桜の散歩道

くろねこ

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第四話 成長

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 翌朝、桜と一緒に保育園に行き、園長先生に謝った。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。今後このような事が無い様に桜にはキッチリと言い聞かせますので。」

「いえいえ、私共も桜ちゃんが居なくなると言う事を全く予期していませんでした。これは保育園側のミスとも言えます。桜ちゃんを叱ったりはしてないですよね?」

 園長先生は優しく。桜を保育園ではこれ以上預かれないと言われる事も覚悟していたのだが、その事には一切触れる事が無かった。

「はい、桜は自分が悪い事をしたと言う認識がありません。怒っても理解出来ないだろうと言う事は精神科の先生からも言われてますので。」

「その対応で間違って居ません。桜ちゃんには保育園側からも一人で出歩かない様に指導して行きます。これはお母さんと連携を取りながらでなければ意味がありません。」

 その後桜が保育園から居なくなる事は無くなるのだが、興味を引く物を見つけるとそちらに誘惑される癖は卒園まで治らなかった。

 保育園と療育のお陰で桜はだいぶ成長した。これは誰の目から見ても解る程の大きな成長だ。知らない人が見たら発達障害があるとは解らないかもしれない。

 しかし、親としてはそれはそれで困った事がある。

 桜はもうすぐ小学生になる。しかし、他の同年齢の子達に比べるとその知能は遥かに幼い。見た目と行動が共わない事もあるので、一緒に買い物などをしていると奇異の目で見られる事がある。

 桜はそれに気が付かないが、私にはその憐れむような目が酷く不快に感じられる事がある。

 桜のそれは個性だ。決して憐みの視線を向けられるような事では無い。そう反論したいのをぐっと我慢する。

 あの事件があった後も桜との週末の散歩は続けている。公園は広く人もまばらなので、桜の奇行を見て顔を顰められる様な場面に遭遇する事は少ない。私にとっても、この散歩は息を抜ける一時であった。

 公園では時間を気にせずに桜の自由にさせる様にした。時には花壇の前で1時間もじっと花を眺めている時もあるが、あえてそれを止めたりする事はしない様にした。

 それでも、ここ数年で桜が大きく成長したのは間違いない。今ではある程度の意思疎通が可能になり、桜が何を考えて居るのか少しわかる様になってきた。

 さて、ここで一つ問題が発生する事になる。桜の進路についてだ。

 普通の小学校の養護学級に行くか、支援学校に行くかで悩む事になる。

 私としては手厚く見て貰える支援学校を希望しているのだが、旦那や上の子達は反対している。旦那が言うには桜が支援学校へ行く事で他の2人の子供がいじめにあうのでは無いかと心配している様だ。

 上の子達も桜の事情は理解していても、やはり支援学校に対する偏見がある様だ。

「普通の小学校の養護学級じゃ駄目なのか?わざわざ遠くの支援学校へ入れれば、上の子達の面倒が疎かになるのは目に見えているじゃ無いか。桜が幸せになれば他の子達はどうでも良いと言う考えなのか?」

 旦那にそう言われた時はショックだった。もっと桜の事を理解してくれている物だと思っていた。

 確かに、支援学校に入れれば行きと帰りにお迎えが必要になる。だがそれは、保育園でも一緒だったはずだ。桜が小学校に入る時には楓は中学1年生、樹は小学6年生だ。疎かになる程面倒がかかる年齢では無い。

 恐らく旦那のそれは言い訳で、実のところは自分の子が支援学校へ行くと言うのが恥だと思っているのでは無いかと思っている。

 私は家族の反対を押し切って、桜を支援学校へ入れる準備を進めた。精神科医の先生や、保育園の園長先生からもその方が良いと言われて居たのが大きかった。

 この頃から、旦那の言葉の中に離婚を匂わせる物が少しずつ出る様になっていた。

「支援学校に入れる位なら、施設に預けてしまった方が君も楽になるんじゃないか?」

 そう言われた時は流石に私も切れて、桜を連れて実家に帰る事を本気で考えた程だ。だが、無邪気な桜と対していると、そんな気持ちも晴れるのであった。

 桜は基本マイペースな子だ。もしかしたら私の方が桜に依存しているのでは無いかと思う事もあった。この子は自分が責任を持って育てないとイケないと無意識のうちに桜の発達障害を自分の責任だと思い込んでいたのかもしれない。

 やがて、桜は支援学校へ進学し、上の子達もそれぞれ進学する。

 だが、この頃の私たちは皆が違う方向を向いていたと後になって気が付く事になる。

 特に長女の楓は私が忙しい時等は家の事をやってくれたりしていて、とても良い子に思えた。だが、それは私が居なくても困らないと言う意思表示だったと言う事にこの時の私は気が付かなかったのである。

 旦那は仕事が忙しい事を理由に帰る時間がどんどん遅くなって来た。

 樹は私に甘える事が少なくなり。若干反抗期気味になって来た。

 私達家族は崩壊寸前だったのである。だが、誰もそれを口にする者は無く。私も気が付かないままだった。

 そして、第二の事件が起こるのであった。

 
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