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三章 人間という生き物の本質

39 グレンの工房 下

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 グレンが意欲はありながらもこの村に止まり続けているのは、つまりはそういう事だった。
 俺が手にしたスキルを誤解されて今のような事態になっているように。
 アリサが不運スキルで辛い目にあってきたように。
 グレンもまたある意味手にしたスキルに。いや、手にできなかったスキルに悩まされているんだ。
 ……まあ、俺をこの二人と同列に語っちゃいけないか。
 俺の場合、幸運な事もきっと自覚症状があるなしに関わらず山のようにあった筈だから。
 まあとにかく……アリサみたいな例とはベクトルが違うけれど、グレンも結構大変なのだ。
 もっとも……だからと言ってグレンに折れる気配はないのだけれど。

「まあ別にもう弟子入りとかは考えてねえし、どうでもいいんだけどな」

「いいんですか?」

「いいんだよ。所詮弟子入りなんてのはやりたいことやるための手段だ。まあ腹はたつけどよ……アイツらがスキル至上主義って事で弟子にした連中を自力で追い抜いて、俺を門前払いしたような連中よりも良い鍛冶士になってよ、クソみてえなスキルだけどお前らより上になったぞオラァってドヤってやるんだ。それでいい」

 そう言ってグレンは強い意識の籠った笑みを浮かべる。
 それを見ていると、多分コイツはやってのけるんだろうなと思える。そうであってほしい。
 そして笑うグレンにリーナは言う。

「応援してるっすよ! そんなスキルでしか人を判断できない腹立つ馬鹿を私の分までぶっ飛ばしてほしいっす!」

「いやちょっと待て、なんで物理的な話になってんだ!?」

 まあ確かにその通りなんだけど。
 だけども。

「俺の分も頼むわ」

「クルージ!?」

 いやだってまあ……なんか腹立つし。

「あ、じゃあボクも一口いいですか?」

「そんな投資に乗っかるみてえに!」

 そう言いながらもグレンは笑みを浮かべて言う。

「ま、応援してくれてんならありがとな」

「おう」

 ほんとさ、こういう奴はうまくいかないと駄目だって思う。
 ……で、とりあえず二人も同じような事を思ってくれたようで、本当に良かったよ。

「……で、お前なら将来的にそんな鍛冶師になってくれると思うからさ。今からドヤ顔の練習しておくか?」

「ドヤ顔の練習?」

「いや、丁度ウチのパーティーにドヤ顔の先生がいてだな」

「え? それ誰の事っすか?」

「いやお前以外いねえだろ」

「いやいや、私なんてまだまだっすよ」

「お前でまだまだなら誰が熟練してんだよ」

「いや、でも割と真面目に私その界隈じゃ中の下位っすよ。上には上がいて正直私でも引いたっす」

「あんのその界隈!?」

「え? ある訳ないじゃないっすか」

「だよな! ていうかお前、なんか嘘をそれっぽく言うのうまいな」

「そうっすか!」

 そして浮かべるドヤ顔。

「あ、そうこれだ。これだよグレン。この絶妙に腹立つ感じのドヤ顔」

「腹立つとは心外っすね」

「いや今の褒め言葉」

「よっしゃー!」

「なあアリサ。俺は一体何を見せられてるんだ?」

「まあ賑やかだからいいじゃないですか」

「まあ確かに暗いよりは……しかしさっきのクッソ腹立つドヤ顔なんかいいな。これ覚えて将来マジで披露してやるか……練習しようかな」

「いや、こんなどうでもいい技能練習する暇あったら鍛冶師の技能磨いてください。完全に時間の無駄っすよ」

「やべえ正論すぎて何も言い返せねえ!」

 急に真顔になってそう言ったリーナにグレンが苦い表情を浮かべてそう言う。

「というかクッソ腹立つは言い過ぎっす。パワハラっすよ」

「待ってくれコイツのパワハラの基準難しくない!? さっきのクルージの発言と大差ねえだろ!」

 その基準は俺も知らんが、俺からも言っておきたい事が一つ。

「つーかグレン。頻繁にドヤる様な奴は一人で十分だから。リーナみたいにはなってくれるな」

「練習勧めたのお前だよな!?」

「いやマジで勧める訳ねえだろ。普段無茶苦茶察しがいいんだからそこも察しろよ」

 件の鍛冶師共には盛大にドヤって欲しい訳だけども、それにしたってドヤ顔の練習って何だよ。意味わかんねえだろそれ。
 ……まあそれはそれとして。

「……ま、こんな適当な話はこの辺にしといてさ」

 話が大幅に逸れてしまったので、ここらで軌道修正しておく。

「今のペースだと何時頃王都に出れそうなんだ?」

「つまり開業資金の話か……まあ、実を言うと目標金額一歩手前まで来てんだよ」

「マジで?」

「ああ、大マジ」

 そう言ってグレンは機嫌良く笑みを浮かべる。

「結構生活費削って貯めてたりしたからな。あと一年もすればとりあえず王都に出れるんじゃねえかって思ってる」

「一年……か」

「ああ。結構頑張ったからな」

 そう言って笑うグレンの事をすげえなって心中で称賛してると、リーナに肘で脇腹を突かれる。

「……なんだよ」

 小声でリーナにそう言うと、リーナも小声で俺に言ってくる。

「……その貰った刀、ほんと大事にしないと駄目っすよ。多分それ一本の市場価値って、グレンさんの目標金額とそんなに変わんないと思うっすよ」

「……お、おう」

 そういやアスカさんも物凄い大金積んで売ってくれって言ってたよな……。
 つーかグレン、俺にこの刀譲らなきゃもう王都で開業準備できてた訳じゃん。開業した上で元の貯蓄と合わせて結構な余裕持てたじゃん。まあこれを売ろうとは思わないだろうけど。
 しかし……なんか俺の親友、ほんとすげえ奴なんだなって改めて思うよ。

 と、グレンの工房でそんなやり取りをしていた時だった。


 村が危険な事態に陥った時位にしか使われない鐘が鳴り響いたのは。
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