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ウルティア国戦役編

198 ナンバー8、ポンコツを拗らせる

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 ナンバー8を守るように転移して来た3体の愛砢人形ラブラドールの姿は異様だった。
良く言えば獣人だが、悪く言えば人に獣を融合した合成獣キメラだろうか。
それは人の形を取りつつも、本質は獣であり姿も獣寄りだった。
ら3体は謎の組織が製造したホムンクルスベースの男型の愛砢人形ラブラドールだったのだ。

39サク44ヨシ46シロ何してる!
さっさと俺を連れて逃げろ!」

 右半身に負傷を負い動けなくなったナンバー8は、己が助かるために利己的な命令を発した。
それが状況を悪化させるなどポンコツなナンバー8は気付いていなかった。

「わう?」

 白い毛皮を纏った人狼姿の46シロが命令の意図を正確に理解出来ずに首をひねる。
46シロは、転移して逃げる場面だと思っていたが、転移の魔導具の使用許可がないため、どうすれば良いのか判断に迷ったのだ。
組織では転移の魔道具の使用は上司の許可が必要なのだ。
ここで46シロが人語を話せれば、使用の有無を問い質すことも出来たのだが、彼の口は狼のように吻部が突き出しているため、形状的に人語を話すことが不可能だった。
人虎姿の39サク、人豹姿の44ヨシも同様に、ナンバー8の言葉足らずの命令に難儀していた。

 そこへニクによる荷電粒子砲の攻撃が降り注いだ。
しかし、そこは獣、優れた反射神経で44ヨシが次元空間壁を展開し、それを防ぐ。

「がう!」

 39サクが指さす先にも、ゼータ5が走って来ていた。
その後ろには退避したラムダ3も合流していて荷電粒子砲で狙っていた。

「がお!」

 39サクが牽制で荷電粒子砲をゼータ5に撃つ。
それはゼータ5が防御型であることを知っていての行動だった。
相手が防御している間に行動方針をナンバー8に決めて欲しいというのが本音だ。
しかし、ポンコツなナンバー8は、そのことに気付かない。

「わう!」

 46シロは仕方なくナンバー8を担ぐと撤退を開始した。
その頭の中では「どこへ?」という疑問符がずっと出続けていた。

「あー、もう!」

 そこへ【隠密】スキルで身を隠し、ずっと黙って経緯を見守っていた黒「ろ」の23番が口を挟んだ。
彼女には彼らに対する命令権はないのだが、ナンバー8が追認してくれれば行動を促すことは出来る。
黒「ろ」の23番は、その場からさっさと逃げ出したい欲求を抑えて、組織のためにと行動に移したのだ。

「その人形も回収して! ナンバー8、そうですよね?」

「あ、ああ」

 ナンバー8が頷くことで、39サクも黒「ろ」の23番の命令に従って行動に移すことが出来、ガンマ1を担ごうと接近する。

「がう!」

 しかし、上空からニクの荷電粒子砲が降り注ぎ、接近することが儘ならず、思わず首を横に振り助けを求めた。

「しょうがないわね。
人形はあきらめましょう。
ナンバー8、良いですね?」

「ああ、そうだな」

 いちいち面倒だった。
これでは臨機応変に行動にうつすことが出来なかった。
ここはナンバー8を逃がすことに集中するべきだと黒「ろ」の23番は判断した。
しかし、黒「ろ」の23番は、彼らが転移の魔導具で逃げられることを知らなかった。
ナンバー8がそれを指示しないので、出来ないものと思っていたのだ。
簡単に逃げる手段を持っているのに、それを使わない、つまり出来ないものと判断していたのだ。

「これはちょっと面倒すぎるわね……。
ナンバー8、指揮官負傷につき、私に指揮権を預けてください」

「ああ、そうだな」

 ナンバー8は大量出血による貧血で判断力が無くなっていた。
そのため黒「ろ」の23番の問いかけに何も考えずに許可を出した。
これが幸か不幸かナンバー8の命を繋ぐことになるとは本人も思っていなかった。

「わおーん!」

 46シロが叫び、注意を促した先には、増援を連れて来たカナタの姿があった。
カナタは愛砢人形ラブラドールを新たに3人連れて来ていた。
試作飛行型のデルタ、第2期量産型のイオタ、そして最終量産型ミューの指揮型であるニューだ。
これにニクアルファ、ガンマ1、ラムダ3、ゼータ、シータ、イータを加えた9人を、黒「ろ」の23番と46シロたちは相手にしなければならなかった。
いや、倒れているガンマ1を抜いた8人か。
それでも戦力は倍以上の差があるのだ。

「ガンマ1!」

 カナタの叫びが戦場に木霊する。
カナタは血を流し倒れ伏したガンマ1を目撃したのだ。

「全員、ガンマ1を助けることに尽力せよ!
そのために取れるすべての手段を講じるように」

 カナタの命令は愛砢人形ラブラドールに対して無制限の行動の自由を与えるものだった。
ここがナンバー8とカナタの大きな違いだった。

「「「了解しました」」」

 カナタが連れて来たデルタが強化外装の飛行ユニットで空を飛び、イオタが加速装置を起動して加速を開始する。
残念ながらニューは指揮型のため、部下となるミューが存在しないと、その性能を最大に発揮することが不可能だった。
ニューはガンマとシータとミューを足して三で割ったような性能なのだ。
ミューに劣る戦闘装備しかないが、それでも戦闘参加するために走り出した。
イータもゼータ5に守られながら、ガンマ1へと救護のために接近した。

「チャーンス!」

 黒「ろ」の23番には、カナタの命令が聞こえていた。
その命令はガンマ1という負傷した愛砢人形ラブラドールを助けることがメインとなっていた。
となると、こちらの撤退には戦力を割かない可能性があった。

「ナンバー8、撤退するならどこに行けばよい?」

「ダンジョンの拠点……」

 黒「ろ」の23番は、ナンバー8のその言葉に、頭の中で撤退作戦を構築した。
出来る女だった。

46シロは、そのままナンバー8を担いでダンジョンに向かえ。
44ヨシは次元空間壁を展開し、ナンバー8を砲撃から守れ。
39サクは接近する敵へ牽制砲撃を続けろ。
全員一体となって撤退する。いくぞ。GO!」

 3体の人獣型愛砢人形ラブラドールは、黒「ろ」の23番の命令を受け撤退を開始した。
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