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三章 人間という生き物の本質

95 過呼吸とフラッシュバック

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「え……クルージ……さん?」

 どうやら目を覚まして、まず一番最初に目に入ったのが俺だったらしくアリサは半ば寝惚けながら俺の名前を口にした後、体を起こしながら不思議そうに言う。

「リーナさんもグレンさんも……ってあれ? ちょっと待って。なんでボク眠って……」

 まだ眠る直前の記憶が曖昧らしい。
 アリサは意識を覚醒させながら、眠る直前の記憶を掘り起こしていく。
 掘り起こして……そして。

「……ッ」

 声にならない声を上げ、露骨に震えながら頭を抱える。
 ……こんなアリサの姿は見た事がなくて、直前の記憶というもう過ぎて終わった事に対しての強い怯えが、本当にどうしようもない程に母親との関係性が壊れてしまっている事を改めてこちらに認識させてくる。
 ……見てられない。
 そしてただ見て突っ立ってばかりじゃいられない。
 何か声を掛けないと。とにかく、何かを。

「大丈夫か、アリサ!」

 肩を借りていたリーナから離れ、アリサの前に屈み込む。
 異変に気付いたのは。

「……アリサ?」

 ……アリサの呼吸がどこかおかしい。

「お、おいアリサ! 大丈夫か!?」

「……ッ、マズイっす! 過呼吸っすよ!」

 そう言ってリーナが、応急処置用の包帯などが入ったポーチから紙袋を取り出す。

「アリサちゃん、とりあえずこれ口元に!」

 リーナがアリサの口元に紙袋を持っていき、それをひとまず受け取ったアリサは何度も乱れた呼吸を行う。
 そんなアリサの背中を擦りながらリーナが言う。

「アリサちゃん、大丈夫っす。今もう此処には私達しかいないっすから」

 こうして聞いてみれば、多分今のアリサが一番落ち着きを取り戻せそうな。
 本人が今一番必要としていそうな言葉を。

「……アリサが目を覚ましたのが今で良かったな」

「……ああ」

 背後のグレンの言葉に同意した。
 もしも目を覚まして母親が目の前に居たのだとすれば、今のアリサが具体的にどうとは分からないけれど、今よりも酷い反応を示す事は容易に想像できたから。


 そしてやがてアリサは正常な呼吸を取り戻す。
 取り戻して、まずは一言ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ありがとうございます……リーナさん」

 そしてゆっくりと。恐る恐るという風にアリサは周囲を見渡す。
 ……きっと視界にも入れたくない母親が自分の周りにいないという事を確信する為に。

 そしてアリサにとって、どこかにまだいるかもしれないと考えてしまうこの神樹の森という環境は、精神衛生上良くない事は目に見えて分かって。
 ……多分アリサも俺達に色々と言いたい事だとか聞きたい事だとか、色々あるとは思ったけれど、まずとにかく、これだけは先に言っておく事にした。

「……アリサ、とりあえず色々と、もう終わったからさ。早く出よう。こんな所から」

 俺の言葉にアリサは静かに頷いた。
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