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三章 人間という生き物の本質
2 二度ある事は何度でも
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……しかし本当にどんな依頼を受けるのがベストなのだろうか?
今はパーティーに駆け出し冒険者であるリーナがいる。そう考えるとCランクの依頼も若干不安が残る訳で。
だけども冷静に考えてみれば、たった一週間で一冊の魔術教本に載っている全ての魔術を習得した天才だ。もしかすると昨日一日で超絶パワーアップを遂げている可能性もある。もうこれはリーナ次第だな、うん。しばらくの間は。
……でもまあ、しばらく魔獣関連はいいな。二回連続魔獣絡みの依頼を受けている訳だし。
と、そんな事を考えながら壁掛けのボードに張られた依頼書を眺める二人の所に戻ってきた。
「お待たせ。なんかいいのあった?」
そう訪ねると、二人はとても微妙な表情を向けてくる。
「それが……」
「……なんかどれを見ても魔獣魔獣、アンド魔獣っすよ」
「いやいやいや、どれもって事はねえだろ」
ここ最近、魔獣が異常発生しているのは知ってる。だけどだからといってそうはならないだろうと、そう考えながら依頼書を眺める。
「……ほんとじゃん」
「魔獣魔獣アンド魔獣っすよね?」
「なんでこんな……」
確かに二人が言うとおり、張られていた依頼書はどれもこれも魔獣の討伐案件だらけだった。
……いくらなんでもこれは……。
「原因は分かりませんが、どうやら国も本腰入れて調査に乗り出すようですよ」
と、声を掛けてきたのはルークだった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
と、そんな軽いやり取りを交わした後でルークは言う。
「完全に異常事態ですよ。そんな訳で俺も今日の依頼は魔獣狩りです。他の皆さんもそういう人が多いんじゃないですかね。クルージさん達も?」
「いや、俺達はまだ今から何受けるか話す所だ。というか魔獣はパスしてえな。ほら、ウチ新入りいるからいきなり魔獣とかと戦うのはちょっと」
「ども、新入りのリーナっす」
「どうも、ルークです。以後よろしく」
「あ、あの……そういえばクルージさん。一昨日聞くの忘れたんですけどこの人は……」
「ああ。俺の元居たパーティーに俺の代わりに居た奴で……ほら、お見舞いにあの無茶苦茶高いお菓子持ってきた人」
「あ、その節はごちそうさまでした!」
「ははは、喜んでいただいて何より」
そう言ってルークは笑みを浮かべて、浮かべながら少し重い声で俺だけにしか聞こえない様に言う。
「女の子、増えましたね。女たらしが」
「あ、いやいや、そういうのじゃねえよ」
「ならいいですが……泥沼化して刺されたりしないことを願ってます。怖いですよ、女の子って」
「なに、経験談?」
……まあなんとなくそんな感じはするよ。
なんかね、すっごい失礼な事考えてるかもしれないけど、コイツ凄い女たらし感あるもん。純度100%の女たらしの顔してるもん。
とまあ経験談かどうかの問いは笑って流され……そして、ルークは切り替えた様に少し真面目な表情を浮かべて言う。
「それで、魔獣はちょっと……との事ですが、それが新入りがいて難易度的にという事でしたらちょっと難しいかもしれません」
「どういう事だよ」
「見ての通りですよ」
言いながらルークは依頼書の張られたボードに視線を向ける。
「この通り今ある依頼のかなりの割合を魔獣の案件が占めています。先程俺も受付で少し聞いたんですが、そもそも低ランクの依頼を行うような場所に魔獣が出現していて低ランクの依頼が激減してるんですよ」
だから、とルークは言う。
「今、あなたが希望しているような依頼にありつける可能性は低いです。豊富にあるのは魔獣討伐のようなそれなりのランクの依頼や……そもそも魔獣が発生した所で支障がない。もとい支障がなければ成り立たない様な高ランクの依頼だけです」
「……」
マジかよ。
じゃあなんだ……今依頼を受けようと思えば……リーナを明らかに駆け出し向きじゃない依頼につれていかないといけないって事なのか……。
「ま、まあ全くねえ訳じゃねえんだろ? いきなりリーナをそんな所に連れていくわけにはいかねえし、一応受付で聞くだけ聞いて――」
「良いっすよ、私は」
リーナが俺の言葉を遮ってそう言った。
「良いってお前……」
「というかそうじゃないと駄目だと思うんすよ」
リーナは少し真面目な表情で言う。
「私にはアリサちゃんや先輩がいるっす。だから……その、頼る立場になる私が言える事じゃないのは分かってるんすけど、魔獣相手位ならどうにかなる筈っす」
だけど、とリーナは言う。
「他の駆け出しの冒険者はそうはいかないっすよ」
「……」
「だったら……少ししかないパイを私達が取るわけにはいかないじゃないっすか」
