ホテルのお仕事 〜心療内科と家を往復するだけだったニートの逆転劇〜

F星人

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究極の『病は気から』

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 大学で、初めて受けた講義中のことだった。

 大学の座席は一列に多くの人が座れるようになっている。ので、履修必須科目等の講義だと何処も一列生徒で一杯になる。

 俺は真ん中の席に座ることになり、両隣、端から端まで人が座っていた。

 そう、もしトイレに行きたくなったら他の人全員に席を立ってどいてもらわなくてはならない状態になったのだ。

 そこで俺はこう考えてしまった。

『この状況で、貧血とかで倒れたり、トイレに行ったりできない』

 と。
 血のことを考えないように、倒れないようにとどんどん考えてしまい、結果、俺は貧血を起こして倒れてしまった。

 そのあとは覚えていない。確か救急車に乗らされて、気づけば病室にいた。

 あれから俺は『倒れた人』と言われているのではないかと思い、履修必須科目は人の少ないものにして、なるべく人の少ない講義を履修するようにした。

 そのため友達ができるはずもなく、俺は大学時代のほとんどをマンションと大学を往復するだけの生活を過ごすことになった。

 もちろんバイトもしていなかった。親のすねをかじっていた。

 就職活動なんて出来るはずもなかった。

 ここで倒れてしまったらどうしようと考えて、倒れてしまうことなんて明白だったから。

 このままではいけないと、大学卒業後にバイトに応募した。
 面接は何とか倒れずにいけたから大丈夫だろうと思ったのだが……。

 初日の顔合わせの時に例のごとく血のことを考えたり『倒れちゃいけない』と考え込んで倒れてしまった。

「そういう『病気』があるのなら最初に言ってほしかった。キミなんか採用するんじゃなかった」

 バイト先のお偉いさんはそう言った。それがトラウマになったんだと思う。
 俺はもう、バイトの『応募』すら出来なくなっていた。

 気づけば大学卒業後、約七年、無職でゲームに明け暮れる日々を過ごしていた。

「終わりましたよー」看護婦さんは優しく言った。

 ああ、採血は無事終わってくれた。バイトも向こう向いている間に終わったらなあ。

 
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