141 / 280
二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。
ex 誘拐犯達、追い詰められる
しおりを挟む
「……やっべぇ。やべえやべえ! あの二人はやべえって!」
王都地下に魔術によって作成された異空間。
その最深部の一室にて、影を操る魔術を得意とする男、ハロルドは慌てふためいていた。
突如自分の担当ブロックに現れた二人の侵入者。
その二人の迎撃に当たる際に使用した六人は、彼の動かせる中で最も強いとされる駒を集めた精鋭だった。
ハロルドの扱う影魔術は、意識を奪った相手の影を踏む事でその人間の支配権を得るという物。
そして駒の基本出力は、駒の力に依存する。
あの六人。そしてその少し前に地上で倒された一体は、彼が保有している駒の中のトップ7だった。
その駒をぶつけて敗北した。
……それだけならまだいい。
(奥の手をあそこまであっさり潰されたんじゃ、いくら俺でもどうにもできねえぞ!)
問題は負け方だ。
ハロルドは今外部からの力の供給……右手に付けた、予め設定された魔術を発動できる謎技術が詰まった指輪の効力で、強化魔術……脳の演算力を引き上げる効力の術式を発動させ、従来であれば一体までの遠隔操作を同時に七体まで増やすに至っている。
そしてこの空間全域に張り巡らされた魔術の効力により、出力の増強……術式の効果範囲の拡張もされている。
そんなとある天才研究者の後方支援で得た力と設備を駆使して、あの場で動かした戦力というのはかなりの物だった訳だが、本来彼の真骨頂はそこにない。
ハロルドは本来、自分自身で前に出て戦うタイプの人間だった。
つまりあの場の自分が操作する6人+行動の指示だけをしているだけの大勢の雑魚と比較しても、彼単体の方が強い。
現在付けている、脳の演算能力を上げる指輪から、駒に持たせていた広範囲に自分の影を張り巡らせる術の入った指輪に付け替えた先に、彼の戦士としての真骨頂がある。
故に組織の幹部にまで成り上がった。
……だが、それでもあの奥の手をあそこまであっさり潰された時点で、向こうの戦力は自身の真骨頂を大きく上回っている事は理解できて。
『ぐちゃぐちゃにしてやる』
ぐちゃぐちゃにされる。
その光景が明確に脳内で再生される。
「……ッ」
こうしちゃいられなかった。
何もしなければ、脳内で再生したような光景が起きる。
そして彼は彼で一応、組織的な目的があって此処に立っている。
まだ引けない。
逃げられない。
そしてぐちゃぐちゃにもなりたくない。
だとすれば、迎撃の手段を構築しなければならない。
「くそ、しゃーねえ! 恥を忍んでくかぁ!」
そう言ってハロルドは目をつむり、神経を集中させる。
この空間に張り巡らされた魔術は、こちら側の人間の魔術出力を増強させる効力があるだけじゃない。
その恩恵を得られる者と、テレパシーによる通信を行う事も可能。
それだけ無茶苦茶な魔術が張り巡らされている。
そして通信先は……今回の作戦を担当しているもう一人の幹部。
……繋がった。
「おいリック! 聞こえてっか!?」
「聞こえてる! それでなんだ手短に話せ! こっちは今死ぬ程忙しいんだ!」
なんだか慌てた様子のリックという名の幹部の男に手短に用件を言う。
「こっちのまともに使える駒が全滅しちまった! そっちから兵隊回せ!」
この空間は現在、ハロルドとリック。二人の幹部が警備に当たっている。
内、ハロルド側は彼の魔術で使役する操り人形が。
リック側は組織の抱える特殊部隊が警備に当たっている訳だ。
その特殊部隊とリックに、僅かに残った雑魚の駒……そして自分自身。
此処に残った全戦力を、化物染みた強さの侵入者二人にぶつける。
もうそれしかない。
だが、リックは言う。
「はぁ!? 嘘だろ。こっちもお前に援軍頼もうとしてたってのに!」
「はぁ!? ちょっと待てそっち今どうなってんだ!?」
そしてリックは答える。
「化物染みた女二人がカチコミに来てんだよ! くそ! こんなのあの人の予知に無かっただろうが!」
「……ッ!」
化物染みた女二人に特殊部隊が追い詰められている。
普段ならそんな事は質の悪い冗談にしか聞こえないのだが……今は自身も化物染みた二人組に手駒を壊滅させられている。
故にその言葉は現実的な物としてハロルドにのし掛かってくる。
そして脳裏を再び過る、ぐちゃぐちゃにされるビジョン。
「……ははは、まーじか」
なんかもう、乾いた笑いしか出てこなかった。
◇
一方、その頃。
「これで八割方片付いたって感じか。怪我ねえかシルヴィ?」
「わ、私の方は大丈夫です。ステラさんは……大丈夫そうですね」
「おう。流石にこんな雑魚相手に怪我なんかしてられねえよ」
二人の化物染みた強さの少女が、特殊部隊を蹂躙していた。
王都地下に魔術によって作成された異空間。
その最深部の一室にて、影を操る魔術を得意とする男、ハロルドは慌てふためいていた。
突如自分の担当ブロックに現れた二人の侵入者。
その二人の迎撃に当たる際に使用した六人は、彼の動かせる中で最も強いとされる駒を集めた精鋭だった。
ハロルドの扱う影魔術は、意識を奪った相手の影を踏む事でその人間の支配権を得るという物。
そして駒の基本出力は、駒の力に依存する。
あの六人。そしてその少し前に地上で倒された一体は、彼が保有している駒の中のトップ7だった。
その駒をぶつけて敗北した。
……それだけならまだいい。
(奥の手をあそこまであっさり潰されたんじゃ、いくら俺でもどうにもできねえぞ!)
