6 / 31
荒療治
しおりを挟む「バイト決まった?」
「いえ、まだ……」
「まあ昨日の今日だしね」
へっへっへっへっとドクター中田は笑う。やっぱりジミー大西に似てるな。
「あの、その……」
俺は前から考えていた策を言うのにためらっていた。これを言ってしまえば、後戻りできないから。
「あの……ちょっと僕に制約というか、覚悟を決めさせてもらいたいというか……」
ドクター中田はニッコリと笑って続きを促す。
「もうこのままは嫌っていうか……。だから……。次までにバイト決まらなければ、僕に罰ゲームを科してください」
言ってしまった。バンジージャンプを飛んでしまった。
今、空中に居る。
「へっへっへっへっ。良いよ。でもその前に、好きな歌を教えてくれる?」
「好きな歌?」
「うん、一番好きな歌」
一番好きな歌……か。
一番だったら、やっぱり、
「SMAPの『世界に一つだけの花』です」
「分かった。じゃあ次までにバイト決まらなければ、渋谷駅前でそれ歌おうか」
「……え? え? え?」
俺は何度も「え?」を繰り返すしかなかった。
「和泉さんが言ったんだ。罰ゲームくださいって。和泉さんの場合、ドーンと背中を押さなきゃ行動に起こさないから」
見透かされている。
初めて会った時もそうだった。
俺が白紙に書いた木の絵を見て『もしかして心配性?』と、ドクター中田は一発で俺のことを見抜いたのだ。
「安心して、ボクも同伴するから」
そういう問題ではないのだが……。
「渋谷駅前で歌う、か……」
「どう? バイト決めるほうが簡単でしょ? 大丈夫、朝と夜にデプロメールを飲んで、倒れちゃいけない時の三十分前にワイパックスを飲めば倒れることはないから」
「絶対?」
「絶対。和泉さんはバイト中でも絶対に倒れない。血のことを考えても倒れない。ボクが言うんだから間違いない」
「本当ですか?」
「本当に、絶対に倒れないよ。もし倒れたらボクが駅前で歌ってあげるよ」
「……『世界に一つだけの花』を?」
「それはボクが決めるよ」
へっへっへっとドクター中田は笑う。
「じゃあ次の診察は三週間後くらいにしようか」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる