう言って小さく手を振って来るユイを背に玄関へと向かう。

(今日は何新聞だ……いや、大穴で何かしらの宗教勧誘の可能性も。めんどくせぇ)

 そんな嫌な予想を立てつつも、扉を開く。

「はーい、どちらさま…………本当にどちら様ですか?」

 目の前に、黒いスーツを着た男が数名立っていた。

(え、なになに。滅茶苦茶怪しいってこの人達。誰ぇ……)

 少々怖くなってきたところで、先頭の男が懐から何かを取り出す。
 それは一見すれば警察手帳のような物。だがよくみればそれは違う。

 目の前に提示されていたのは、とある仕事に携わる為に必要となって来るライセンス。

「朝早くからすみません、異界管理局北陸第一支部の篠原と言います」

「……ッ」

 新聞勧誘。宗教勧誘。否。
 より本命……今最もこの家を訪ねてきそうな相手。

 ユイの敵になるかもしれない、この世界を守る正義の味方がそこに立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』 俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。 レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。 「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」 レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。 それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。 「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」 狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。 その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった―― 別サイトでも投稿しております。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...