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三章 人間という生き物の本質

ex アンチ・ギフターズ 下

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「いや、本当に色々とあったが、終わり良ければ全て良しという事で。みんなお疲れさーー」

「いや良くないわアホか!」

 仮面を外してそう言いかけたアンチ・ギフターズのリーダーである男、クロウズに向けて、あの場にいた三人の冒険者達との戦いに加勢に入った幹部。二十歳程で長い髪をポニーテールで纏めた女、ユニの飛び蹴りが炸裂する。

 次の瞬間地面を勢い良く転がったクロウズは、今まで仮面の下で浮かべていた余裕しか感じられない表情を崩して、必死の形相でユニに向けて言う。

「な、何をするんだ突然! うわ、いったぁ……割とマジ痛ぁ……僕が教え込んだ強化魔術を使わなくても、キミら身体能力高いんだから! 僕じゃなきゃ死んでいたぞ!」

「アンタだから蹴り飛ばしてんの」

 そう冷めた目付きでクロウズを見下ろすユニは、視線と同じく冷めた声音で言う。

「さっきの何よ。こっちはアンタの指示であの場から必死に逃げだそうとしてたんだから、加勢位しなさいよ。ほら見てみ? アンタが悠長に立ち話してる間にエゴールがズタボロになってるじゃない!」

「……以下同文」

「し、しかしだ! 確かにやや回りくどい言い方はしていたかもしれないが、伝えておかなければならないような事を伝えていた訳で……そ、それに多分だが元々それなりにボロボロだったんじゃないかな? 万全だったらそもそもそうなっていないだろう? 君達無茶苦茶優秀なんだから! だから全部僕が悪いみたいな言い方するのは止めてくれないかな!?」

「う……それはごめんだけど」

「……以下同文」

「いや素直だなお前ら!」

 すかさずユーリがそう突っ込む。

「……」

 そんな光景を見てロベルトは内心静かに考える。

(……しかし改めて見ても犯罪組織とは思えないな)

 かなり身内贔屓のような感情が籠っているのは分かっている。
 だけどそれでも、本来こういう連中を取り締まる事を生業としている憲兵の彼からすれば、どこか信じがたい光景に思えた。

 これまで優秀な先輩方の補佐という形ではあるが、多くの人間に被害を与えるような犯罪組織をいくつか潰してきた。
 捕らえた構成員に尋問などを行った経験もある。
 だがそのいずれも彼らとは違っていて。
 彼らだけが違っていて。
 少なくとも此処には彼が知る限りどこにでもいるような善人しかいない。色々な感情を圧し殺して事に当たっている人間しかいない。

 ……なんでこういう人間達がこういう事をしなければならないのだろう。

 その問いの答えは簡単で、この世界が悪意としか言い様がない理不尽を振りかざすからだ。
 本当はそういう理不尽からある程度被害者を守ってやらないといけない、日頃の自分達のような人間が何もしてやれないからだ。

 ……だから周囲の仲間は進んでやりたくもないような行動をしている。
 ……当然彼自身も。

 例えばAランク以上のマイナススキルを持った子供の9割が10歳まで生きられないような。そんな歪な世界を変える為に。

 と、そんな事を考えていた所でクロウズは言う。

「さて、まあとにかくイレギュラーの対処は終わった。やるべき工程はあと少し。散らばってる皆を集めて早急に終わらせて王都へ帰ろう」

「……ってあれ? アルニカさんは?」

「君達がボコボコにした彼らが娘さんの所に来るまで娘さんを守ってる。そうだね? ユーリ」

「ああ。基本的に森の外へと出て行くように結界を張っているとはいえ、それでも少なからず魔獣やシャドウミストとかいう化物が出現するからな。そりゃ動けねえだろあの人なら……ていうか人の親なら」

「……じゃあ尚更早くやる事終わらせましょ。多分今アルニカさん結構辛いでしょ……そんな人の手をあまり煩わせる訳にはいかない」

「……以下同文。さっさとやろう」

「いやアンタは休みなさいよ、怪我酷いんだから」

 そんなやり取りが交された後、各々がやるべき事の為に動きだす。
 当然ロベルトも。
 そして動き出したロベルトに対し、クロウズが声を掛けた。

「ちょっといいかい?」

「どうしました?」

「一応幹部連中には連絡入れてあったんだけど、多分まだキミには情報が回って無かったんじゃないかって思ってね……とりあえずキミが顔を見られた件、あの子達には口止めをしておいた。正直その程度の事しかできてないのを非常に申し訳なくは思うんだが……とりあえず最低限の手は打ったという事だけは伝えておこうと思ってね。気休めにしかならないかもしれないが」

「……まあその辺は別にいいですよ。どんな大義名分があったとはいえ、やった事はやった事だ。最悪の事態も受け入れるつもりではいますよ」

「……でももしその最悪の時が来た場合、僕らを切り捨ててどうにかできるならそれで構わないという事だけは頭に入れておいてくれ。そのトカゲの印はつまりそういう事でもあるんだから」

「……しませんよ、そんな事」

 尻尾の切れたトカゲのマーク。
 ボスであるクロウズ以外の各々が、各々のタイミングで切り捨て逃げだし元の生活へと戻っても良い。どうやらアンチ・ギフターズが出来てすぐに作られた暗黙の了解。
 だけどそれはしないという事が。そういう事が許される組織であるからこそ、組織を抜けるような事はあっても裏切る様な真似はしない。
 各々の目指す目的の為にも、一緒に頑張る仲間の為にもそれだけは絶対にしない。
 それもまた、彼らにとっての。尻尾が繋がったトカゲが……切り捨てない意思が刻まれたクロウズ以外の構成員の共通認識だ。

「……あまり無理はしないでくれよ。憲兵であるキミが立場上一番板挟みの複雑な立ち位置なんだから」

「この国最高峰の魔術界の権威のあなたも大概ですよ。」

「……そうだね。じゃあお互い頑張ろうか」

 そう、おおよそ犯罪組織のボスが下っ端の構成員と交わすような内容では無い会話をし、クロウズは自分のやるべき事をやりに行く。

「……そうだ。頑張らないと」

 そしてロベルトは拳を握る。
 変わるべきだと思う世界を変える為に。
 この仲間達と世界を変える為に。

 表と裏からこの世界を守れるように。


 彼の助けたかった存在がとっくの昔に失われていたとしても……それでも。
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