163 / 228
三章 人間という生き物の本質
ex ただそれだけの言葉が欲しかったのだという話
しおりを挟む
自分にとって過去にあった事というのは誰にも触れられたくない事だった。
忘れたい過去だ。無かった事にしたい過去だ。もう見切りを付けたい過去だ。
過去のリーナという存在を無かった事にして、今の自分としてやり直す。そんなつもりだった。
だから誰にも踏み込まれたくないのだ。
過去の自分を思い出すから。
自分がこれから親しくしたい。親しくして見捨てられたくない。一緒に居てほしい。
そういう人達に昔のリーナという情報を。もう無かった事にしたい情報を植え付けたくないから。
だから過去の全てを隠蔽する。
もっとも過去を隠蔽した所で今の自分にも生きている価値なんてあるとは思えない。何しろまだ自分という存在は、無かった事にしたい。過去の自分から何も変われていないから。
現在進行形で、親の期待に何一つ応えられなくて面汚しで碌で無しでどうしようもない程に存在価値の無くて生きている価値が何一つない。寧ろマイナスでしかない自分という存在からは何も変わっていない。
変われていない。
どれだけ新しい事を。今周りに居てくれる人の為にできる事を覚えても、不安が拭えない。
そんな中でだ。
『少なくとも俺達は、お前の事を生きている価値の無い人間だとか思ってねえからな』
『知ってると思うけど俺らは、効率とかセオリーとか実力とか、そんなの関係ねえ。仲良い奴等で一緒に仕事しようなみたいな、軽いノリで組んでるからさ、此処にお前がいるって事はそういう事だからな』
『お前がどう思ってようと、誰かにそういう事を言われたんだとしても! 俺達はそれを全力で否定するからな! ……だからこれからもよろしく頼むよ。お前がいるだけで賑やかで楽しいんだからさ』
クルージは。
冒険者としての先輩は、そういう事を真剣な表情で、きっと嘘偽りのない様子で言ってくれた。
俺達はという事は、きっとこんな話が零れ出す前に、そうした話は三人の共通の認識だったのだと思う。
「……」
分からない。分からないけれど。きっと自分は本当に飢えていたのだと思う。
誰かから肯定される事に。だれかから自分にもしかしたら生きている価値があるのかもしれないと思わせてもらう事に。
だから今まで嬉しかった。自分のやれる事を。やれるようになった事を褒めて貰えるのが。凄いと思ってくれるのが嬉しかった。
だからこそ……だからこそだ。
そうやって身に着けた物を肯定されるだけでも嬉しいのに。そんな物は関係なくて。
今の自分という存在を。
自分がなんの価値も無いと思っていた人間性そのものを肯定してもらえたのだとすれば。
今こうして生きている価値が無いと言う自分の失言に踏み込んで、それを明確に否定して、肯定してくれたのだとすれば。
それはきっと、本当に嬉しい事だと、そう思った。
自分で否定しておきながら。隠そうとしておきながら。
きっとそんな言葉を誰かに言ってもらえるのを待っていたんだと、そう思った。
「……はい。こちらからもよろしくっす」
まだ自分の過去の事を話すつもりはない。この先にあるのかも分からない。
自分でも触れたくない事だから。触れられたくない事だから。
そんなもうどうでもいい、最悪な過去に意識を向ける位なら、今の自分を見て欲しい。
ただ、それだけでいい。
(……頑張らないと)
今日のこの一件で、自分のスキルが大体どういう物かは把握できた。
後ろばかり向いている自分にとっては、一体本来自分に何ができるのかという事すら分からなくさせるような、そんなスキルだ。
そして予めクルージ達が自分のスキルの事を察していたのだとすれば、多分色々不可解な事があった昨日の時点で皆色々と察してくれているように思えて。
だとすれば察して皆何も言わなかったのだろうと。言わないでいてくれたのだろうと、そう思った。
そんな皆の意思を、今こうしてクルージが代弁してくれたのだと、そう思った。
だとすれば、自分なんかと一緒にいてくれる。
自分を肯定してくれる人達には感謝しかなくて。
逃げの感情なんかじゃなく。
逃避なんて事ではなくて。
この人達の為に頑張りたいと、そう思える様になってきた。
元からあった筈だけど、逃避したい心に押しつぶされていたそんな気持ちが前へと出て来た。
それは何かを覚えるという点では大きなマイナスでしかないのかもしれない。
だけどそれでも……今日、一歩前へと踏み出せたような、そんな気がした。
そして……そんな自分をきっと、否定しないでいてくれると思う。
今自分の周りにいる人は。いてくれる人達は、そういう人達なのだから。
忘れたい過去だ。無かった事にしたい過去だ。もう見切りを付けたい過去だ。
過去のリーナという存在を無かった事にして、今の自分としてやり直す。そんなつもりだった。
だから誰にも踏み込まれたくないのだ。
過去の自分を思い出すから。
自分がこれから親しくしたい。親しくして見捨てられたくない。一緒に居てほしい。
