ホテルのお仕事 〜心療内科と家を往復するだけだったニートの逆転劇〜

F星人

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タイム!

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「そういえば、タイムカード的なのって無いんですか?」

 二階の事務所に戻ったとき、俺は鞘師さやしさんに聞いた。

「あっ、そうでした。ちょっと待ってて下さい」

 鞘師さんは、貴重品をしまうロッカーから新しいタイムカードを出した。

「ここに『六月』と書いて下さい。あとお名前もフルネームでお願いします」

「はい」

 俺は両面に『六月』とフルネームを書いた。

「本当はそこの機械に通すんですけど、今日は僕が日付と時間を書きます」

 俺は鞘師さんにタイムカードを渡した。

「まあ、八時から十二時ってことにしますね」

「え? いや、それはまずくないですか?」

 焦って俺が言うと、鞘師さんは「大丈夫ですよ」と笑った。

「何か言われたら僕が責任取りますんで」

 言いつつ、鞘師さんは日付の隣にシャチハタの印鑑を押した。『鞘師』の赤い文字が印される。

 そのタイムカードを、鞘師さんは壁にかかったタイムカード入れのポケットに刺した。

「じゃあ、お疲れ様です。土曜日は実際にエレベーター清掃してもらいますので」

「あ、はい、分かりました。今日はありがとうございました」俺は一礼した。

「いえ、こちらこそ」

「じゃ、じゃあ、お先に失礼します」

「はい。お疲れ様です」

 面接のときと同じように、バイト中も何かいろいろなことがありすぎて、倒れるかもと考える余地も無かった。

 ドクター中田が言った通りだった。

 とにかく俺は、バイト初日を無事終えることが出来た。

 その弾みが、この先、思った以上の『自信』に繋がることになる。
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