確かに俺とアリサが入れば、リーナがいてもある程度の難易度の依頼には対応できる。
だけど……他の駆け出し冒険者は、多分基本的に駆け出し冒険者としか組めないから。
俺達が簡単な依頼を受けてしまえば、そういう連中が得られる筈だった収入を俺達が奪うことになるから。
「……まあ、確かに」
……確かにリーナは至極真っ当な事を言っているのだと思う。
「極力足手まといにはならないように頑張るっすよ。ほら、昨日新しい魔術もいくつか覚えたっすから、多少はなんとかできる筈ですし……それに、まあ、本当にヤバかったら逃げれるっすから。どうっすかね?」
「……分かりました」
リーナの言葉にアリサが答える。
「リーナさんはやれる範囲でサポートしてください。そして……リーナさんはボクとクルージさんで守ります」
そしてアリサは俺の方に視線を向けて聞いてくる。
「それでいいですか?」
「ああ。じゃあ今回はそういう事にしとこう」
俺もアリサの言葉に頷いた。
簡単な依頼はそれ相応の実力者に回さなければならない。それは本当に間違いがない事で……多分そこは無理を押し通してはいけない。
……こうなった以上、リーナを守りながらでもある程度のレベルの依頼を受けていかなければならない。
「はい! じゃあほんと、頑張るっすよ私。ああ、殆ど私何もできないと思うっすから、報酬は少な目でいいっすよ」
「いや三分割だ」
「均等に行きましょう」
「……じゃあその分頑張らないと駄目っすね」
リーナはそう言いなが笑みを浮かべる。
そしてそんな俺達を見て、ルークは俺の脇を肘でつついて小さな声で言う。
「ほんと、ちゃんと守ってやってくださいよ。ああいう事が言える子はくだらない理由で傷ついちゃいけない」
「……分かってるよ」
リーナだけじゃない。
そんな事を俺が言うのは現実的に難しいかもしれないけれど、アリサも含めて二人とも、俺が守るんだって気持ちで望まないといけない。
……どっちも、くだらない理由じゃなくても傷ついちゃいけないような奴らだと思うから。
そしてリーナは言う。
「じゃあそうと決まれば早速依頼を受けるっすよ……となると一つ気になる依頼があるんすよね」
「どれどれ?」
そう言ってリーナが指差した依頼に視線を向ける。
どうやら王都から離れた村周辺で魔獣が大量発生して、その被害を食い止めるという類いの依頼のようだった。
……と、そこで俺はようやく気付いた。
「いやー私王都に来る途中で、このラーンって村に少しだけ滞在してたんすけど、その時色々よくしてもらったんっすよね」
その村とはリーナがそう笑って言うラーンの村だという事に。
……俺が生まれ育った故郷の村だという事に。
今はパーティーに駆け出し冒険者であるリーナがいる。そう考えるとCランクの依頼も若干不安が残る訳で。
だけども冷静に考えてみれば、たった一週間で一冊の魔術教本に載っている全ての魔術を習得した天才だ。もしかすると昨日一日で超絶パワーアップを遂げている可能性もある。もうこれはリーナ次第だな、うん。しばらくの間は。
……でもまあ、しばらく魔獣関連はいいな。二回連続魔獣絡みの依頼を受けている訳だし。
と、そんな事を考えながら壁掛けのボードに張られた依頼書を眺める二人の所に戻ってきた。
「お待たせ。なんかいいのあった?」
そう訪ねると、二人はとても微妙な表情を向けてくる。
「それが……」
「……なんかどれを見ても魔獣魔獣、アンド魔獣っすよ」
「いやいやいや、どれもって事はねえだろ」
ここ最近、魔獣が異常発生しているのは知ってる。だけどだからといってそうはならないだろうと、そう考えながら依頼書を眺める。
「……ほんとじゃん」
「魔獣魔獣アンド魔獣っすよね?」
「なんでこんな……」
確かに二人が言うとおり、張られていた依頼書はどれもこれも魔獣の討伐案件だらけだった。
……いくらなんでもこれは……。
「原因は分かりませんが、どうやら国も本腰入れて調査に乗り出すようですよ」
と、声を掛けてきたのはルークだった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
と、そんな軽いやり取りを交わした後でルークは言う。
「完全に異常事態ですよ。そんな訳で俺も今日の依頼は魔獣狩りです。他の皆さんもそういう人が多いんじゃないですかね。クルージさん達も?」
「いや、俺達はまだ今から何受けるか話す所だ。というか魔獣はパスしてえな。ほら、ウチ新入りいるからいきなり魔獣とかと戦うのはちょっと」
「ども、新入りのリーナっす」
「どうも、ルークです。以後よろしく」
「あ、あの……そういえばクルージさん。一昨日聞くの忘れたんですけどこの人は……」
「ああ。俺の元居たパーティーに俺の代わりに居た奴で……ほら、お見舞いにあの無茶苦茶高いお菓子持ってきた人」
「あ、その節はごちそうさまでした!」
「ははは、喜んでいただいて何より」
そう言ってルークは笑みを浮かべて、浮かべながら少し重い声で俺だけにしか聞こえない様に言う。