そういう人達に昔のリーナという情報を。もう無かった事にしたい情報を植え付けたくないから。
だから過去の全てを隠蔽する。
もっとも過去を隠蔽した所で今の自分にも生きている価値なんてあるとは思えない。何しろまだ自分という存在は、無かった事にしたい。過去の自分から何も変われていないから。
現在進行形で、親の期待に何一つ応えられなくて面汚しで碌で無しでどうしようもない程に存在価値の無くて生きている価値が何一つない。寧ろマイナスでしかない自分という存在からは何も変わっていない。
変われていない。
どれだけ新しい事を。今周りに居てくれる人の為にできる事を覚えても、不安が拭えない。
そんな中でだ。
『少なくとも俺達は、お前の事を生きている価値の無い人間だとか思ってねえからな』
『知ってると思うけど俺らは、効率とかセオリーとか実力とか、そんなの関係ねえ。仲良い奴等で一緒に仕事しようなみたいな、軽いノリで組んでるからさ、此処にお前がいるって事はそういう事だからな』
『お前がどう思ってようと、誰かにそういう事を言われたんだとしても! 俺達はそれを全力で否定するからな! ……だからこれからもよろしく頼むよ。お前がいるだけで賑やかで楽しいんだからさ』
クルージは。
冒険者としての先輩は、そういう事を真剣な表情で、きっと嘘偽りのない様子で言ってくれた。
俺達はという事は、きっとこんな話が零れ出す前に、そうした話は三人の共通の認識だったのだと思う。
「……」
分からない。分からないけれど。きっと自分は本当に飢えていたのだと思う。
誰かから肯定される事に。だれかから自分にもしかしたら生きている価値があるのかもしれないと思わせてもらう事に。
だから今まで嬉しかった。自分のやれる事を。やれるようになった事を褒めて貰えるのが。凄いと思ってくれるのが嬉しかった。
だからこそ……だからこそだ。
そうやって身に着けた物を肯定されるだけでも嬉しいのに。そんな物は関係なくて。
今の自分という存在を。
自分がなんの価値も無いと思っていた人間性そのものを肯定してもらえたのだとすれば。
今こうして生きている価値が無いと言う自分の失言に踏み込んで、それを明確に否定して、肯定してくれたのだとすれば。
それはきっと、本当に嬉しい事だと、そう思った。
自分で否定しておきながら。隠そうとしておきながら。
きっとそんな言葉を誰かに言ってもらえるのを待っていたんだと、そう思った。
「……はい。こちらからもよろしくっす」
まだ自分の過去の事を話すつもりはない。この先にあるのかも分からない。
自分でも触れたくない事だから。触れられたくない事だから。
そんなもうどうでもいい、最悪な過去に意識を向ける位なら、今の自分を見て欲しい。
ただ、それだけでいい。
(……頑張らないと)
今日のこの一件で、自分のスキルが大体どういう物かは把握できた。
後ろばかり向いている自分にとっては、一体本来自分に何ができるのかという事すら分からなくさせるような、そんなスキルだ。
そして予めクルージ達が自分のスキルの事を察していたのだとすれば、多分色々不可解な事があった昨日の時点で皆色々と察してくれているように思えて。
だとすれば察して皆何も言わなかったのだろうと。言わないでいてくれたのだろうと、そう思った。
そんな皆の意思を、今こうしてクルージが代弁してくれたのだと、そう思った。
だとすれば、自分なんかと一緒にいてくれる。
自分を肯定してくれる人達には感謝しかなくて。
逃げの感情なんかじゃなく。
逃避なんて事ではなくて。
この人達の為に頑張りたいと、そう思える様になってきた。
元からあった筈だけど、逃避したい心に押しつぶされていたそんな気持ちが前へと出て来た。
それは何かを覚えるという点では大きなマイナスでしかないのかもしれない。
だけどそれでも……今日、一歩前へと踏み出せたような、そんな気がした。
そして……そんな自分をきっと、否定しないでいてくれると思う。
今自分の周りにいる人は。いてくれる人達は、そういう人達なのだから。
0
お気に入りに追加
610
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?
田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。
受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。
妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。
今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。
…そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。
だから私は婚約破棄を受け入れた。
それなのに必死になる王太子殿下。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる