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二章 誇れる自分である為に

ex 彼の為にできる事について

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 好きな男の子の事だから、深く意識しなくても些細な変化や違和感は感じられる。

 だからアイリス・エルマータは気付いていた。

『俺はすげえって事で。堂々とドヤっていくよ』

 そう言っていたユーリ・レイザークが完全には吹っ切れてくれていない事には。
 ずっと心に靄のような物が掛かり続けているという事は。

 実際アイリスはユーリの事を凄いと思っているけれど、それでもユーリ自身はまだ自分の固有魔術の事を……というよりは自分の事そのものを受け入れていないようで。

 そんな感情が伝わってくるような言動が、本人が自覚しているのかは分からないけれど、結構頻繁に見受けられた。

 あんまりそれを指摘すると本人が余計に思いつめそうだから、まだ触れずにはいたけれど……どこかで爆発してしまいそうな、そういう危うさがユーリからは伝わってくる。

 だから……出来ることならなんとかしてあげたい。

 そう考えていたアイリスにとって、今日の事は絶好の機会となる筈だった。

 大勢の教師が見に来る中で、ユーリの事を凄いと思ってくれる人がいると。
 魔術師、ユーリ・レイザークの事を多少なりとも評価してくれる人がいると。

 そう考えていた。そんな楽観的な事を。

 だけど現実はそううまくはいかなくて。
 寧ろ自分が抱いて欲しかったものとは真逆の感情を多くの人が抱いてしまったように思えて。

 だとすれば……だとすれば。
 あまりに酷な場所にユーリを連れてきてしまった事になる。

「なんかごめん……ボクが思ってたのと、ちょっと違った」

 思わずそんな言葉が出てくる。
 今すぐにでも中止して貰った方が良いんじゃないかと、そんな気持ちが言葉に乗る。

 それに対しユーリは言う。

「いいよ気にすんな。今日はお前が主役だ」

 そう答えるユーリは思ったよりも大丈夫そうだ。

 多分自分が席を外していた時に、ブルーノ先生に何か前向きになれるような事を言ってもらえたのだと思う。
 まだ知り合って僅かな時間しかたっていないけれど、あの先生はそういう言葉を掛けてくれそうな、そういうイメージがある。

 それが具体的にどういう会話だったのかは分からないけれど……あの場に戻ってきた時の雰囲気を見る感じ、少しは安心できそうな感じをしていて。
 今だって本当はもっとへこんでいても良い筈なのに、うまく割り切ってるようにやる事をやってくれている。

 この状況を割り切れるって事は、何か考え方が変わる様な。
 それこそ転機となるような事があの場であったのだろう。

 それを担ったのが自分ではないのが少し悔しいけれど、ユーリにとって大きなプラスとなる事があったなら本当に喜ばしいことだ。
 心からそう思う。

 ……だけどそれはそれとして。

(……これは駄目だ)

 ユーリが平気だったらこれを容認していいのかと言われたら、それはきっと違うと思うし……そもそもきっと、何も大丈夫ではない。

 多分平気ではない。

 ただ、思ったよりも大丈夫そうだっただけ。
 相対的にそう見えるだけだ。

 例え考え方が変わったとして。
 現状の自分をちゃんと前向きにとらえられるような考え方になったとして。
 人間は機械なんかじゃないからそれで全部割り切っていける筈が無い。

 どんな捉え方をしたとしてもどうしたって傷つくような事はあって、何をどうやったって余程の聖人でもなければ大なり小なり承認欲求なんてのはどこまでも付いて回ってきて。

 だから今のユーリはとても無理をしているような気がする。

 ……今まで辛い中で一緒に隣を歩いてくれて。
 自分も辛いのにずっと引っ張ってくれていた友達を……置いていっちゃいけない所に置いていっている気がする。

 だから、このままじゃ駄目だ。

「……」

 なんとかしなければならない。
 今は無理でも。
 今すぐ何かを変えることはできなくても。

 今自分の事しか見てくれてない人達に自分の友達は凄いんだという事を証明したい。

 そして……それ以上に、ユーリ・レイザークという大切な友達自身にもだ。

 その為に何をすればいいのかは分からないけれど、やれるだけの事をやっていきたい。

 そんな風に。

 自分だけが脚光を浴びて、承認欲求を満たしていく中で。

 アイリスは途中から殆どずっと、ユーリの事を考えていた。
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