ホテルのお仕事 〜心療内科と家を往復するだけだったニートの逆転劇〜

F星人

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荒療治

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「バイト決まった?」

「いえ、まだ……」

「まあ昨日の今日だしね」

  へっへっへっへっとドクター中田なかたは笑う。やっぱりジミー大西に似てるな。

「あの、その……」

 俺は前から考えていた策を言うのにためらっていた。これを言ってしまえば、後戻りできないから。

「あの……ちょっと僕に制約というか、覚悟を決めさせてもらいたいというか……」

 ドクター中田はニッコリと笑って続きを促す。

「もうこのままは嫌っていうか……。だから……。次までにバイト決まらなければ、僕に罰ゲームを科してください」

 言ってしまった。バンジージャンプを飛んでしまった。

 今、空中に居る。

「へっへっへっへっ。良いよ。でもその前に、好きな歌を教えてくれる?」

「好きな歌?」

「うん、一番好きな歌」

 一番好きな歌……か。

 一番だったら、やっぱり、

「SMAPの『世界に一つだけの花』です」

「分かった。じゃあ次までにバイト決まらなければ、渋谷駅前でそれ歌おうか」

「……え? え? え?」

 俺は何度も「え?」を繰り返すしかなかった。

和泉いずみさんが言ったんだ。罰ゲームくださいって。和泉さんの場合、ドーンと背中を押さなきゃ行動に起こさないから」

 見透かされている。

 初めて会った時もそうだった。

 俺が白紙に書いた木の絵を見て『もしかして心配性?』と、ドクター中田は一発で俺のことを見抜いたのだ。

「安心して、ボクも同伴するから」

 そういう問題ではないのだが……。

「渋谷駅前で歌う、か……」

「どう? バイト決めるほうが簡単でしょ? 大丈夫、朝と夜にデプロメールを飲んで、倒れちゃいけない時の三十分前にワイパックスを飲めば倒れることはないから」

「絶対?」

「絶対。和泉さんはバイト中でも絶対に倒れない。血のことを考えても倒れない。ボクが言うんだから間違いない」

「本当ですか?」

「本当に、絶対に倒れないよ。もし倒れたらボクが駅前で歌ってあげるよ」

「……『世界に一つだけの花』を?」

「それはボクが決めるよ」

 へっへっへっとドクター中田は笑う。

「じゃあ次の診察は三週間後くらいにしようか」

 

 
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