「女の子、増えましたね。女たらしが」
「あ、いやいや、そういうのじゃねえよ」
「ならいいですが……泥沼化して刺されたりしないことを願ってます。怖いですよ、女の子って」
「なに、経験談?」
……まあなんとなくそんな感じはするよ。
なんかね、すっごい失礼な事考えてるかもしれないけど、コイツ凄い女たらし感あるもん。純度100%の女たらしの顔してるもん。
とまあ経験談かどうかの問いは笑って流され……そして、ルークは切り替えた様に少し真面目な表情を浮かべて言う。
「それで、魔獣はちょっと……との事ですが、それが新入りがいて難易度的にという事でしたらちょっと難しいかもしれません」
「どういう事だよ」
「見ての通りですよ」
言いながらルークは依頼書の張られたボードに視線を向ける。
「この通り今ある依頼のかなりの割合を魔獣の案件が占めています。先程俺も受付で少し聞いたんですが、そもそも低ランクの依頼を行うような場所に魔獣が出現していて低ランクの依頼が激減してるんですよ」
だから、とルークは言う。
「今、あなたが希望しているような依頼にありつける可能性は低いです。豊富にあるのは魔獣討伐のようなそれなりのランクの依頼や……そもそも魔獣が発生した所で支障がない。もとい支障がなければ成り立たない様な高ランクの依頼だけです」
「……」
マジかよ。
じゃあなんだ……今依頼を受けようと思えば……リーナを明らかに駆け出し向きじゃない依頼につれていかないといけないって事なのか……。
「ま、まあ全くねえ訳じゃねえんだろ? いきなりリーナをそんな所に連れていくわけにはいかねえし、一応受付で聞くだけ聞いて――」
「良いっすよ、私は」
リーナが俺の言葉を遮ってそう言った。
「良いってお前……」
「というかそうじゃないと駄目だと思うんすよ」
リーナは少し真面目な表情で言う。
「私にはアリサちゃんや先輩がいるっす。だから……その、頼る立場になる私が言える事じゃないのは分かってるんすけど、魔獣相手位ならどうにかなる筈っす」
だけど、とリーナは言う。
「他の駆け出しの冒険者はそうはいかないっすよ」
「……」
「だったら……少ししかないパイを私達が取るわけにはいかないじゃないっすか」
確かに俺とアリサが入れば、リーナがいてもある程度の難易度の依頼には対応できる。
だけど……他の駆け出し冒険者は、多分基本的に駆け出し冒険者としか組めないから。
俺達が簡単な依頼を受けてしまえば、そういう連中が得られる筈だった収入を俺達が奪うことになるから。
「……まあ、確かに」
……確かにリーナは至極真っ当な事を言っているのだと思う。
「極力足手まといにはならないように頑張るっすよ。ほら、昨日新しい魔術もいくつか覚えたっすから、多少はなんとかできる筈ですし……それに、まあ、本当にヤバかったら逃げれるっすから。どうっすかね?」
「……分かりました」
リーナの言葉にアリサが答える。
「リーナさんはやれる範囲でサポートしてください。そして……リーナさんはボクとクルージさんで守ります」
そしてアリサは俺の方に視線を向けて聞いてくる。
「それでいいですか?」
「ああ。じゃあ今回はそういう事にしとこう」
俺もアリサの言葉に頷いた。
簡単な依頼はそれ相応の実力者に回さなければならない。それは本当に間違いがない事で……多分そこは無理を押し通してはいけない。
……こうなった以上、リーナを守りながらでもある程度のレベルの依頼を受けていかなければならない。
「はい! じゃあほんと、頑張るっすよ私。ああ、殆ど私何もできないと思うっすから、報酬は少な目でいいっすよ」
「いや三分割だ」
「均等に行きましょう」
「……じゃあその分頑張らないと駄目っすね」
リーナはそう言いなが笑みを浮かべる。
そしてそんな俺達を見て、ルークは俺の脇を肘でつついて小さな声で言う。
「ほんと、ちゃんと守ってやってくださいよ。ああいう事が言える子はくだらない理由で傷ついちゃいけない」
「……分かってるよ」
リーナだけじゃない。
そんな事を俺が言うのは現実的に難しいかもしれないけれど、アリサも含めて二人とも、俺が守るんだって気持ちで望まないといけない。
……どっちも、くだらない理由じゃなくても傷ついちゃいけないような奴らだと思うから。
そしてリーナは言う。
「じゃあそうと決まれば早速依頼を受けるっすよ……となると一つ気になる依頼があるんすよね」
「どれどれ?」
そう言ってリーナが指差した依頼に視線を向ける。
どうやら王都から離れた村周辺で魔獣が大量発生して、その被害を食い止めるという類いの依頼のようだった。
……と、そこで俺はようやく気付いた。
「いやー私王都に来る途中で、このラーンって村に少しだけ滞在してたんすけど、その時色々よくしてもらったんっすよね」
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