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三章 人間という生き物の本質

35 視線が届かぬ場所

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「まあ適当に座ってくれ」

「あーもう、すんごい息苦しかったっすよマジで」

 グレンの家に入り外の視線が無くなった所で、ようやく解放されたとばかりにソファーに座ったリーナがそう言って体を伸ばす。
 思えばリーナは俺達と村長達の間を取り持ってくれたりしていた事もあって、本当に息苦しい様な立場だったのかもしれない。

「悪いな、自然な流れとはいえ面倒な役押し付けて」

「いいんすよ。戦闘じゃ現状そこまで役に立っていないんすから他でカバーできることはどんどんやるっす。それに面識ある分アリサちゃんよりやり易かったと思うっすから」

「すみません、なんかボクおろおろしてるだけで終わっちゃって……」

「ていうかアリサちゃんは最初頑張ったじゃないっすか。中々あの空気で話ぶっこんでくのって勇気いるっすよ」

「リーナの言うとおりだ……ありがとな、アリサ」

「いえ、ボクは当然の事をしただけですから」

 少し照れるようにアリサはそう言って……だけどその後少し表情を曇らせて言う。

「……でも結果的に少し面倒な事になっちゃいましたね」

「気にすんな。面倒な事になってるこの村の連中がおかしいんだよ」

 グレンがアリサをフォローするように言う。

「百歩譲ってスキル云々で疫病神扱いしてるのは、反応としておかしい事じゃねえのかもしれねえ。だけど脅してるとか、そんなのはもう完全にただの人格批判的だろ」

「同感っすね」

 リーナもそう言って、軽くため息を付いてから言う。

「……まさか自分が少し前にお世話になった人達の印象がここまで変わるとは思わなかったっすよ。正直話聞きながらキレそうでしたよ私。キレたら収集つかなそうだと思ったっすから黙ってたっすけど」

「キレても良かったんじゃねえの。いいじゃねえかこの際あんな奴等との話が収集付かなかったとしても」

「そんな訳にもいかないっすよ。一応仕事で来てるしそれに……先輩が受けたいからこの依頼を受けたんすよ……私個人の感情であれ以上場を壊しちゃいけないと思うっすよ」

 そして一拍空けてからリーナが言う。

「先輩が良いって言うならいくらでもブチギレるっすけど……どうっすか?」

 ……どうするか。
 ……というより俺がどうしたいかって話か。
 俺は一拍空けてからリーナの言葉に答える。

「……今は少し、我慢してくれないか? 正直どうすりゃいいのか分からねえけど……だけど、なんとかうまくやりたいからさ」

 うまくやりたい。
 あの人達を助けたい。自分のルーツであるこの村を守りたい。
 そして……自分なりの、自分本意に対しての罪滅ぼし。
 その為に……できればこれ以上争うような真似はしたくないから。

「……まあ先輩が言うなら我慢するっすけど」

「わりいな」

 リーナにそう言葉を返しながら、ふと脳裏に言葉がよぎる。


 あの人達を助けたい。罪滅ぼしをしたい……本当にそうか?


 一瞬、自分の中に大きな違和感を感じた。
 本当にそれだけの理由なのかなんてのは、依頼を受けたときから考えていたけれど、ここにきてそれがより強く色濃く脳裏に浮かび上がってきた。
 ……果たしてクルージという人間はどうしてあの人達を。この村を助けたいと思っているのか。
 それを俺自信が徐々に分からなくなっていくような、そんな気がした。

 だけどどんな理由であれ。助けようと思う気持ちに偽りはなくて。だからこそ此処にいて。リーナの言ってくれた言葉を止めて。俺はこれからこの村の為に戦う。
 それは変わらない。
 変わらない筈だ。

「……まあとにかくだ」

 グレンが言う。

「クルージ、お前この村にいる間は絶対に一人で出歩くなよ。……正直ろくなことにならねえと思うから」

「……まあそれは分かってるよ。流石に」

 だから元よりそんな勇気はなくて。
 だから外から遮断されたこの場所が、とても落ち着くのだろうから。

「分かってんならいいよ。とにかく外出る用事あるなら俺かアリサやリーナを連れてけ」

「ああ、そうするよ」

 つっても外出る用事なんてない訳だけど。帰る所ももう空き家になってて無い訳だし。
 ……あるとすれば親父と母さんの墓参り位か。
 っていやいや、それ位はやっとかないとマズいだろ。
 次いつ戻ってこれるか。そもそも戻ってこれる様な状況になるかすら分からねえんだから。
 せめてそれ位は絶対にやっとかないといけない気がする。

「じゃあ後で誰か頼むわ」

「あ、じゃあボク行きますよ」

「私も行くっすよ」

「なら俺も行くか」

「……すげえ。とても個人的な墓参り行く様な人数じゃ無くなってる」

 ……まあ賑やかにやれてますって所見せれれば、それが一番いいんだろうけど。
 と、俺が軽い気持ちでそう言うと、アリサが少し聞きづらそうに俺に聞いてくる。

「あの……お墓参りっていうのは、その……誰のですかね」

 そう言うアリサの隣りではリーナも気まずい表情を浮かべている。
 ……そう言えば言ってなかったな。
 ここから先を言うべきかは少し迷ったけど、聞かれている以上一応答えておく。

「俺の両親。その……まあ昔、ちょっと流行り病でな」
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