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三章 人間という生き物の本質

ex 心理戦

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「よしリーナ。俺は最初にパーを出すぞ」

 言いながらグレンは考える。

(……なんでもいい。揺さぶれ。揺さぶってリーナが出す手を読み取るんだ。運否天賦に身を委ねるな)

 その位必死に頭を回す位には、リーナの後輩ポジションに収まるのは嫌だった。
 別に自分の事をプライドが高いような、そんな人間だとは思っていないけれど、それでもなんか嫌だった。
 そしてそんな思いで揺さぶりをかけ始めたグレンに対し、リーナも動く。

「じゃあ私はグーを出すっす」

(……考える事は向こうも同じか。やるじゃねえか)

 その反応を見て改めて考える。

(……という事は向こうも僅かな表情の変化や仕草で手の内を暴こうとしている訳だ)

 そこまでは分かった。正解かどうかは分からないけれど。
 ……だが。

(……で、結局アイツは何を出してくる)

 大事な所は何も分からなかった。
 やろうと思えばやれるのでは無いかと思ってこんな手段を取ってみたが、さっぱり分からない事だけは分かった。それだけしか分からなかった。

(……ってなんだアイツの勝ちを確信したようなドヤ顔は。まさかこっちの手の内を読んでるのか?)

 寧ろこんな事を始めた所為でこっちが混乱し始めたまである。

「よし、成程な。じゃあそろそろ始めようぜ」

「いいっすよ」

「じゃあいくぞ……最初はグー」

 言いながら今までの完全に無駄に終わった思考を放棄する。

(……読まれているかもしれないなら考えるな。適当に出せば確率上66、6パーセントは初手で負ける事は
ねえ。勝てれば御の字。あいこならそれ以降は今度こそ策がある)

 そして二人同時に動きだす。

「「ジャンケンポン!」」

 二人の手はチョキ。どちらも宣言を完全に無視した行動。

(……よし、此処からだ)

 初戦は勝利を逃した。だが最初の一手は所詮運否天賦。

(……此処からは今度こそ策略で勝たせてもらう)

 正確なデータを取った訳では無い。だがこれまでの人生で少なくない回数ジャンケンを行って得た経験則。
 最初に出した手によって、次の手をある程度予測できるという事。
 何を出すかを事前に考える事の多い初手と違い、二手目は多くの場合は初手で出した物から指の動き的に比較的動かしやすい、出しやすい手が出やすい。
 故に今回の場合、もう一度チョキが出されるか手を開くという、少なくとも再び握り直すよりは形を作りやすいパーが出される可能性が高いのだ。
 つまり出すべきはチョキ
 あくまで経験則だ。確実性なんてどこにもない。
 だけど無策で突っ込むよりはかなり勝率が上がるのだ。

(行くぞリーナ!)

「あいこで、しょ!」

 勢いよくチョキを出すグレン。
 リーナはというと……。

「っしゃあ! 私の勝ちっす!」

 普通にグーだった。

(……えぇ……)

 策士策に溺れたかどうかは良く分からないけれど、とにかく。

 ……とにかく結果が全てである。
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