上 下
35 / 228
二章 ごく当たり前の日常を掴む為に

22 スキルという異能について 下

しおりを挟む
「……いつから」

 その問いの答えはすぐに辿りつく。
 それは俺とアリサが出会ったあの日からだ。
 あの日から俺の運気は世間一般の平均値よりもほんの少し高い程度の状態を維持し続けている。
 その答えは一人で自身の異常を考察していた時に、既にたどり着いていた。
 多分それは間違いない。

 そしてこの話はアリサにはしていない。できる訳がない。
 だからリーナには予め言っておく。

「この事、アリサには言うなよ」

「はい、分かってるっすよ」

 と、どこかそういう事を言われる事を読んでいた様にリーナはそう言う。
 ……まあとにかく、リーナがそう約束してくれたので、俺はその問いに答える事にする。

「……アリサと出会った日からだよ」

「……やっぱりそうっすか」

 そう言って……そしてリーナは神妙な面持ちで俺に言う。

「先輩。もしかしたら察してるかもしれないっすけど……多分それ、アリサちゃんの不運スキルの影響を受けてるっすよ」

 ……それは考えなかった訳ではない。
 だけど俺は否定する。

「……でも、アイツの不運スキルはアイツ本人とその周りの人間の運気を下げる力だ。今此処にアリサはいないだろ?」

「でも先輩の運気は間違いなく落ちてるっす。そして多分そういう要因がなければ先輩程の強力なスキルが効果を発しなくなるってことはないと思うっす。それに……アリサちゃん以外の要因で運気が落ちてるなら、多分二人で一緒に要るときも相殺出来ずに不運な目に遭う筈っすよ」

「……まあ確かにそうだけど」

「だとすれば一つ仮説を組めるっすよ。若干話逸れるかもしんないっすけどね」

「……仮説?」

 そしてリーナはとんでもない事を言い出す。

「そもそもアリサちゃんの不運スキルが、自分と周りの人間の運気を下げるって代物じゃないかもしれないっていう説っす」

 そんな全ての前提を覆す様な事を。

「……んなわけねえだろ」

 俺は否定する。

「アリサは14年間自分のスキルと付き合ってきたんだ。自分のスキルがそういうものだって認識を間違えるわけ――」

 言いながら、気付いた。
 俺自身がつい最近まで自分の幸運スキルの詳細を間違え続けていた事に。

「十分にあり得る事っすよ。知っての通りスキルの名称なんてのは、大まかなカテゴリーに過ぎないっす。そのスキルが具体的にどういうスキルなのかは向き合ってみないと分からないんすから」

「……そうだな」

 ……リーナの言うとおりである。
 例えば同じランクの探知スキルを持つ人間が居たとして、その効果、効力が同じであるかと言えば違う。
 人を探すことに長けている能力。物を探すことに長けている能力。そして……特定の何かを探すことにのみ長けた能力。
 同じ探知スキルでもそれだけ能力は多岐に分かれる。

 故に俺も村の人間も、アレックス達も。大きな勘違いをした。
 だから同じ間違いをアリサがしている可能性も十分にある。

 だけど……だとしたらなんだ。

「リーナ。じゃあお前的にアリサのスキルはどういう物だと思う。俺が影響を受け、そして周囲の人間の運気を落とすと誤認するようなスキルって一体なんだ?」

「……そうっすね。難しいっすよ」

 リーナもそこまでは答えを出せていなかったみたいで考え込む。そしてリーナと共に俺も思考の海へと落ちた。

 まず大前提として、アリサが不運な目に遭い続けている事は間違いがない。故にアリサのスキルが不運をもたらすスキルであることは間違いないだろう。
 それだけは間違いのない事実だ。

 そう考えた所でリーナは言う。

「……というかそもそもスキルのカテゴライズ自体が基本雑なんすよね。だから……そもそもアリサちゃんのスキルが本当に不運をもたらす様なスキルなのかも分かんないんすよね」

「というと?」

 俺が内心考えていた事を即座に否定したリーナにそう問うと、リーナはそうですね、と少し考えてから言う。

「たとえば私のスキルは逃避っす。逃避っすけど……なんかそれで逃げ足が早くなったりしてるのっておかしくないっすか?」

「……確かに」

 言われてみればそんな気もする。

「これが逃亡とか回避とか、そういう名称ならまだわかるっすよ。でも逃避って……なんとなく精神的な、そういう方向性な気がしないっすか? それこそ現実逃避とか、そういうのに使う言葉っす。まあヤバい状況から逃げたいって意味ではあってるのかもしんないっすけど」

 だから、とリーナは言う。

「アリサちゃんの不運スキルも確かに方向性はそうなのかもしれないっすけど、実際の所の実情は似た何かって可能性もありえるっすよ」

「似た何か……ね」

「例えば……不運な目に遭うじゃなく、不幸な目に遭うみたいな。実際似たようなもんっすけどね」

「……まあ」

 だったらだ。

「じゃあその違う何かの可能性も考慮した方がいいって事か」

「まあ今起きている疑問を紐解こうと思えばそうなるっすね……っと先輩、店員さん近くに来てますよ。注文決まってます?」

「あ、ああ」

「じゃあとりあえず注文しますか。すみませーん、注文いいっすか?」

 そうしてやってきた店員にリーナはハンバーグ定食を。俺はチキングリル定食を注文する。
 そして、再び思考の海に沈んだ。

 ……しかし、なんか凄い難しい話になってきたな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」 E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。 毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。 そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。 しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。 そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。 『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。 「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」 「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」 これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。 ※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...