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三章 人間という生き物の本質

9 最強のパーティーとの邂逅

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「ああ二人共。この方がとんでもなく希少な刀を持っていてな。売ってくれないかと頼み込んでいた所だ」

「あーアスカっち刀好きだからね」

「まさかとは思うけどまた報酬金全部突きつけたりしたのかい? その癖は止めた方がいいね。アスカの為にも相手の為にも」

「……し、しかし良質の刀を見るとな……」

 と、どこかシュンとするアスカと呼ばれた刀使いの人に、青髪の青年は小さくため息をついた後、俺達に言う。

「すまない、アスカが迷惑を掛けたね」

「あ、いえ、迷惑って訳じゃ……」

「ん? そうか。ならいいんだけど」

 と、少し安心した様な表情を浮かべた青年は言う。

「ああそうだ。自己紹介がまだだったね。僕の名前はシド。剣士をやっている」

「あ、私はルナ。魔術やってまーす。以後よろしくー」

 そうして最強のパーティーの面々は俺達に自己紹介をしてくる。
 そしてアスカさんも。

「ああそうだ申し遅れた。私はアスカだ。剣士をやってる」

 うん、知ってる。

「だが剣士ではなく……その、侍とでも思ってくれれば嬉しいな」

 うん、知らない。侍なにそれ。

「「……侍?」」

 おそらくアリサも分からなかったのか、首を傾げる。
 と、そこでそんな俺達を見てリーナが言う。

「侍っていうのは、まあざっくり言えば東の国でいう剣士みたいなものっす。いやまあ正確には大分違う気がするっすけど、大体そう思っときゃいいっすね」

「リーナさん、ほんとなんでも知ってますね」

「いやいやーほんと簡単な事しか知らないっすよー」

「いやいや、誰に言っても全く理解してくれなかったからな。凄いぞリーナ殿」

「まあよく分かんないけど、多分凄いんだよねー」

「そうっすか? 私凄いっすか?」

 そう言ってなんか凄く嬉しそうにドヤるリーナ。そしてそれを持ち上げるアリサにアスカとルナさん。ノリいいなーあの人達。
 と、そんな女性陣の様子を見ていると、シドさんが俺に聞いてくる。

「キミ達はパーティーを組んでいるのかい?」

「ええ。まだ日は浅いですけど」

「そうか」

 と、シドさんはそう言った後、一拍空けてから言う。

「……大丈夫かい?」

 それが何を意味するのかはすぐに分かった。

「……アリサの不幸スキルの事ですか」

「……ああ」

 シドさんはそれに頷く。
 当然と言えば当然なのかも知れないけれど、悪い意味で有名人だったアリサの情報は、良い意味で有名人なシドさんの耳にも届いているようだった。
 だけどその件ならば……もうある程度いい報告ができる。

「大丈夫ですよ。俺がSSランクの幸運スキルを持ってるんで。それでうまく相殺出来てるんですよ」

「SSランクの幸運スキル……そうか、それならこの状況も頷ける」

 そう言った後、どこか安心した様にシドは言う。

「よかった、キミの様な人が現れてくれて。正直どうにかならないものかと思っていたんだ。結果的に何もしなかった僕が言えた事ではないだろうけど……それでも、ボクもルナやアスカを危険に晒す訳にはいかなかったからね」

 と、一拍空けてから言う。

「おそらくあの子のスキルは近くにいれば効果が付与されるようなものではないだろうから」

「気付いてたんですか?」

「まあね。もしそうだとしたらギルドの敷地内にいただけで何らかの影響を受けてもおかしくはなかったからね……下手をすれば関わる事によって、あの子がいない所でもスキルの効果を受ける恐れがあった」

 そしてシドは言う。

「気付いていたのかって事は、実際そういう事だったという事でいいのかな?」

「……ええ。俺達の立てた仮説に過ぎないですけど、俺やアリサのスキルは俺達にとって幸運、不運な事が起きる感じみたいなんですよ。だからそれでいいと思います」

「そうか……だとすれば皆が思っていたよりも相当に酷いスキルだね」

 だけど、とシドは言う。

「キミのおかげで僕達はもうあの子と関われる訳だ」

「まあそういう事になりますね」

 実際、既にルナさんとアスカさんがそうしている様に。
 ……あれ、ちょっと待って。

「えーっと、シドさん」

「何かな」

「今その事実を確信できたんなら……その前にああいう状況になっているのはシドさん達的に不味かったんじゃないですかね?

 ああいう状況。
 普通に自然な流れで互いに自己紹介を行い、普通に雑談を初めてしまっている様な。
 普通に仲良くなりだしているような、そんな状況。

「……」

「……」

「……不味いね。すっごく不味いね。あぶねー」

「……そうですね」

 涼しいスマイルを浮かべながら冷や汗ダラダラである。
 ……まあなんかこの人含め馴染みやすそうな人達だなーと思った。

 まあ最強のパーティーだ。
 今は遥かに格が違う。多分余程の事がなければ一緒に仕事をするような事はないだろう。

 だけどまあ……それ以外なら。

 普通に友人の様な関係なら築けるかもしれない。
 もう既に築けているかもしれない。
 願わくば目の前で広がっている光景が続きますように。

 俺は心中でそう呟いた。

「ああ、そうだキミ名前は?」

 と、そこでシドさんにそう尋ねられる。
 そう言えば名乗ってなかったな。

「あ、クルージです」

「じゃあクルージ君。僕定期的にギルドの冒険者の親睦を深めるために飲み会開いてるんだけど、今度キミも来る?」

「あ、じゃあ行きます」

「よし。なら日時は決まり次第伝えるよ。飲み代もさっき稼いだ」

 そう言ってシドさんは笑みを浮かべる。
 予想外だったけど、なんだか俺の王都での狭すぎる交友関係も広がりそうな気がした。
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