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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

7 聖女さん、突然の会敵

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「さて、しーちゃん居るかな」

 皆で遊んだ日から3日経ったこの日、私はしーちゃんのお店へと足取りを向けていた。
 昨日の夕方から今日の昼過ぎにかけて、睡眠とか食事とかを除けばひたすら魔術の研究に没頭していたという、とにかく脳を酷使するような時間の過ごし方をしていたわけで、率直に甘いものが食べたくなった。

 そんな訳でどこかで甘いものを食べようと思ったら、とりあえずしーちゃんの所に行くかって感じになったわけだ。

 しーちゃんが休憩とかに入ってるなら、少し話せるだろうからそれでよし。そうじゃなくても美味しい物を食べられて親友の家の家業に売上落とせたら最高な訳で。
 今の私のお店選びはあの店一択だ。

 と、しーちゃんのお店に向かって歩いていた時だった。

「ちょ、ひったくり! 誰かその男捕まえて!」

 突然街中で女性が声を上げた。

 歩いていた通りで白昼堂々ひったくり事件が発生していた。
 それも、鞄を手にした男は……私の方に向かってきている。
 その手にナイフを手にして……かなり高い出力の強化魔術を使って。

 そしてそんな危険の塊でしかないひったくり犯相手に突っ込める人なんてそう簡単に居る訳が無くて、私以外の進行方向にいた人達は皆道を譲るように脇へと逸れてしまう。

 ……仕方ない、いっちょ食前の運動と行こうかな。
 これから甘い物を食べてカロリーを摂取するから、此処で少しでも動いておかないと。

 そう考えながら魔術を発動させる。
 遠距離から風で攻撃するのは周囲の人達に被害が出るから、やるのはシンプルな強化魔術な強化魔術で。
 接近戦で軽く沈めてやろう。
 大丈夫。私からすれば遅い。楽勝。
 それこそあの黒装束の男と戦った後なら尚更――。
 
 と、そう考えていた時だった。

「危ない下がってろ!」

 突然私の後から同年代か、少し年上位の男が飛び出してきたのは。
 なんか少し聞き覚えのある声を発して……そして私達と同じようなスピードで。

 そして次の瞬間、私の前に躍り出た男はひったくり犯のナイフを鋭い脚捌きで上空に向けて蹴り飛ばし、突然の強者の登場に動揺するひったくり犯の鳩尾に拳を叩き込む。
 ……おそらく、相当手加減して。

「が……ッ!?」

 何が起きたか分からないといった様子で、そんな声を上げた男はその場に崩れるように倒れ伏せた。
 そして先程上空に蹴り上げたナイフをキャッチしてその場に置き、何かしらの魔術で糸のような物を作り出しひったくり犯の腕を拘束。そして置いたナイフの代わりに引っ手繰られた鞄を手にする。

「災難でしたね。怪我はありませんか?」

 そして優し気な口調でひったくりの被害にあった女性に鞄を手渡しに行く男。
 そんなヒーローの様な男を賞賛するように、周りにいた人達が歓声を上げた。

「……」

 うん、私が戦ったあの男とは喋り方も雰囲気も違う。
 だけど今の動きと声……まさかとは思うけど……一応確認してみるか。

 そう結論を出して、私は目の前の男と接触する事にした。
 この前皆と別れた時、また何かに巻き込まれれば色々と情報が聞き出せるかもといった話をしていたけど……まさかこんな形で遭遇するとはね。
 まあ、確定はしていないんだけど……確認してみる価値はある筈。

「そうですか。怪我が無いなら何よりです。え、お礼? すみません、ちょっと俺急いでるんで。お気持ちだけで結構ですよ。ああ、誰でも良いんで憲兵に通報して貰えると助かります。俺はちょっと事情聴取とか付き合ってる時間が無いんで。すみませんがよろしくお願いします」

 そんな事を言った男は踵を返す。
 返した結果、私と目が合い……。

「……ッ!?」

 整った顔に無茶苦茶露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
 ……もうこれ確定でしょ。

「……さあ急がないと」

 そう言って私の隣を横切ろうとする男の腕を掴む。

「ごめーん、あんまり遅いから探しに来ちゃった」

「……ッ!?!?!?」

 そして無茶苦茶困惑するように、声にならない声を上げる黒装束の男。
 いや、今普通に御洒落な私服来てる感じだし、元黒装束の男か。
 まあどっちでも良いけど……逃がすかぁッ!
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