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三章 人間という生き物の本質

ex 持ち得る力の全てを叩き込め

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(……いくぞ、俺が決めるんだ)

 クルージをハンマーで射出した後、グレンはハンマーを捨てて走り出した。
 今は僅かでも軽く、少しでも早く敵の元へと到達しなければならない。
 普通に考えればある程度の時間は閃光石の効果が持続する。だがもし万が一、失われた視界を取り戻す為の魔術。もしくは視覚情報に頼らずとも周囲の状況を的確に把握できるような魔術を持っていた場合、その魔術を発動させ効力が届くまでが勝負となる。
 だからこそ、僅かでも早く。
 一歩踏み出した時から再び魔術を構築させ、二歩目で発動させる準備を整える。
 そして三歩目で足の裏へ魔術を展開させ、地を蹴る際に生まれる衝撃。エネルギーを操作し加速する。
 それを何度か繰り返し、敵の前へと躍り出てそして。

(叩き込むッ!)

 今度はリーナの結界を砕いてみせた時のように拳に魔術を展開。敵に掛ける余裕は無いがそれでも相当な威力の一撃を叩き込める右拳を敵の鳩尾に叩き込む。

 衝撃で貫く一撃。
 並みの相手ならその一撃で昏倒していてもおかしくない。
 ……だが。

(……か、硬ぇ!)

 効いている筈だ。だが拳に伝わってくる感覚が人体を殴っているような感覚じゃない。

(元々フィジカル共々高スペックか、それとも魔術による強化……いや、どっちでもいいどうでもいい!)

 そのまま流れるように左拳を叩き込む。
 衝撃に左腕が痺れる。
 魔術の展開には若干の時間が生じる。多分拳に展開できるのは三、四発に一回の頻度。故に先の攻撃は連続では叩き込めない。これだけ固い守りならばハンマーを捨てて拳での勝負を挑んだのは失敗かもしれないという考えが脳裏を過る。
 ……それでも。

「……ぐッ!?」

 苦悶の声は漏れている。攻撃は届いている。
 ……だとすれば。

(止まるな、叩き込み続けろ!)

 放ち続けるしかない。倒れるまで。
 三、四発に一度強烈な一撃となる拳の連撃を。持ちうる力の全てを使って叩き込むしかない。

「倒れろ倒れろ倒れろ倒れろおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 攻撃で仮面が弾き飛び、現れた二十代半ば程の青年の表情には苦悶の表情が浮かんでいる。
 そんな中で目の前の男は拳から逃れるようにバックステップでの回避を試みるが、明らかにダメージが膝に来ている。動きが明らかに鈍い。

(……逃がすかッ!)

 そしてグレンも拳を握り締め一気に踏み込む。
 左で一撃を加え、再び魔術を使った右を叩き込む。そんな動きで。
 だが目の前の男は必死の形相で動いた。
 グレンの拳を目で追って。

(視界……戻ってやがるッ!)

 そして男はグレンの左拳を辛うじてという風に右手で包むように受け止めた。

「やって……くれるね」

 荒い息でそう言った後、グレンの拳を掴む手を強い握力で握り締める。

「グアッ!?」

 グレンの口から苦悶の声が漏れ出した。

「はっなせオラあああああああああッ!」

 続けて右拳を放つが次の瞬間、グレンの右拳の軌道に合わせるように空中に小さな四角形の結界が展開。グレンの拳は結界に衝突する。
 妙に柔らかい。まるで突きたての餅でも殴っているかのような感覚。
 それでもその結界を貫くが、威力がその結界へのインパクトで魔術が解ける。
 そして右拳も男の掌に収まる。

「残念だけどここまでだ」

 そして男の背後に再び魔術の球体が出現し始める。

「……ッ、くっそおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 そしてグレンはこの状況に対しそんな声を上げた。

 あえて。
 何も見なかった事にして。

 次の瞬間、力の限り大振りで振られた刀の鞘が男の側頭部に叩き付けられる。
 それを握っているのは。振り払ったのは当然の如くクルージだ。

(何がお前が決めろだ馬鹿野郎!)

 視界が奪われた状態での着地。それができるか否か。出来なかったとしてどれだけ怪我を抑えられるか。相手の視界を奪った後のクルージはもうそれだけで一杯一杯だった筈だ。
 だけどその大怪我の中鎮痛剤を打ってなんとか動かしているその体で無事着地し、速攻で戻って来た。

(悲観すんな……ほんと、お前も十分すげえ奴なんだよクルージ)

 体が揺れてバランスを大きく崩す程の強い衝撃でグレンの手が解放される。
 体が自由に動く。
 そしてグレンは足に先程からの魔術を掛ける。

 腕よりも力の強い足。
 そのインパクトを一点に集中させ、そして。

「さっさと倒れろこの野郎!」

 脇腹に全力の蹴りを叩き込んだ。
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