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二章 ごく当たり前の日常を掴む為に

20 報われるべき感情

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「アリサと会ってくるってお前……」

「まあどこにいるかは全く分かんないっすけど、探せるだけ探してみるっすよ」

「いや、そういう事じゃなくて」

 俺は思わずリーナに問いかける。

「……いいのか、それで」

 一人でいるアリサに関わると言う事がどういうことかはリーナも理解している筈だ。
 それなのに……それでいいのかって。
 リーナのやろうとしているとても尊い行動に対し、思わずそう言ってしまった。
 だけどリーナは逆に問いかけてくる。

「じゃあ先輩から急に幸運スキルが無くなったら、アリサちゃんと関わるのをやめるっすか?」

「そ、そんな訳ねえだろ」

「じゃあそれが答えっす」

 思わず反射的に言った言葉に、リーナが笑みを浮かべてそう返す。
 そして一拍空けてから言う。

「大事なのは自分が仲良くなりたいかどうかっす。そして、仲良くなりたいなら、それは一緒に乗り越えるべきハードルっすよ」

「……」

 そんな事をきっと嘘偽りなく言っているリーナを見て思う。
 アリサは間違いなく運が悪い。悪いけど……それでも、人との巡り合わせという一点に限って言えば、決して悪く無かったんじゃないかと。

 例えばアリサの父親。

 その父親が一体今どこで何をしているのか。そもそもまだどこかに居てくれているのかも分からないけれど。それでも初めてアリサと出会ったあの日、父親によく連れてきてもらったと店を紹介していたアリサを見る限り、きっとアリサを相手に立派に父親をやれていた筈だ。
 ……それが。そんな当たり前の事がどれだけ険しいかは想像を絶するけれど、それでもきっとそういう人間だった筈だ。

 そして今のアリサにはリーナがいる。

 人生の中でそういう類いの人間は、そう出会えるもんじゃない。
 そんな相手に14年間で二人も出会えたのなら、それはきっととても幸運な事だ。

 俺だってまだ16年しか生きていないけど、それだけは確かに言える。

「そんな訳で行ってくるっす。それじゃあ!」

「待ってくれ、リーナ」

 俺はひとまずリーナを止めた。

「なんすか?」

「……お前がそれで良ければ、俺もついて行っていいか?」

 そして、目の前のリーナがそういう類いの人間なら、俺もまた動かなければならない。

 リーナに不運な出来事が降りかかるのをアリサに見せたくないという事もある。
 だけどそれとは別に、そういう事を誰かに言ってやれる様な奴に、手を貸してやりたかたった。
 俺が手を貸せる立場なら、貸すべきだと思った。

 だってそんなのは、より良い形で報われないといけないと思うから。
 報われてほしいと思ったから。

 そして、リーナが言う。

「良いっすよ。断る理由は無いですし、その方が円滑に話が進むかもしんないっすからね。じゃあ一緒にアリサちゃんを探しましょうか」

「ああ」

 そうと決まれば善は急げだ。
 多分此処でこうしてリーナが落ち込んでいたのと同じ様に、逃げたアリサの方も相当参ってると思うからな。
 早いところ二人を引き合わせなければいけない。

「ちなみに先輩、アリサちゃんがいそうな所って何処か心当たりとかあるっすか?」

「ない」

「えぇ……マジっすか?」

「でもアイツの家なら知ってる」

「ナイスっすよ先輩! じゃあとりあえずアリサちゃんちに行ってみるっすよ。案内よろしくっす」

「おう、任せとけ」

 そんなやり取りを交わして俺達はアリサの家へと足取りを向けた。
 向けながら、改めて考える。思い返す。

 俺の近くにも、こういう奴が居たなという事を。

 村の中で最後まで俺を擁護し続けた奴が居た。
 誰もまともに関わろうとしなくなった俺と最後までつるんでいた友人がいた。
 俺が村を出る時に、自身の宝物だと言っていた、東の国の武器らしい希少なカタナという剣を譲ってくれた親友がいた。

 今のアリサの為に動こうとするリーナは、あの時の親友を。
 グレンという名の親友が、重なって見える。

 もしかしたらリーナに手を貸してやりたいという感情は、そういう所からも来ているのかもしれない。

 だとしたら改めて強く思うよ。

 リーナ気持ちは報われるべきだと。
 報われてほしいと。
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