上 下
159 / 228
三章 人間という生き物の本質

86 解放条件

しおりを挟む
「EXランク……だと?」

 グレンが驚愕するようにそう口にする。
 俺も同じように、男の発言には驚愕しか無かった。
 男の言った通り、EXランクのスキルなんてのは世界中探しても一人いるかいないかという程に希少で特異なランクだ。まず俺とアリサのようなSSランクのスキル持ちですら数える程しかいなくて、リーナのようなSランクのスキルを持つ者もほんの一握り。
 EXランクなんてのは昔の記録を遡っても歴史上数える程の人数しかいない筈だ。

 そんな存在が今、自分のすぐ近くにいる。
 その事に驚愕しない筈がない。

「頼りたくはないけれど、この力があればスキルというものが人間そのものの力でない事はよく理解できる。今戦っているあの子がどういう状況にあるのかも、キミ達の身に何が起こっているのかも、目の前にあるものや既に起きている事の答えを知る事ができる。本当に、知りたくない事まで何もかもね……っと、そろそろだ。状況が動くぞ」

 男がそう言った瞬間だった。

 結界魔術を駆使しながら接近戦を臨んでいたリーナに対して防戦一方となっていた敵が魔術を発動させる。
 そして次の瞬間姿が消えたかと思うと、先にリーナの結界で昏倒させられていた仮面の男の元へ。そして彼を抱きかかえ、リーナが接近してくるギリギリのタイミングで再び姿を消した。

「……どうやら無事うまくいったようだ。僕ら的にもキミら的にも良い結末だったと言えるだろう……良かった良かった。正直な話ヒヤヒヤして見てたんだ」

 安堵する男に対して言う。

「……アンタが介入すればもっと確実に終わったんじゃねえのかよ。不安だったならそうすりゃ良かったんじゃねえのか? どうせアレだ。アンタも強いんじゃねえのかよ」

「その場合多少なりとも手荒な真似をする事になったとは思うけど、まさかとは思うがそれをお望みかい?」

「……いや」

 ……それなら動かないでくれて助かったという訳か。

「……さて、彼らがあの二人が離脱したのだとすれば、キミ達と話ができる時間も終わりというわけだ」

 そう言って男は構えを取る。

「次の標的は僕になるだろうからね」

 次の瞬間、倒れる俺とグレンの間。男の正面から斜め方向に勢いよく結界が突き出してくる。
 それと同時に正面に右手を突き出した男の正面から薄い結界が展開。リーナの結界と衝突し大きな衝撃音を響かせるが、現状そこにヒビは見えない。
 そしてその間に接近してくるリーナを見ながら男は言う。

「さて、最後にこれからの話をしておこうか」

「これからの話?」

「僕らとしてもいくらなんでも何の縛りも無しにキミ達を解放する訳にはいかないんでね」

 そして急接近して男の結界に蹴りを叩き込むリーナに対し、変わらずどこか冷静な様子のまま男は言う。

「僕らからの要求は一つだ……王都に限らずこの先どこかで今日キミ達が顔を見た僕らの仲間を見付けたとして、憲兵に突きだす様な真似はしない事。それだけだ」

「……それだけ、なのか?」

 半ば半信半疑といった様子のグレンに男は言う。

「今の国内の情勢を考えるに、此処もいずれ憲兵団の調査員が来る。だとすれば少なくとも此処で人為的に何かが行われていた事は分かる訳で。その場合何者からが何かをやっていたというのは別に広まっても致し方がないんだ。後数時間後まで続く予定のプロジェクトに妨害さえ入らなければ、僕らからすればそれでいい。その後に露見しても問題なく僕らは次のステージに進んでいる」

 だけど、と男は言う。

「だけど僕らの計画が進もうと進まなかろうと、今日キミらが顔を見た彼らには彼らの変わらない、変えたくない表の日常がある。それが壊れるという事は、それだけは絶対にあっちゃいけない事なんだ。何より優先して守らなければならない。本来ならばそれを隠蔽する事を最優先事項にしてキミ達を殺さなければならない程に……だから、見てみぬ振りをしてやってくれ。お願いだ」

 そして攻撃を防ぐ男の足元に魔法陣が出現する。

「さて、最後になるが……キミのお仲間の女の子なんだけどね」

「そ、そうだ! 今アリサはどうなってやがる!?」

「……大丈夫、無事だ。魔術で眠らせてあるみたいだけどね。丁度キミ達が分断されたポイントで僕の仲間が観てくれている。動けるようになったら迎えにいってあげるといい。それまでは厄介な魔獣達が現れても守ってくれる筈だ」

「厄介なってお前らが出現させてるんじゃねえのかよ」

 グレンの指摘に対し、男は言う。

「確かにそうだが、あんなものを好き好んで作りだす馬鹿はいないだろう。望まぬ副産物だよ……っとそうだ。後数時間で結果的に魔獣を出現させざるを得なかったプロジェクトの第一段階は終わる。故にキミ達がどうにかしに来たであろう魔獣の問題は終息するわけだ。残党も僕達で処理しておく。だからその点だけは安心してほしい」

 と、そこまで言った所で、リーナの連続攻撃により男の結界にヒビが入った。

「そろそろ限界か」

 そう言った男は一拍空けてから俺達に言う。

「では僕はこれで。とにかく無事に此処を出るんだよ……特にSSランクの幸運の少年。キミだけは絶対に死ぬなよ。キミのおかげで……ずっと暗い顔ばかりしていた僕の仲間が少しだけ笑う様になったんだ。僕らが世界を変えるまで、キミに死なれては困る」

 そう言って、仮面の男は姿を消して。

 この場には俺達三人だけが残された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

処理中です...