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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 怖い大人達、強襲

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 一発防げば勝利と口にしたハロルドには一切の虚勢を纏ってはいない。
 実際、これで全て軌道に乗った。

 手負いの男は冗談のように強かったが今はまともに戦えるような状態ではない。
 女の方も一般人と比べれば遥かに強いが、それでも常識の範囲内の戦力でしかない。
 唯一殴り付けてきた柄の悪い男だけは警戒すべきであろうが、それでもハロルドの持ち駒を全て蹂躙した女と比較するとまだ劣っているのは今殴られた衝撃で理解できた。

 今から相手にするのはこの程度の戦力だ。

 こちらにはハロルドの影の影響下にあった約半数近い特殊部隊の人員がいて、その中にはこの部隊を率いていた隊長のリックも含まれる。
 彼を強化する為の指輪持ちは部屋の向こう端にいて確保できなかったものの、リック単体でも十分に強い。
 そして戦闘の中で指輪持ちの連中のコントロールも確保できれば、自分達を蹂躙した化物にもある程度対応できるだけの超大型戦力と化す。

 ……とにかく、ひとまずこの三人を倒す事位は容易な筈だ。
 そしてそれさえできれば。

(……コイツらのコントロールさえ奪えば、分かりやすい人質作戦が実行できる)

 直接ぶつけても殺さないように倒されるだけだから、コイツらに自害させる事を匂わせれば現実的に形勢逆転も可能。

(……さぁ、始めっか逆転劇!)

 そう心中で叫んで、影響下にある連中に簡易的な指示を与えた……その瞬間だった。

 ……ハロルドの近くに居た兵隊が倒れたのは。

(……は?)

 何が起きたのか分からず、心中でそう呟いた。
 目の前の敵は何もしていない。
 では一体どこから何をされたのか。

 それを脳が理解する前に、背後から強い殺気を感じた。

「……ッ!」

 体を無理矢理動かし前方へ飛び、視線を出入口へと向け、その殺気の正体を視界に捉える。
 嫌でも捉えてしまう。
 
(おいおいマジかよぉ……ッ!?)

 部屋の中に大人数の、明らかに堅気ではない連中が飛び込んできた。
 今この場に居る最も強い化物五人とはベクトルの違うヤバさを纏っている連中がだ。

「……おいおいおいッ!」

 突如現れた連中へと一部戦力を回すように指示を出す。
 どう考えても放置できない。

「……来たな、早かったじゃねえか」

 ガラの悪い男が交戦しながらそう呟くのが聞こえた。
 そしてそれに返すように、ヤバい連中の中の一人が答えた。

「待たせたなまこっちゃん。もうちょっと踏ん張ってくれ」

 そしてそう男が口にした瞬間だった。

「うぉッ!?」

 現在進行形でヤバい雰囲気を纏っている男の隣に、突然シエルという名の女と虫の息の男が出現し、驚いたような声を上げる。

「……味方で良いんだよな?」

「く、空間転移か……ビビった」

(……しまった……ッ!?)

 三人の中で最も強い戦力である柄の悪い男を縛る役割にするつもりだった二人が、突然現れた比較的安全地帯に移動してしまった。

「大丈夫。この人達は味方」

 シエルという女がそう言った直後、集団の中でやや目立つニット帽の男が言う。

「約束通り援軍連れて来たぜ」

「お前はあの時の……そうか、此処で来たか」

 そんなやり取りが交わされる中で、同じくハロルドもそのニット帽の男に覚えがあった。

(そ、そういやあんな奴も支配下に置いたなぁ……って、上で操ってた奴も居るじゃねえか!)

 上で操り、三人の女に任された男もそこに居る。
 そして集団の中のリーダー格のような男は、シエルに問いかける。

「おいシエル。一緒に此処に突入したあと二人はどうした」

「今他の皆と合流して親玉叩いてる筈!」

「大丈夫なのか!?」

「多分大丈夫!」

「他の皆って事はつまりそういう事だよな……信じるしかないか」

 そう言ってリーダー格の男は言う。

「よし、D班の皆はこの二人を地上まで護衛しろ」

「了解」

「あ、おい! ちょっと待てや!」

 それはマズい。
 おそらく最終的に戦わなければならない連中への人質作戦において、最も有効に使える駒は、安全地帯へと移動された二人だ。
 今、リックやその部下たちの攻撃をなんとか捌いている柄の悪い男は、そこにあまり適さない。

 だがそれが分かっていても、D班と呼ばれた連中に護衛されて離れていく二人を止める術は無く。
 結果的にこの場にはヤバい連中だけが残った。
 そしてリーダー格の男は言う。

「B班はこのまま此処を突っ切ってこの先に居る聖女連中と合流。それが出来たら別ルートから脱出させろ。此処には近付けるな」

(……近付けるな?)

 寧ろ近付かれた方がハロルドにとっては都合が悪い訳だが、何故あえてそういう事をするのかは分からない。
 分からないが、エグい増援が来なくなるのは間違いなくこちらにとってプラスな筈だし、単純に敵の頭数が減るのも大きい。

(ならコイツらはひとまず良いか)

 だからニット帽の男や上で操っていた人間を含めたB班と呼ばれていた連中は、黙って通した。
 通して、柄の悪い男や残った連中への警戒を強める事にした。
 警戒して、そして蹴散らす為に思考を巡らせた。

(まあ良いとにかくゴリ押すか……ゴリ押して、あの二人に追いつくかぁ!)

 幸い、目の前の連中が持って居るのは下に居る連中とは別のベクトルのヤバさだ。
 通常、大体の相手との戦いならなんとでもなる。

 と、そこで気付いた。

(……なんだなんだ?)

 まるでタイミングを見計らったかのように。

「アイツが出て行ったならとりあえず良いよな」

 そう言う柄の悪い男が拳では無くドスを握っている事に。 
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