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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex マフィア達、凄いまとも

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 大事件。
 此処がその中心地。
 そんな事を考えビビりまくるシズクだが、思考の全てがそうした感情に埋め尽くされていた訳ではない。
 ちゃんとある程度冷静に考えるべき事を考えている。

(それでも……シエルさんがあそこまで軽口を叩けている時点で、これもしかしてボク達が過剰に怖がってるだけかもしれないっすね)

 中々脳がその考えを受け止めてはくれないが、そうでなければ此処までの流れも今の状況もできてはいないと思うし、そうであると願いたい。

 まずシエルはほぼ顔パス状態でこのアジトの中へと足を踏み入れ、そして世界が滅ぶかもしれないという雑にも程がある説明で門前払いもされずに今に至っている。

 あまりにも甘く手厚い。
 これは全部、シエルが此処の組織と友好関係を築いていなければ起こり得ない事だろう。

 一体どんな生活を送っていればこんな事ができるようになるかは分からないが……とにかく、だとすれば怖がる必要のない相手なのかもしれない。
 ……もっとも、そんな事を理屈で分かっていても怖い物は当然のように怖いのだが。

(せ、せめて心の準備をする為にも、一言説明しといて欲しかったっすよ……ッ!)

 ここに来るまでシエルは、『この国で一番敵に回しちゃいけない人達』という情報しか出してくれなかった訳で。
 まあ結果その言葉をそのまま形にしたみたいな場所に連れてこられている訳だから、ある意味真っ当な説明をしていたのかもしれないけれど……もう少し何か欲しかった。

「つーかお前! 絶対そこの三人にしとかねえといけねえ説明してねえだろ! 完全にビビリ散らしてんじゃねえか!」

「誰もがお前みたいな危機管理能力ぶっ壊れた無神経馬鹿じゃねえんだぞ!?」

「どういう関係なのかは知らねえがもっとこう……配慮の気持ちとかはねえのか!」

(そうだもっと言ってやれっす!)

 これに関してはごもっともだと思うので、マフィアさん方を応援。
 ……別に怒ってはいないけど説明は欲しかった。

 そしてシエルは言う。

「いやまあそうなんだけどさ……でもこれからマフィアの事務所に行きますってて言ったら、それはそれで一悶着ありそうじゃない? 正直モメてる時間とかはあんまりない訳で……」

(確かに普通にモメる気がするっすね……素直にハイとは頷きにくいっすよ。そう考えると曖昧な事しか言わないのは正解……なんすかね?)

 そう考えるシズクをよそに、シエルはそれに、と続ける。

「初対面はどうであれすぐに馴染むと思うし。でしょ? 三人共」

「「「……」」」

「あれぇ!?」

(いや結構真っ当な反応してると思うっすよボクら……)

 ……とはいえ、実際この短期間で急速に落ち着き始めている自分が居るのも確かだ。

「全然じゃねえかよ!」

「ったく……えーっと、何も信用できねえかもしれねけど、俺らはカタギに危害加えるつもりはねえから。まあ……無理言ってるのは分かるけど、少し肩の力抜いてくれると助かる。ああ、ていうかちょっと待っててくれ。今何か飲み物持ってくる!」

「あ、ウチはコーヒーとかより炭酸系の何かが良い!」

「てめえは肩の力抜き過ぎなんだよ! 此処はてめえの実家か! ……おい! さっきコンビニで買ってきたコーラまだ空けてねえから注いで持ってこい! 共用の冷蔵庫の中段手前の方に油性ペンでマルコって書いて置いてある! ああ、後お前も一緒に行って人数分茶菓子用意しきてくれ。戸棚にいいとこのお菓子入ってる」

「「了解です兄貴!」」

 ……今こうしてこの応接間らしき部屋にまで案内して、シエルと盛り上がっている三人組も。今になって振り返ればすれ違った人達も。
 シエルの紹介というフィルターを度外視しても、なんだかとてもまともなのだ。
 あとは妙に馴染みやすそうな雰囲気。

 厳密には違うのだけれど、それでも感じる感覚としては職場……冒険者ギルドに近い物がある。

「……ったく、後で飲もうと思ってたのに……まあいい」

 そしてこの場に一人残った恐らくマルコという名前の、三人の中で比較的立場が上のような二十代前半程のマフィアの男はため息を吐いてから対面のソファーに腰掛ける。

(なんでこの人今まで座ってなかったんすかね? ……いやまあ普通に座られてキレられると真正面がボクだから、ボクがキレられてるみたいなんで勘弁してほしいから助かったっすけど)

 そんな事を考えるシズクを含めた四人にマルコは問いかけてくる。

「で、結局何があった。世界が滅ぶかもしれねえってのは一体どういう事だ。一体何が起きてる」

 これまでに話した雑な話の向こう側。
 今回具体的に何が起きているのかという話。

「……じゃあ説明は俺がする」

 そう言ってこの中で最も状況を把握している、操られていた男が簡潔に説明をする。
 そしてそれを一通り聞いた後、マルコは言う。

「んだよそれ。大袈裟でもなんでもなく本当にエラい事になってんじゃねえか」

「真面目な話、本当にヤバい事じゃないと此処に話を持ってきたりなんてしないって。少しヤバい位だったら自分で解決する」

「馬鹿か! お悩み相談所扱いまで行くとキレるが少しでもヤバいと思ったら話持ってこい! お前みたいな奴でも何かあったら悲しむ奴はいるだろ! 俺は心底どうでもいいけどな!」

(……これもしかして俗にいうツンデレって奴じゃないっすか?)

 と、どうでも良い事を考え少しづつ緊張感が解れていく中でマルコが言う。

「しかし操られて何かをやっている奴が大勢いるとなると……繋がったな」

「……繋がった?」

 男が聞き返すとマルコが言う。

「ここ数日で俺らの組の人間も何人か行方不明者が出ている。もしかしたらその一件に巻き込まれているのかもしれねえ」
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