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二章 ごく当たり前の日常を掴む為に

15 退けない理由

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「二人とも、大丈夫ですか?」

 そう言いながらアリサがこちらに駆け寄ってくる。

「まあなんとかな。お前は……大丈夫そうだな」

「はい、とりあえずボクは大丈夫です」

 見たところアリサは無傷であの中を切り抜けたらしい。
 やはり強い……多分、ギルドに登録している冒険者の中で一番だと言っても過言ではない位には。
 一方俺は……まあ、完全に攻撃が決まらなかったのが痛い。まだまだ未熟だ。
 ……俺が一応使えるつもりでいる剣術と風の魔術も、まだまだ満足に使えていない訳だ。
 ……怪我も治って色々できるようになった。だとすれば今は新しい事を覚えるよりも、今出来る事をもっと伸ばしていく方がいいのかもしれない。

 ……しかし助かった。

「リーナさんも怪我は無いですか?」

「私は大丈夫っす。お二人に先輩とアリサちゃんに守ってもらったっすから」

 俺達の元に駆け寄ってきたリーナも、安心した様にそう言う。
 ……というか俺、リーナに助けて貰ったんだよな。
 あの時の魔術が無かったら、間違いなく防御が間に合わずに攻撃を食らっていた筈だ。
 だから、守って貰ったって一方的に言われる様な事じゃねえな。

「リーナにもナイスアシスト!」

 リーナにグーサインを作ってそう言うと、

「いや、それほどでもないっすよ」

 と、すげえドヤ顔で返してきた。
 うん、そんな顔するほどじゃない。

「しかしアリサちゃんマジパネエっすね! 凄いっすよ! マジリスぺクトっす!」

「あはは……ボクもそれほどじゃないですよ」

 うん、すげえ嬉しそう。嬉しそうだけど謙遜はしてる。お前はもうちょっとドヤってもいい。

「先輩も凄かったっすよ。まとめてスパスパーって。格好よかったっす」

「いやいや、俺もそれほどでもねえよ……」

 うん、実際大した事ない。一匹倒し損ねたしね。
 でも言われると普通に嬉しい。なんか凄いそんな気がしてくる。
 故に出てくる……ドヤ顔ッ!

「でも先輩。アリサちゃんの前でドヤれる程じゃないと思うっすよ」

「お前には言われたくねえ」

 というか何気に辛辣っすね。悪気は無さそうだし、実際事実だから何も言えないけど。
 ……まあドヤるドヤらないの話は一旦置いておいてだ。

「まあなんにせよ無事切り抜けた。だからこのままさっさとやる事終わらしちまおう」

「そうですね。いつ次が来てもおかしくないですし」

 ……あの森での戦いの際に二人相手に100匹以上集まっていた事を考えると、魔獣は明らかにオーバーキルを前提で頭数を集めるのかもしれない。
 つまりは総動員。
 あの時は二人に対して100匹以上集まっていた事を考えた上で、今回は3人に対し30匹。これはすなわちこの場所に存在する魔獣の総数がその30匹であったと考えられなくもない。
 だけど考えられたとしてもそれは推測の域を出ないわけで、俺たちはアリサの言う通り、次の魔獣が出て来る前に事を終わらせなければならない。

 そうだ、事はなす。
 薬草の採取を諦めたりはしない。

「こ、このまま薬草採取続けるんすね。私が言っちゃおしまいな気がするんすけど、ぶっちゃけ今回ばかりは引き返したほうがいいんじゃないっすかね?」

 リーナは突破したとはいえ、今のこの草原の状況に軽くビビってるみたいだけど、それじゃ駄目だ。

「よくない。お前の報酬が出ないだろ」

「晩ご飯抜くのは死ぬほど辛いですよ」

 最底辺の冒険者の貧困度を知っているから。
 一度の依頼のミスがどういう事を招くか知っているから。絶対に引く訳に行かない。

「大丈夫です。ボク達が付いてます」

「依頼こなして報酬貰って。そんで飯でも行こうぜ」

「アリサちゃん……先輩……」

 そう言ってリーナは少しの間だけ黙り込むが、それでもやがて覚悟を決めた様に強い視線を俺達に向ける。

「よし! 分かったっす! こうなったら私も気合い入れて薬草採取やるっす! そして無事終えてご飯いくっすよ!」

「よし! その意気だ!」

「頑張りましょう!」

 そして、おそらく冒険者史上最も熱い感情を乗せた、Eランク依頼『薬草採取』が本格的に始動した。


 そして……この後滅茶苦茶薬草採取した。
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