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三章 人間という生き物の本質

ex 裏側

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 アリサの意識が失われた後、仮面の男が腕を押さえながらアリサとその母親の元へと近づく。

「止まって、ユーリ」

 そんな男に睨みを利かせるアリサの母親に対し、ユーリと呼ばれた仮面の男は言う。

「大丈夫だアルニカさん。アンタの動きで大体事情は察した。この子なんだろ? 前々から言ってたアンタの娘さん」

「ええ……まさか此処に入りこんだ人間っていうのがこの子だったなんて思いもしなかった」

「いや、ほんと……こっちの増援に来たのがアンタで良かった。危うく絶対に殺しちゃいけない相手を殺しちまう所だったかもしれねえ」

「そうなったら私はあなたと此処に増援に来た誰かを殺すわ」

「俺達もやるべき事があって必死こいてるんだから勘弁してくれ……って言いたい所ではあるけど、まあ殺されたって文句は言えねえよな。娘の為に全部捨てて此処にいるような人なんだからアンタは……で、大丈夫か? その腕」

「私は大丈夫。それより……この子に怪我とかさせてないでしょうね?」

「あ、いや……」

 これまでの事を思い返して言葉を詰まらせ苦い表情を浮かべるユーリを軽く睨んだ後、アルニカは言う。

「……どこ? どんな風に? 治療しないと」

「いや、一回剣ぶつけあって弾き飛ばして、多分怪我させてるって感じだからどこと言われても……でもまあ、動き見た感じ酷い怪我は負ってない……筈」

「軽くても怪我は怪我だから……まあ、私が言える事じゃないけど」

 そう言って黙り込むアルニカにユーリは言う。

「えーっと、大丈夫か?」

「……大丈夫かって言われたら大丈夫な訳が無い。娘にさ、ああやって怯えられて大丈夫な訳が無い。本当に私に恐怖とか恨みとか、そういう感情しか向けてないんだって事を直接見せられると、やっぱり辛い」

「……アルニカさん」

「でも自業自得だから。嫌われる為に嫌われる様な事を嫌われるまでやる。そうする選択を選んだのは私だから。こうなる事を私が望んだんだから、自業自得。そう……自業自得よ」

 そう言った後、一拍空けてからユーリに言う。

「とにかく、私の心配をする前に他の皆に連絡入れて。此処に来た子達はこの子と一緒にいてくれた子達。その子達を死なせる訳にはいかない」

「っと、やべえ確かにそうだ。分かったすぐやる」

 そう言ってユーリはポーチから黒い石を取り出すと、それを媒体に魔術を発動させる。
 特殊な鉱石を媒体とした遠距離との通話を可能とする魔術。
 それを使って暫くどこかと話していたユーリは、やがてアルニカに言う。

「大丈夫だアルニカさん。向こうの増援に行ったボスが色々状況察したらしい。その子と一緒に行動してるっていうSSランクの幸運スキルの少年と、多分俺達がこっちに来てる間に一緒に行動するようになった子達もとりあえず無事みたいだ」

 だがそこで言葉を詰まらせ、やがて言う。

「少し厄介な状況にはなっているみたいだがな」
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