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三章 人間という生き物の本質

ex 最悪な結末を回避する為に

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「……それに関しては大丈夫だよユーリ。完全に偶然ではあるしイレギュラーな状況ではあるけれど、全員生きている……少々面倒な事にはなっているようだけど」

(……誰だ!?)

 突然聞こえて来た第三者の声に一瞬そう考えるが、おそらくこの場で新たな人物が現れたとして、それを自分達の味方ではないと判断するのは容易で、嫌な想像しか浮かんでこない。

 全員生きている。
 ……今まさにリーナが近接戦を挑みに行った相手と、先まで自分達が三人で戦っている相手が二人共生きている。
 イレギュラーな状況。面倒な事。一人だけ冗談のように強い相手がいる。
 そうやって全部説明が付く。

 どう考えても新手。そこに現れたのはどうにかしないといけない敵だ。
 そしてなんとか後方に視線を向けると、そこにいるのは予想通り仮面を付けた人間が立っている。
 他の連中と違う事があるとすれば、胸のマークの色が赤。そして他の連中のマークで印象的だった、尻尾の切れたトカゲではなく刻まれるのは、尻尾の付いたトカゲ。
 あるのはそんな違い。
 だけどどうであろうと、敵である事には変わりはない。

(クルージは動けねえ! 何とかするんだ! 俺がなんとか!)

 後方の男に注意を向けながら、何とか体を起こす。幸い全身に纏わりついている痛みがある程度緩和されているおかげで何とか立つ事は出来そうだった。

 ……立てた所で今の自分一人で何ができるのかはわからないけれど。

 そしてそうやって無理矢理立ち上がろうとするグレンに対し、現れた新手の仮面の男は投げかける。
 攻撃ではなく、言葉を。

「あまり無理して動かない方が良い。見た所キミ達二人の肉体は驚異的な速度で自己再生を始めているが、現時点で大怪我を負っている事に変わりはないのだから」

 そんなこちらの事を心配する様な、そんな言葉。
 その言葉だけでも意味深。
 そして。

(ちょっと待て……こいつ、なんで攻撃してこねえ?)

 最初に四人で戦った連中も、その後の連中も。基本的にはこちらの命を奪う為に行動していた。
 にも関わらず、今そこにいる男からはそんな素振りは感じられず、同じ様に一切の殺意も感じられない。

(つーかなんでコイツは、俺達に起きてる事を把握してんだ!?)

 分からない、何も。
 そして困惑するグレンに対し男は言う。

「まあ困惑するのも無理はない。何せ僕らが仕掛けた戦いで、僕らに半殺しにされている訳だ。だとすればその反応が正解だよ。そんなキミにこんな事を言っても余計に混乱するだけだとは思うのだけれど、単刀直入に言ってしまえば、もう僕にはキミ達への殺意は無い。殺してはいけない理由ができた」

「お前……何を言って……ッ」

「身内びいきだよ。僕達の仲間の中に、私的理由でアリサという女の子とそのお友達を絶対に死なせる訳にはいかない人がいてね。だとすれば僕達は多少のリスクを被ってでもキミ達を生かす方向で動かなければならなくなった訳だ」

「アリサの……は? え?」

「キミにとっては意味が分からないだろう。だけどすまないね。僕個人の判断でそれを詳しく語る事はできないんだ」

 全く話が見えてこないグレンを半ば置いて、一拍空けた後に男は言う。

「とにかく、安心してくれ。これでキミ達は生きてこの森の抜ける事が出来る訳だ」

「……だったら」

 そこで、これまできっと言葉を発する事すらままならなかったクルージが、言葉を絞り出した。
 何時から意識があったのかは分からない。どこから話を聞いていたのかは分からない。
 だけど溢れ出てくる言葉には強い意志が籠っている。

「だったら……さっさとお前の仲間、撤退……させろ。このままじゃ……死ぬぞ、お前の仲間」

「……この状況で、こちらの心配をするのかキミは」

「……んな訳ねえだろ。こっちは……お前の、仲間に……殺され、掛けてんだ。そんな連中の、生き死になんか……知るか……ッ」

 そしてクルージは掻き消えそうで、それでも力強い意思をぶつける。

「このままじゃ……リーナがアイツらを殺す。人間を……殺すんだ、本人の意識が無い……ところでだぞ。そんな下手、すりゃ一生消えなくなるような……トラウマになりかねねえ、事を……俺の仲間に、させてたまるか……ッ」

 例え此処で全員無事に生き残ったとしても、その上でこの先にあるかもしれない最悪な状況を回避する為に。
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