ホテルのお仕事 〜心療内科と家を往復するだけだったニートの逆転劇〜

F星人

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モバっぽい?

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 エレベーターの、指紋や脂が着いた箇所にスプレーをかけて、拭き上げタオルで拭く。

 それを繰り返して、徐々に全体を吹き上げていった。

「ふう……」

 二十五階に上がり切ったところで、大きな鏡を拭き終えた。

 しゃがんだりして色んな角度から見ても、目立った指紋はもう着いていない。

(よし、次)

 このエレベーターには三か所ボタンが設置されている。

 扉側のスタンダートな場所と、両壁に一つずつ。

 エレベーターにゲストが乗ってこないかどうかに気を付けながら、俺は中腰で指紋を綺麗に拭いていく。

(なんかモバみたいだな)

 俺は笑ってしまっていた。

 モバもそうだ。

 攻めてきている敵や、攻めようとしている味方を見ながら行動しなければならない。

 エレベーター清掃の場合、ゲストが乗ってくる可能性を考えて、エレベーターが止まったら扉側のボタンのすぐ傍まで行き、タオルと衛生検査官を後ろ手で持って外を確認。

 ゲストが乗ってこないと分かったら、扉がしまるまでのインターバルの間に急いで清掃に戻る。

(いや、モバのがムズかも……)

 ゲームキャラというのは、どうしても自分がしたい行動を百パーセント再現できるものではない。

 回線が不安定だったり、操作ミスだったり。

 でもエレベーター清掃は違った。

 生身の自分を操作しているのだから、その誤差は生じ得なかった。

 むしろ生身の方がゲームキャラより速く動ける。

(これ、もしかしたら向いてるかも)

 二十八階に上りきるまで、俺は全ての指紋を拭き終えていた。

 

 
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