上 下
55 / 228
三章 人間という生き物の本質

2 二度ある事は何度でも

しおりを挟む
 ……しかし本当にどんな依頼を受けるのがベストなのだろうか?
 今はパーティーに駆け出し冒険者であるリーナがいる。そう考えるとCランクの依頼も若干不安が残る訳で。
 だけども冷静に考えてみれば、たった一週間で一冊の魔術教本に載っている全ての魔術を習得した天才だ。もしかすると昨日一日で超絶パワーアップを遂げている可能性もある。もうこれはリーナ次第だな、うん。しばらくの間は。

 ……でもまあ、しばらく魔獣関連はいいな。二回連続魔獣絡みの依頼を受けている訳だし。

 と、そんな事を考えながら壁掛けのボードに張られた依頼書を眺める二人の所に戻ってきた。

「お待たせ。なんかいいのあった?」

 そう訪ねると、二人はとても微妙な表情を向けてくる。

「それが……」

「……なんかどれを見ても魔獣魔獣、アンド魔獣っすよ」

「いやいやいや、どれもって事はねえだろ」

 ここ最近、魔獣が異常発生しているのは知ってる。だけどだからといってそうはならないだろうと、そう考えながら依頼書を眺める。

「……ほんとじゃん」

「魔獣魔獣アンド魔獣っすよね?」

「なんでこんな……」

 確かに二人が言うとおり、張られていた依頼書はどれもこれも魔獣の討伐案件だらけだった。
 ……いくらなんでもこれは……。

「原因は分かりませんが、どうやら国も本腰入れて調査に乗り出すようですよ」

 と、声を掛けてきたのはルークだった。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

 と、そんな軽いやり取りを交わした後でルークは言う。

「完全に異常事態ですよ。そんな訳で俺も今日の依頼は魔獣狩りです。他の皆さんもそういう人が多いんじゃないですかね。クルージさん達も?」

「いや、俺達はまだ今から何受けるか話す所だ。というか魔獣はパスしてえな。ほら、ウチ新入りいるからいきなり魔獣とかと戦うのはちょっと」

「ども、新入りのリーナっす」

「どうも、ルークです。以後よろしく」

「あ、あの……そういえばクルージさん。一昨日聞くの忘れたんですけどこの人は……」

「ああ。俺の元居たパーティーに俺の代わりに居た奴で……ほら、お見舞いにあの無茶苦茶高いお菓子持ってきた人」

「あ、その節はごちそうさまでした!」

「ははは、喜んでいただいて何より」

 そう言ってルークは笑みを浮かべて、浮かべながら少し重い声で俺だけにしか聞こえない様に言う。

「女の子、増えましたね。女たらしが」

「あ、いやいや、そういうのじゃねえよ」

「ならいいですが……泥沼化して刺されたりしないことを願ってます。怖いですよ、女の子って」

「なに、経験談?」

 ……まあなんとなくそんな感じはするよ。
 なんかね、すっごい失礼な事考えてるかもしれないけど、コイツ凄い女たらし感あるもん。純度100%の女たらしの顔してるもん。

 とまあ経験談かどうかの問いは笑って流され……そして、ルークは切り替えた様に少し真面目な表情を浮かべて言う。

「それで、魔獣はちょっと……との事ですが、それが新入りがいて難易度的にという事でしたらちょっと難しいかもしれません」

「どういう事だよ」

「見ての通りですよ」

 言いながらルークは依頼書の張られたボードに視線を向ける。

「この通り今ある依頼のかなりの割合を魔獣の案件が占めています。先程俺も受付で少し聞いたんですが、そもそも低ランクの依頼を行うような場所に魔獣が出現していて低ランクの依頼が激減してるんですよ」

 だから、とルークは言う。

「今、あなたが希望しているような依頼にありつける可能性は低いです。豊富にあるのは魔獣討伐のようなそれなりのランクの依頼や……そもそも魔獣が発生した所で支障がない。もとい支障がなければ成り立たない様な高ランクの依頼だけです」

「……」

 マジかよ。
 じゃあなんだ……今依頼を受けようと思えば……リーナを明らかに駆け出し向きじゃない依頼につれていかないといけないって事なのか……。

「ま、まあ全くねえ訳じゃねえんだろ? いきなりリーナをそんな所に連れていくわけにはいかねえし、一応受付で聞くだけ聞いて――」

「良いっすよ、私は」

 リーナが俺の言葉を遮ってそう言った。

「良いってお前……」

「というかそうじゃないと駄目だと思うんすよ」

 リーナは少し真面目な表情で言う。

「私にはアリサちゃんや先輩がいるっす。だから……その、頼る立場になる私が言える事じゃないのは分かってるんすけど、魔獣相手位ならどうにかなる筈っす」

 だけど、とリーナは言う。

「他の駆け出しの冒険者はそうはいかないっすよ」

「……」

「だったら……少ししかないパイを私達が取るわけにはいかないじゃないっすか」

 確かに俺とアリサが入れば、リーナがいてもある程度の難易度の依頼には対応できる。
 だけど……他の駆け出し冒険者は、多分基本的に駆け出し冒険者としか組めないから。
 俺達が簡単な依頼を受けてしまえば、そういう連中が得られる筈だった収入を俺達が奪うことになるから。

「……まあ、確かに」

 ……確かにリーナは至極真っ当な事を言っているのだと思う。

「極力足手まといにはならないように頑張るっすよ。ほら、昨日新しい魔術もいくつか覚えたっすから、多少はなんとかできる筈ですし……それに、まあ、本当にヤバかったら逃げれるっすから。どうっすかね?」

「……分かりました」

 リーナの言葉にアリサが答える。

「リーナさんはやれる範囲でサポートしてください。そして……リーナさんはボクとクルージさんで守ります」

 そしてアリサは俺の方に視線を向けて聞いてくる。

「それでいいですか?」

「ああ。じゃあ今回はそういう事にしとこう」

 俺もアリサの言葉に頷いた。
 簡単な依頼はそれ相応の実力者に回さなければならない。それは本当に間違いがない事で……多分そこは無理を押し通してはいけない。

 ……こうなった以上、リーナを守りながらでもある程度のレベルの依頼を受けていかなければならない。

「はい! じゃあほんと、頑張るっすよ私。ああ、殆ど私何もできないと思うっすから、報酬は少な目でいいっすよ」

「いや三分割だ」

「均等に行きましょう」

「……じゃあその分頑張らないと駄目っすね」

 リーナはそう言いなが笑みを浮かべる。
 そしてそんな俺達を見て、ルークは俺の脇を肘でつついて小さな声で言う。

「ほんと、ちゃんと守ってやってくださいよ。ああいう事が言える子はくだらない理由で傷ついちゃいけない」

「……分かってるよ」

 リーナだけじゃない。
 そんな事を俺が言うのは現実的に難しいかもしれないけれど、アリサも含めて二人とも、俺が守るんだって気持ちで望まないといけない。

 ……どっちも、くだらない理由じゃなくても傷ついちゃいけないような奴らだと思うから。

 そしてリーナは言う。

「じゃあそうと決まれば早速依頼を受けるっすよ……となると一つ気になる依頼があるんすよね」

「どれどれ?」

 そう言ってリーナが指差した依頼に視線を向ける。
 どうやら王都から離れた村周辺で魔獣が大量発生して、その被害を食い止めるという類いの依頼のようだった。
 ……と、そこで俺はようやく気付いた。

「いやー私王都に来る途中で、このラーンって村に少しだけ滞在してたんすけど、その時色々よくしてもらったんっすよね」

 その村とはリーナがそう笑って言うラーンの村だという事に。

 ……俺が生まれ育った故郷の村だという事に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

処理中です...