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三章 人間という生き物の本質

31 里帰り

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「大丈夫ですか? なんだか顔色悪いですよ?」

「……まあなんとなく理由は察するっすけど」

「……多分察してもらってる感じの理由だわこれ」

 翌日。特に問題が発生する事もなくラーンへと向かっていた俺達だが、まあ流石にラーンがすぐそこにまで来た段階で胃が痛くなってきた。
 医学的な話になると全く専門的な知識を持ち合わせていないから良く分からないけど、ストレス性の胃痛という奴なのではないだろうか。

 ……当然と言えば当然なのかもしれないけれど。はたまた俺のメンタルが弱いだけなのかもしれないけれど。もうすぐラーンの村に着くと思うと。自分が追いだされた村に辿りつくと思うと、酷く気分が億劫で、なんとも言えない恐怖心もあって。とにかく自分でやると言いだした事なのに逃げだしたくなってしまう。

 ……まあ逃げないけど。
 逃げないけれど、やっぱりこれから色々な人と向き合い直さないといけないと思うと、ほんと逃げたい。
 何言われるかわからないというか、何言われるか分かっているから怖いというか、目に見えた地雷を踏みに行く様な気分と言うか。
 まあそれ分かってて受けてるから……受けてるからなぁ。

 駄目だ。さっきから同じような思考がぐるぐるぐるぐると脳内を回っている。
 ……もうものすごい胃が痛い。

「……先輩完全にアレっすよね。自分のお里がトラウマになってるっすよね」

「……」

 返す言葉もない。
 まさしくその通りなのだろうと、此処に来て身を持って改めて知った。
 辛いだろうとは思っていたけど、此処までとはなぁ。

「クルージさん」

 正面に座るアリサが言う。

「正直此処から先しばらくは、クルージさんにとっては相当辛い時間になると思います。一応ボクがクルージさんの幸運の生証人な訳ですけど、それで納得してもらえるかもわからないですしね」

 ……結局幸運だとか不運だとか、そういう大雑把な名称ですら専門的な知識や技能を持つ人間でなければ判別が聞かない訳で。そもそもアリサがそういうスキル持ちだという事すら信用してもらえるか分からない。
 クルージという人間のラーンの村における人望は底辺どころかマイナスなのだから。
 だけど俺にとって本当に幸いなのが、それがラーンという故郷の村に限定された事だという事だろう。
 アリサは言う。

「だけど……せめてボク達位は味方のつもりですから。それだけは忘れないでください」

 そしてリーナも笑って言ってくれる。

「そうっすね。まあ何言われるか分かんないし、それに何か言い返せるかも分かんないっすけど、四方八方敵しかいない様な、そんな酷い状況じゃないっす。というかそうはさせないっすから」

 ……そういう事を言われると、改めて思う。
 多分俺は凄く恵まれているんだなと。
 きっと、そういう事を言って貰える様な人間関係を構築できたという事は、とても幸せな事なのだろうから。
 そして改めて分かったのが、クルージという人間が随分と単純な人間だという事だろう。

 そう言ってもらえただけで、少し気が楽になっているのだから。
 ちょっと頑張ってみようと思えたのだから。

「ありがと。とりあえず頑張ってみるよ」

 そうだ。頑張ってみよう。
 これは俺の問題で、俺が言いだした事で、なのに俺がこんな状態でどうするんだ。
 辛いだろうけど怖いだろうけど、ちゃんと前を向き直そう。

 俺がこの先、コイツらと一緒に真っ直ぐ立って生きていく為にも。 
 自分がやらないといけないと思った事位はやりきるんだ。



 そして、やがて馬車は止まる。
 窓から見えるのは見慣れた景色。
 見慣れていた景色。
 そして扉が開かれる。

「まあ分かってると思うけど、着いたぞ」

「……ああ」

 グレンに言われて頷いた。
 さあ……間違いなく誰にも望まれていない、里帰りの始まりである。
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