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二章 ごく当たり前の日常を掴む為に

34 金の卵

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「じゃあもっと頑張って魔術の勉強しなきゃっすねー。私頑張るっすよ!」

 リーナがやる気に満ちた表情を浮かべてそう言った所で、俺は一つ気になる事があって聞いてみた。

「そういやお前が駆け出しの冒険者なのは知ってるけど、現時点で具体的になんの魔術を使えるんだ?」

 これは一緒に仕事をする仲間として聞いておくべき質問だ。初心者とはいえ付け焼き刃とはいえ、現時点でリーナは魔術を使えるわけで。だとすればきっと活躍できる場もあって。
 とにかく俺達は現時点のリーナの実力を詳しく知っておかなければならない。

「何が……っすか。難しい質問っすね」

 あれ? 俺なんか難しい事聞いたっけ?
 と、そんな事に困惑していた所でリーナの中で考えが纏まったらしく言葉を紡ぐ。

「まあとりあえずこの本に載っている魔術はもう一通り使えるっすね」

「「……ッ!?」」

 リーナの言葉に俺達は戦慄した。
 だってそうだ。コイツは今結構無茶苦茶な事を言いやがったのだから。

「あれ? どうしたんすか二人供。固まってるっすよ?」

「え。だってお前……」

「そりゃびっくりしますよ……リーナさん、最近魔術を始めたんですよね?」

「あーまあそうっすね。この前この本買った訳っすから。でもこれ初心者向けの本なんで別に驚く事ないっすよ」

 そう言ってリーナは笑うが……それは十分に驚くべき事なんだ。
 その魔術教本に載っていたコラムを読んで得た知識なのだが、魔術は系統や分類によって人により相性が生まれてくる。
 流石にその初心者向けの魔術教本は覚えようと思えば全ての魔術を習得できるらしいが、それでもどこかで壁にぶつかる。致命的に相性が悪い魔術だってあるのだ。故にその全てを覚えようと思えば、得意な系統、分類の上級魔術を学んだ方が早く習得できる事もあるとか。
 つまりはたかだかこの一週間で、この教本に載っている魔術を出力はともかく発動させられるのならば、それはとても異常な事なんだ。

「……アリサ」

「……なんですか?」

「もしかしたら俺達は、とんでもない金の卵をパーティーに迎え入れたのかもしれない」

「……ええ。間違いなくとんでもない天才ですよリーナさん」

 ……多分魔術の才能も大きかったアリサでも同じ事は出来ない。
 おそらくアリサは初めて教本を読んだ時に即行で発動してみせた炎の魔術や、スライムを蒸発させた様な雷の魔術に適正があり、一週間程度で初心者用の魔術とは思えない程の高出力を叩き出せるようになる一般的に才能のある人間だった訳だけれど、アリサも同じように驚いているという事は、それ以外の魔術は普通に使えないか、満足に扱える気がしなかったのだと思う。

 つまり普通に才能がある奴とは別種の天才。
 あらゆる魔術への適正を持つ、奇跡の逸材。

「え、金の卵とか天才だとか、そんな恥ずかしい事言わないでほしいっすよ」

 そう言ってリーナは恥ずかしそうにしながらも、それでもとってもドヤっている。
 こればかりは、その表情に見合っている。
 控えめに言って凄すぎるんだ。

 ……だとすれば、恥を忍んで一つ聞いておかなければならない事がある。
 このままではもしかすると俺はあっという間にリーナに追い付かれ、二人に実力で置いていかれるかもしれない。そうならない為にも……聞いておくんだ、天才の言葉を。

「ちなみにリーナ。俺もその本で魔術勉強し始めたんだけどさ、なんかコツとかある?」

 あの魔獣に喰らわせた一撃を見るに、現時点のリーナの魔術には大した出力は備わっていない。あくまで色々な魔術を習得する才能があるというだけ。
 だけどそれでも、俺はこの一週間で適正があると思った魔術を辛うじて一つだけ。対するリーナは一冊分だ。つまりはやはり適正があった上で、その先に魔術を使う為のコツの様な物がある気がしてならない。
 アリサの説明は意味が分から無かったから……とりあえず、魔術に関して一歩先に進める様な何かが欲しい。

 そう考えてリーナに問いかけると、リーナはそうっすねという前置きを置いた上で教えて。

「まあ魔術使おうとした時にスッとなると思うんすけど、そこでサーって感じで後はバーンっていけますよ」

「良かったなアリサ。お前リーナとの相性抜群だよ」

「……それは喜んで良いんですか?」

 いいんじゃないかな、うん。

 まあとにかく思った事は一つ。

 ……筋トレと走りこみと素振りもっとがんばろ。

 風魔術の様に剣術の中に組み込めるようにしたいから魔術の勉強は続けるけども……メインの剣術をマジになって頑張っていかないと。ほんとマジで。
 ……魔術分野でこの新入りの後輩に勝てる気がしねえや。
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