問題は負け方だ。
ハロルドは今外部からの力の供給……右手に付けた、予め設定された魔術を発動できる謎技術が詰まった指輪の効力で、強化魔術……脳の演算力を引き上げる効力の術式を発動させ、従来であれば一体までの遠隔操作を同時に七体まで増やすに至っている。
そしてこの空間全域に張り巡らされた魔術の効力により、出力の増強……術式の効果範囲の拡張もされている。
そんなとある天才研究者の後方支援で得た力と設備を駆使して、あの場で動かした戦力というのはかなりの物だった訳だが、本来彼の真骨頂はそこにない。
ハロルドは本来、自分自身で前に出て戦うタイプの人間だった。
つまりあの場の自分が操作する6人+行動の指示だけをしているだけの大勢の雑魚と比較しても、彼単体の方が強い。
現在付けている、脳の演算能力を上げる指輪から、駒に持たせていた広範囲に自分の影を張り巡らせる術の入った指輪に付け替えた先に、彼の戦士としての真骨頂がある。
故に組織の幹部にまで成り上がった。
……だが、それでもあの奥の手をあそこまであっさり潰された時点で、向こうの戦力は自身の真骨頂を大きく上回っている事は理解できて。
『ぐちゃぐちゃにしてやる』
ぐちゃぐちゃにされる。
その光景が明確に脳内で再生される。
「……ッ」
こうしちゃいられなかった。
何もしなければ、脳内で再生したような光景が起きる。
そして彼は彼で一応、組織的な目的があって此処に立っている。
まだ引けない。
逃げられない。
そしてぐちゃぐちゃにもなりたくない。
だとすれば、迎撃の手段を構築しなければならない。
「くそ、しゃーねえ! 恥を忍んでくかぁ!」
そう言ってハロルドは目をつむり、神経を集中させる。
この空間に張り巡らされた魔術は、こちら側の人間の魔術出力を増強させる効力があるだけじゃない。
その恩恵を得られる者と、テレパシーによる通信を行う事も可能。
それだけ無茶苦茶な魔術が張り巡らされている。
そして通信先は……今回の作戦を担当しているもう一人の幹部。
……繋がった。
「おいリック! 聞こえてっか!?」
「聞こえてる! それでなんだ手短に話せ! こっちは今死ぬ程忙しいんだ!」
なんだか慌てた様子のリックという名の幹部の男に手短に用件を言う。
「こっちのまともに使える駒が全滅しちまった! そっちから兵隊回せ!」
この空間は現在、ハロルドとリック。二人の幹部が警備に当たっている。
内、ハロルド側は彼の魔術で使役する操り人形が。
リック側は組織の抱える特殊部隊が警備に当たっている訳だ。
その特殊部隊とリックに、僅かに残った雑魚の駒……そして自分自身。
此処に残った全戦力を、化物染みた強さの侵入者二人にぶつける。
もうそれしかない。
だが、リックは言う。
「はぁ!? 嘘だろ。こっちもお前に援軍頼もうとしてたってのに!」
「はぁ!? ちょっと待てそっち今どうなってんだ!?」
そしてリックは答える。
「化物染みた女二人がカチコミに来てんだよ! くそ! こんなのあの人の予知に無かっただろうが!」
「……ッ!」
化物染みた女二人に特殊部隊が追い詰められている。
普段ならそんな事は質の悪い冗談にしか聞こえないのだが……今は自身も化物染みた二人組に手駒を壊滅させられている。
故にその言葉は現実的な物としてハロルドにのし掛かってくる。
そして脳裏を再び過る、ぐちゃぐちゃにされるビジョン。
「……ははは、まーじか」
なんかもう、乾いた笑いしか出てこなかった。
◇
一方、その頃。
「これで八割方片付いたって感じか。怪我ねえかシルヴィ?」
「わ、私の方は大丈夫です。ステラさんは……大丈夫そうですね」
「おう。流石にこんな雑魚相手に怪我なんかしてられねえよ」
二人の化物染みた強さの少女が、特殊部隊を蹂躙していた。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる