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一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。

ex 聖女ちゃん、種明かし

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 そしてシルヴィはステラに歩み寄ってくる。

「……た、立てますか?」

「……現在進行形で体が痺れてて動けねえ。とりあえずこれ解いてくれね?」

「あ、えーっと……すみません。それ時間立たないと元には戻らない奴です」

「……マジかぁ」

(まあ俺ごとやっても良いって言ったから文句言えねえ)

 自分で言った通りになっただけで、文句など言える筈がない。

「と、とりあえず怪我の治療、簡単にやっちゃいますか」

「いや、俺の怪我の治療よりもアイツを拘束するのが先……いや、もうやったのか」

 最後に追撃で放った電撃。
 それを喰らって黒装束の少女は完全に動かなくなったのだから、あの魔術にそういう効力があると考えて良いだろう。
 ……そもそもそうでなければ、悠長に自分に話しかけている場合じゃないとステラは思う。
 そしてシルヴィはそうやって優先順位が無茶苦茶になる馬鹿じゃない。
 ステラの言葉に頷いてから言う。

「はい。とりあえず半日はまともに動けないと思います。最後に撃った魔術は電流で相手を拘束できる魔術でして……動こうとすればする程強い電流が流れて動きを止められます」

 そして釘を刺すように、シルヴィは黒装束の少女に視線を向けて言う。

「特に魔術の使用に強く反応するよう構築されてます。だから……どうせ動けませんし、強化魔術の類いは解除した方が良いですよ。出ないと意識が消し飛ぶまで永遠と痛いのが続きます」

 シルヴィがそう言うと、やがて倒れながら痙攣し続けていた黒装束の少女が大人しくなる。
 シルヴィの言う通り、強化魔術に反応して電流が流れ続けていたのだろう。
 逃亡を諦めて魔術を解かざるを得ない程の強力な電流が。

「一応聞くけど、俺のも強化魔術解いたら楽になったりしない?」

「あ、最初に使ったのは全然関係ない魔術なんで……すみません」

「そ、そっか……ちなみにだけど、あの時シルヴィは何やったんだ?」

「えーっと詳しく話すと長くなるんで手短に言うと、結界に付与した魔術を中にいる人間に無差別に放ち続けるような、そういう術を使いました」

「えぇ……なにそれ。簡単に無茶苦茶な事言ってくれてる気がするのは俺だけか?」

「あ、いや、そんなに無茶苦茶な事じゃないですよ。範囲も狭いし結界は脆いし、あまり強力な術は付与できないし時間もかかるし……」

「いや、だとしてもすげえだろ……多分アンナもそう言うと思う」

「そ、そうですか……えーっと、ありがとうございます」

 そう照れるように言う。
 で、そんな凄い技術によって放たれた魔術と、それに加えて強力な拘束用の魔術を喰らわせる事ができたという事は。

(……確かにこの様子だと逃げられる事もなさそうだな)

 そう考えて一安心する。
 ……だけどそれでもだからと言って、優先順位は自分からではない。

「じゃあ、じゃあ一旦治癒を始めますね」

「ああ、頼めるか? ……って、いや、ちょっと待て。ある程度時間掛かるんだろ? だったら俺は後で良い」

 ステラは一拍空けてから言う。

「少なくともこの場にはコイツとアンナを狙撃した奴の二人敵が居た。そしたら三人目が出てくるかもしれねえだろ。だったら調べられる事は今の内に調べておいた方が良い。俺はほら、どうせ怪我治って体力も回復しても、この痺れ取れねえと結構足手纏いなんだからさ」

「……確かにそうかもしれませんね」

 シルヴィは納得するようにそう言った後に、何かに気付いたように言う。

「あ、いや、別にステラさんを足手纏いだとか思ってないですからね! 言葉のあやです。先に調べられる事を調べた方が良いって事への同意です!」

「いや、分かってるって慌てなくても」

 言いながら思う。

(……やっぱさっきとのギャップがすげえ……)

 と、そのギャップに驚いていると、ステラの足元の地面に魔法陣が展開される。

「じゃあ一旦片手間で治療って事で。その間に色々お話聞いちゃいましょう」

「片手間で回復魔術ねえ。お前やっぱすげえわ」

「そ、そんな事……」

「いやすげえすげえ」

「あ、ありがとうございます……」

 シルヴィは照れるようにそう言う。

 ……実際本当に凄い。
 魔術の中でも回復魔術はとても高難易度の術式となっている。
 少なくとも片手間でできるような物じゃない。

(私はできると思ったけど微妙にうまく行かなかったし、こんなのまともにできるのシルヴィ位だろ。いや、アンナもできそうだ。なんか何でもできそうだからなアンナは)

