ホテルのお仕事 〜心療内科と家を往復するだけだったニートの逆転劇〜

F星人

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魔法の言葉

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 物置のような部屋で、サヤシさんと二人っきり。

『とりあえずそのサヤシさんには、まず第一にキミの年齢を伝えてあげて』

 そのドクター中田なかたの良くわからない助言。
 ここで言うべきだろうか。

「あ、あのー」

「……何ですか?」

 そんなに敵意のこもった目で睨み返さなくても……。

和泉いずみです。よろしくお願いします。あ、ええと、出身は山梨で、今年で31歳です」

 ここで何故かサヤシさんは、分かりやすいように目をギョッと見開いた。

「え、さ、え、31ですか?」

「あ、はい、年は31歳です」

「え、あ、ごめんなさい」

 何故か謝られた。

「てっきり年下かと」

 言うと、何と信じられないことに、サヤシさんは顔を真っ赤にさせたのだった。何かを恥じるように。

「いやスミマセン、ほんとに年下かと思って」

「え、そうなんですか?」

 俺が笑ってしまうと、つられるようにサヤシさんも微笑んだ。

「ああ和泉さん。僕はサヤシです。刀を収める『鞘』に、師範の『師』って書いて鞘師さやしです。よろしくお願いします」

 またも信じられないことに、鞘師さんはぺこりと丁寧に一礼したのだった。

(ええええ……、なんだこれ……)

 とにもかくにも、鞘師さんから俺に対する敵意は完全に無くなったのが分かった。

『とりあえずそのサヤシさんには、まず第一にキミの年齢を伝えてあげて』

 聞いた通りに言ったら状況はがらりと良い方に向かった。

 ……なんかよう分からんけど、スゲー。スゲーよドクター中田。

 まるで魔法だ。

 マジで何でこうなったんか分からんけど。

 

              
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