上 下
51 / 274
一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。

43 聖女さん、邂逅

しおりを挟む
 断絶した空間の外に突然魔法陣が展開される。
 地面より少し上の位置に展開されたそれから現れたのは、男と同じく黒装束で仮面を付けた人間。
 体格からして多分女……というより女の子と言った方が受ける印象は近いのかもしれない。

 ……この男の仲間?

 私がそう認識した次の瞬間、その少女の手の平が黒く光ったのが見え……こちらに向けて黒い弾丸が射出される。
 だけど標準は大きく外れているように思えて。
 そして多分私を狙う必要なんてなくて。

「しまった……ッ!?」

 次の瞬間、黒装束の男を聖女の加護とやらから引き離す為に張った、空間を遮断する結界を破壊される。

「……え?」

 そして遮断していた結界が無くなったからこそ、感じられる。

 視界の先にいる誰かは、シルヴィやステラから感じたようなものと同じ様な感覚がする。
 元聖女の二人と同等の……そんな力の感覚が。

「……ッ」

 そして結界を破壊した黒い装束の少女は、その場に受け身も取らずに倒れ伏せる。
 その力すらも残っていないという風に、ぐったりした様子で。

 と、ある程度の注意力が新たに現れた、何がなんだか分からない謎の黒装束の少女に向いてしまった、その時だった。

 ……黒装束の男が動いたのは。

 ……反応が遅れた。
 その間に男は僅かに体を起こし、黒装束の少女の方へ向けて横に跳ぶ。
 ダメージを負った体でも動ける出力。
 完全に元に戻った強化魔術の出力で。
 当然だ。遮断していた結界はもう無いんだから。

 そしてその手には再び、結界が刻まれたスティック状の結界が八本あり、それを再びこちらに向けて投げつけてくる。

 そこに付与されている術式がさっきの光の爆弾と同じ物かは分からないけど、とにかくそんな事を判別している時間は無くて。
 とにかくそれが何であってもある程度防ぐ事ができるように、正面に身を隠すように結界を展開。
 その瞬間、投げられた結界からは発煙筒のように激しい煙が湧き出てきた。

 ……視界の奪い方を変えてきた。
 でもこれならすぐに消せる!

 周囲に魔術で突風を巻き起こし、張られた煙幕を全て掻き消す。
 ……だけど掻き消した先には、もう誰もいない。
 黒装束の男も少女も、跡形も無く消え去っている。

「いない……逃げられた?」

 煙幕を張って攻撃を仕掛けてくるのではなく、この場からの逃亡を選んだ。
 ……あの男には明確に私を消す意思があって。戦闘の続行も可能で。
 そんな中で一瞬でも視界を奪えたというチャンスな状況で、逃げるという選択肢が選ばれた。
 そしてその選択を取られた理由は簡単に推測できる。

「……あの子か」

 あの男はやってる事とちぐはぐな妙にまともな倫理観を持っていたから……口封じの為に私との戦いを続行するんじゃなくて、明らかに意識を失っているように見えた仲間の救護に向かったって考えても違和感が無い。

 そしてその結果がこれ。

「け、結局何も話聞けてないじゃん」

 ……まああのまま続いていたとして、確実に勝てた保証は無いから、ある意味命拾いと言ってもいいのかもしれないけれど……それでも。

「結局何だったんだろこの人達……全く分からず終いじゃん!」

 何も分からず終いは辛いよ!
 ほぼ勝ってたのに!

「……でも、本当に……何だったんだろ」

 目的も何も分からない状況で、どうしても今の女の子の存在が引っ掛かる。
 あの男が言っていた聖女の加護という、外部から力を供給されていると思われる発言と、私達聖女と同じ位の力を感じる女の子。

 ……まさか。


「……まさかあの子も追放された聖女だったりする?」

 私達と同じような理由……かどうかは知らないけど。

「……いやいやいやいや、流石にそれは無いって」

 シルヴィやステラの事はまあ良いよ。
 二度ある事は三度あるって事で、まあ……全然良くないんだけど、とりあえず良いよ。なんとか受け入れた。なんとか受け止められた。

 でも二度ある事は三度あって、そこから先に四度五度ってのはもう流石に滅茶苦茶が過ぎるでしょ。
 ほら、ギルドの受付嬢やってたシズクって子も、追放された聖女疑惑出てたし……もし二人共そうなら私を含めて五人だよ五人!

 無いでしょ。あるわけ無い。
 でも今、空前の聖女追放ブームが到来してるみたいだし……。

「いやいや無い無い……無いって言って欲しいよ」

 いくらなんでも無茶苦茶すぎるしね。

「……まあ考えても仕方ないか」

 そこを含めて聞きたい事は山のようにあるけども、あの二人は姿を消した。
 話を聞くには探して取っ捕まえないといけない訳だけど……ちょっと状況が変わった。

「……今は追わない方が良さそうかな」

 女の子の方は、なんでか良く分からないけど戦闘不能って感じだった。
 だけどそれでも、回復魔術で応急処置をすれば戦える状態にまで持って行けるかも知れないわけで。

 そうなったら手負いとはいえ私達と同等の力を持つ女の子と、力は一段落ちるけど技量で同等クラスにまで登って来ているあの男を、私一人で相手にしなくちゃいけなくなる。

 あのクラス相手に二対一。
 そんなの殺す気でやったって勝てるかどうかはは分からない。
 とにかく今はシルヴィとステラと合流する事を考えるのが適切な判断な気がする。
 と、そう考えながら、一戦終わった疲れを飛ばすように体を伸ばした時だった。

「……あ」

 なんか視界の端っこに、金色に輝く草が見えたのは。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

処理中です...