 と、そんな事を考えた時。
 シルヴィが踵を返して再び黒装束の少女の元へと戻ろうとした瞬間だった。

「……ルカ君!」

 突然、これまで一切言葉を発さなかった黒装束の少女が、誰かの名前を呼んだのは。
 こちらでは無く、何処か遠い方向。
 ……アンナが狙撃手を追って飛んで行った方角に視線を向けて、そんな言葉を叫んだのは。

「が……グ……ぁあッ!」

 そして掻き消えそうな苦悶の叫びを上げながら、黒装束の少女を中心に大きな魔法陣が展開される。

(……もうまともに戦えない状況。向いてる方向。誰かの名前)

 具体的に100%黒装束の少女の考えが分かる訳ではない。
 だけどそれでも、一つだけ確信を持って言える。

「シルヴィ! そいつ逃げるぞ!」

「……ッ!」

 ステラが叫んでから、一歩反応が遅れてシルヴィが飛び掛かった。
 当然、反応は遅れる。遅れて当然。
 何しろ動けないという認識を覆して行動されているのだから。

 そして次の瞬間、振り下ろされた結界で作られた鈍器は何もない空間を切り、地面に叩きつけられる。


 もうそこに黒装束の少女の姿は無い。


「嘘……あの状態で魔術を使うんですか? しかも多分きっと大掛かりな……ッ!」

「……まあ戦闘続行が難しいって考えると、どこか遠くにテレポートした感じだろうな」

「そんなの自殺行為……いや、多分死ぬことは無いですけど、そ、そういう行動ですよ? ……それは強化魔術を使っていた段階で理解できてると思うんですけど……」

「それでも死ぬ気で逃げる事を優先した」

 と、そこまで言って引っ掛かりを覚える。

「……本当に逃げたのか?」

「……というと?」

「もう向うは完全に諦め強化魔術を解除してるような状態で……抵抗を止めてる状態で突然何処かに飛ばれた訳だろ? そんで直前に読んでいたルカ君っていう明らかに人の名前。だからなんというか……そのルカ君に何かがあってその場に急行したとか」

「その場に急行……確か向うの方向いてましたよね」

 そう言ってシルヴィはその方角を見て、それから言う。

「アンナさんが向かった方角だ」

「これはアレじゃねえの? アンナを狙撃したのがルカ君って奴で、そのルカ君に何かがあったからイチかバチか飛んだ。まあ何かってのは多分アンナが狙撃手ぶっ飛ばしたって事なんだろうけど」

 ……ここまで、ただの推測。
 だけど二人共その可能性がある事と認識できるような物で。
 そしてそれが正解だったとすれば。

 今更何かをできるとは思えないが、今の強敵がアンナの方に向かったという事になる。

「シルヴィ。俺の事は良いからアンナの所に行ってくれ」

「いやいやステラさんの事も良くないですよ。こんな状態で一人で置いておけません。といってもまあ、行かない訳にもいかないんで……やるならこういう感じでどうですか?」

 そう言ってシルヴィはステラを背負う。

「……悪いな」

「そもそも半分私の魔術のせいですし、そもそも今回の役割分担って多分こういう感じですし。まあそうでなくても持ちつ持たれつって事で」

「……ほんと、お前らには助けられてばっかりだな。この依頼受けられてるのもお前らのおかげだし」

「じゃあ今度私やアンナさんに何かあったら助けてください」

 シルヴィは冗談半分といった風にそう言う。

(……まあ言われなくてもそのつもりだよ)

 と、そんな事を考えているとシルヴィは言う。

「じゃあ行きますね」

 そう言ってシルヴィはアンナが向かった方角へ走り出す。

「……ところで飛んでいった方角しか分からないんですけど、こっちに向かって走っていれば辿り着けるんですかね?」

「た、確かに……」

 冷静に考えれば、現在地が全くもって不明だ。
 ……それでも。

「まあでも、今回ばかりは闇雲でも行くだけ行ってみないとって感じですかね」

「だな」

 分からないからといって、何もしない訳にはいかない。
 そうしてステラとシルヴィは、アンナの飛び立った方角を一応の目的地に定めて走り出した。
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